870:逃げようとしてみよう。
「……ん?」
「どうしたの?」
アヤメさんの口から、何やら訝しげな声が。
「いや、何でもない。それじゃシルク、帰るとしようか」
「アヤメさんも無関係ではありませんよね?」
「……勧めたのはあんただろ?」
「だとしても、ですよ」
あー、小さいまま研究所に行く羽目になるって事に気付いたのか。
いやー、まぁ確かにシャルロットさんと関わりが無いわけじゃないけど、どっちかって言うと責任はレティさんの方に有るよね。
一緒に居たのに何も言わなかったって意味では、あながち無罪とも言い切れないけど。
……あ、それは私もか。
いや、でも私が言ってもシャルロットさんには聞こえないしセーフセーフ。
普通に通訳してもらえるけど、そこも忘れておこう。
「絶対変な目に遭わされるじゃないか……」
「あー、いや、そうでもないと思うよ」
「え?」
「だってジェイさん自体が元々かなり大きいから、人間サイズだろうと【妖精】サイズだろうと大差ないだろうし」
「……あー」
私の言葉に、アヤメさんが納得した様な声を出す。
実際向こうから見れば、程度の違いだけで「小さい」事には変わりないだろうしね。
「それをネタにからかわれはするかもしれないけど、アヤメちゃんの場合はおっきくても同じだしねー」
「だから元々、あんまり行きたくないんだけどな……」
うん、まぁアヤメさん、普通に行っても遊ばれるよね。
別に特別な事をしてる訳ではないっぽいのに、妙に色々と好かれる人だよなぁ。
まぁ色々の半分くらいは、アヤメさん的にはお断りしたいところなんだろうけど。
いや、なんだかんだで結局許してるし、そこまででもないのかもしれない。
多分本人に聞いたら否定するだろうけどね。
「まぁ私も気にならないって言ったら嘘になるしな……」
ため息を吐きつつ諦めの言葉を呟いてる。
っていうか、さっきからウサ耳の上でラキがごそごそしてるけど、くすぐったくないんだろうか。
ちょっと慣れてきたのかな?
しかしいくらラキが軽いって言っても、よく上の方にくっつかれて曲がらないな、あの耳。
あ、ちょっとへにゃってなった。
……なんかアヤメさんが軽く力を入れたと思ったらピンと立ったけど、気合で何とかなるもんなの?
いや、うん、何とかなってるんだからなるもんなんだろう。
深く考えても無駄だな。
そもそも【妖精】の翅も、多分あんまり他種族の事は言えないんだろうし。




