843:交渉してみよう。
「『だいじょぶ?』って感じで、呆れと心配が半々の顔で入り口から覗き込んできてたけど、それだけでも結構なプレッシャーだったしねー」
「まぁ顔だけでこっちの体と同じくらいあるんだろうしな」
ん、ちらっと見られたのはサイズ差の確認か。
「まぁ見え方ってのも有ったけどねー。私サイズの入り口越しに覗いてるから、顔の半分くらいしか見えてなかったし」
「んー…… 確かに」
ちょっと間が有ったのは、どう見えるか想像してたのかな?
まぁ巨人に家を覗き込まれるなんて経験、普通はあんまり無いだろうしね。
「それにあの部屋、出入り口がそこだけだったから逃げ場も無いしね」
「あー、しかも奥まで素通しの間取りだっけ? 視線からも逃げられないのか」
「んだねー。まぁお風呂が有るんだし、一応遮る物くらいは用意できるんだろうけど」
「けど?」
「おねーさんには色んな意味で無駄だろうねー。端末を操作して撤去も出来そうだし、単純に指で突き破る事も出来そうだし」
「……ああ。まぁ確かに、出てこない奴が居たら引きずり出す事も有るんだろうしな」
あんまりよろしくないタイプの施設なんだろうし、そういう事も有るだろうなぁ。
本来の用途で送られる様な人なら、少なくとも最初から素直に従う事も無さそうだし。
いや、サイズ差の時点で諦めて素直になる人は居るかもしれないけど。
「んで話を戻すけど、覗き込んできてるおねーさんに『大丈夫だよー』って手を振ったら、『そっか、よかった』って顔で頷いて」
普通に良い人なのか、お客様に怪我をさせちゃマズいだけ……ってのは無いか。
どうせそのすぐ後で溶かす相手だし。
というかその前にもツッコミでツンツンしてるし。
いや、そっちは怪我をさせない様に注意してやってたみたいだけどさ。
「それから『あ、そうだ』って顔で、入り口の膜をむにっと押してきたんだよね」
「何の用だったんだ?」
「おねーさんの私への気遣いかな。『最初のガス、どうするー?』って、ジェスチャーで聞いてくれた」
「……あー、そういやどういう奴かは確認してたんだったか」
あぁ、最初に来た経緯を調べて、ちょっと引いてたんだっけ。
「うん。まぁ当然ながら『無しでお願いしまーす』って返事したんだけど」
「当然か?」
「当然だよね」
「当然ですわ」
「そいつが同意するって事は普通じゃないって事だな」
言いたい事は解るけど、カトリーヌさんって割とまともな事も言うから、そうとも限らないんだよね。
まぁこれに関しては普通じゃないって判断で良いと思うけど。
「ありがとうございます」
「褒めて……ないから逆に良いのか、こいつの場合……」
「どうせ褒めたら褒めたで普通にありがとうって言われますよ」
「そうだよな」
顔に面倒な奴めって書いてあるよ、お兄さん。
否定する材料が無くて私には何とも言えないけど。
「ついでにじっくり楽しみたいから、消化液を薄めに出来ないか聞いてみたんだけど」
「ふーん」
あ、お兄さんがとうとうツッコミを放棄した。
私は引き継がないぞ。
「おねーさんの反応を要約すると『出来るけど今はダメです』だったね」
「出来るのか……」
あ、結局反応しちゃった。
「うん。『だめー?』って重ねて聞いてみた時の反応をまとめると、『あなたはご主人様をお待たせしてるんでしょう』って感じかな」
「……ん? いや、それはそうなんだろうけど……」
「うん、『帰っちゃうのー?』って顔してた人の言う事じゃないのは確かだよね」
……どういう基準なんだろうな。
さっさと帰れって言う割に、事前に処理方法を一回見せてもいるし。
そこの説明は必要な手順だっていうルールでも有るのかな。
「要するに、今度遊びに来た時にいくらでもやらせてあげるから、今日は大人しく帰っときなさいって事かなー」
「まぁそれなら少しは納得が…… いくか?」
お兄さんが首をひねっている。
まぁ、何も無いよりはまだマシなんじゃないかな。
ツッコミ所が解決されてない事に変わりは無いんだけど。
「やー、次が今から楽しみだねー」
「それ、私の体の中だからね?」
一応「多分」ではあるけど。
「だいじょーぶだいじょーぶ、ちゃんと解ってるよー」
「本当かなぁ……」
いや、解ってるから入ろうとしてるのは解ってるけどさ。
もうちょっと遠慮とかしようよ。
「ゆっくり溶けちゃうのもだけど、お話してる時の角度次第で、入り口からおねーさんの綺麗な口元だけが見えたりしてるとさー。ほら、そっちにも飛び込んでみたくなっちゃってきてさー。解るでしょー?」
「解りま」
「解らないよ」
同意しなくて良いんだよ、カトリーヌさん。
別に気を遣ったんじゃなくて本心から同意してるんだろうけど、しなくて良いんだよ。
あとエリちゃんは少し落ち着きなさい。
というかおねーさんのためにも、エリちゃんは送り込まない方が良いんじゃって気がしてきた。
どうせなんやかんやで送らされるんだろうから、考えるだけ無駄だけど。




