844:気を利かせてあげよう。
「ま、それはともかくとして」
よし、まともに戻ってくれた。比較的だけど。
「ちぇーって顔してたら、おねーさんがちょっと妥協してくれてね」
「変な所で良い人だな……」
「っていうか仕事がアレなだけで、普通に良い人っぽいけどね。質問にもちゃんと答えてくれるし」
「あー、確かにそうなのか?」
答えるって言ってもジェスチャーとかでだから、出来るだけって所だろうけどね。
まぁその手間を面倒臭がらずにちゃんとやってくれるんだから、そこは良い人って言って良いのかな。
「つーか妥協って、何をしてくれたんだ?」
「おねーさんが『仕方ないなー』って顔して端末をちょいちょいしたら、天井から電車に有る様なつり革が伸びてきてね」
「相変わらず私の体はどうなってるんだ……」
無駄に自由度が高すぎない?
いや、もう何でも有りって認識で良い気もしてきたけど。
「掴まれって事だろうからぶら下がってみたら、その状態で足がちょっとだけ浮くくらいの高さに調整してくれたよ」
「……なんだその変な気の利かせ方は」
「立ってるままだと、足が溶けたら転ばなくてもどんどん下りていって、すぐ全身が溶けちゃうだろうからねー」
「まぁ普通は転んでそのまま床にダイブだわな」
「ぶら下がってればその心配が無いから、ある程度長い時間楽しめるって寸法さー」
「素敵な気遣いですわね」
いや、言ってる事は解らなくはないけど、どうかと思うよ。
「どうせ出てくる量がかなり多いから、そうしててもすぐに頭まで沈んじゃうしね。まー実際はそこまで我慢できなかったんだけど」
「ん? 力が抜けて落ちたか?」
「いやー、いくら気持ち良いって言っても、体は無くなっていってるわけだからね」
「あぁ、そうか」
「それでも結構頑張ったんだけど、心臓が無くなっちゃったら流石に数秒しか持たなかったねー」
「……いや、そこから数秒持つだけでも十分に凄いだろ」
というかそこまで持ってるだけでも相当凄いのでは。
その無駄に強い意思はなんなんだよ。
もっとまともな方向に活かせられれば良いのになぁ……
まぁそういうのは言うだけ無駄か。




