892:覚悟を決めて会おう。
「では姫様、こちらへどうぞ」
私たちが入ってきたのとは違うドアだな。
さっきまで無かったし、今新しく開けたんだろう。
「部屋ごと連れて行ってはくれないんですね?」
お姉ちゃんがなんか贅沢な事言ってる。
あぁ、「姫様を歩かせる事になるけど良いの?」って事か。
「うふふ。私としてはそうしたい所なんだけど、あまり奥に連れ込もうとしたらそっちの二人に叱られちゃいそうだから」
「ま、一応な」
あー、まぁ知ってる人とはいえ、良く解らない生き物のお腹の中だもんなぁ。
中に入ってる時点で、ここもちょっと奥も大差ないとは思うけど。
……いや、でもこの二人なら、もしジェイさんがおかしくなったりしても普通にぶち破って脱出しそうだな。
「この位置なら問題無い」って言える深さが有るのかもしれない。
「それに、代わりに向こうに来てもらえば問題は無いから」
「姫様を中心に物事を動かすのは、当然の事だからね」
ディーさんがなんか言ってる。
普段は割とまともなイメージが強いから、なんか変な感じだな。
いや、まぁ立場的には何も間違ってないんだろうけどさ。
むしろこんな気軽に出歩いてるのがおかしい偉さの人だし。
「って、もうその向こうに呼んでるんですか?」
「ええ。さっきまで自由にしてもらってたけど、今から入るって言っておいたわ」
あ、もう待機してもらってるんだ。
「ふむ、それなら待たせては悪いな」
「そうですね。行きましょうか」
歩き始めるアリア様と並んでドアの方へ。
とりあえず、心の準備はしておこう。
多分無駄になるけど。
「ドアの先は狭い足場になっておりますので、お気を付けください」
短い通路の途中で、ジェイさんが何やら警告をしてきた。
「む?」
「手摺りは付けてありますので落下の危険は無いと思われますが、念の為」
「ふむ、気を付けよう」
……落下?
なんでそんな高い位置に出すんだ。
必要も無いのにアリア様を危険に晒す事は無いだろうから、そうする必要が有るって事だよね。
……もっと良いお詫びの品を用意した方が良かったんじゃないか?
というか知らずに勢いよく落ちていったとしても、余裕で助けられそうな人が二人も居るし、ジェイさんもその辺から触手を生やせば落ちない様に支えられるよね。
まぁ事故が無いのが一番だし、注意しておくに越した事は無いか。
「さてさて、失礼するぞ」
あ、待ってアリア様。
そんな気軽に行かれたら私の覚悟が足りないよ。
いつまでたっても足りる事は無いけど。
「お呼び立てして申し訳ありません、アリア様」
「まぁ、そう硬くなるな」
「呼んだのは私なんだから、シャルロットちゃんは気にしなくて良いのよー」
良いのかな?
まぁアリア様も「うむ」って言ってるし、良いんだろう。
しかしシャルロットさん、パッと見た感じは普通に見えるな。
……手摺りっていうか、低い壁の向こうに居る事以外はだけど。
「ふむ、そちら側はどうなって…… んんん?」
なんか手摺りに近付いていったアリア様が、向こう側を覗き込んでめっちゃ怪訝な声を上げてる。
とりあえず妙な事になってるのは判ったから、覚悟を決めて見に行くとしよう。
「どうも、こんばん……」
「うっわー……」
言葉に詰まってしまった。
隣でアヤメさんも「やっちゃった」って感じの声を上げてる。
うん、何あれ。
シャルロットさんの上半身が、巨大な茶色っぽい何かの上に乗ってる……というか生えてる?
いやいや、ちょっと下側がデカ過ぎない?
「おー、すっごい」
「とてつもなく巨大ですが、恐らく馬……ですわよね?」
「うん…… ケンタウロス、ってやつなのかなぁ……?」
「ただなんと言いますか、バランスが…… 少し……」
皆も見える位置まで来て、開いた口が塞がらない様子になってる。
とりあえずレティさん、これは「少し」ではないでしょ。
私からじゃサイズに差があり過ぎていまいち判りづらいけど、この足場って多分人間サイズで三階くらいの高さだよね。六メートルくらい?
それと同じくらいの背が有る巨大な首無し馬の首の代わりに、元々小柄なシャルロットさんの上半身がちょこんとくっついてるんだから、不自然なんてもんじゃないよこれ。
「そ、そんな引かないでくださいよぅ」
「いやぁ、そりゃ無理ってもんだろ」
ちょっと反応がショックだったのかしょんぼりと言うシャルロットさんに、ジョージさんが苦笑して答えてる。
うん、無理ってもんだよ。
引いてるかはともかく、変な反応になるのは仕方ないと思うよ。
ただのケンタウロスになってたならまだしも、どう考えても上下のバランスがおかしいもん。




