1623:調理器具になろう。
「さてさて、それは良いとして」
ん?
「お楽しみの時間だよー」
「……何が?」
唐突に何だっていうんだ、お姉ちゃん。
特にそういう予定は聞いてないぞ。
「……あぁ」
「ん?」
「スキルの確認だろ。今日は何やらかしたんだ?」
「いや、やらかしてる前提で訊かれても困るんだけど……」
というかその質問はスキルの話じゃなくない?
まぁ「変なのを覚えた」事を「やらかした」って言うなら合ってるか。
「まともな時の方が少なくないか?」
「……まぁ、うん、それは否定出来ない」
平和に何も無い一日を過ごせた覚えも無いしね。
というか実際、過去一番に碌でもない魔法を習得しちゃってるし。
まぁいくつか増えたのは確かだし、まともなやつから披露するとしようか。
「とりあえず【吐息】で増えたのが、【燻蒸吐息】と【燻煙吐息】と【燻香吐息】かな」
「エリちゃんに吹いてたのが燻蒸かな?」
「そうだね。蒸気と煙と、あと香りだね」
「最後のは併用出来るのか?」
「ん? あぁ、試してないけど多分出来るんじゃないかな」
というか香りに限らず、【妖精】がやろうと思えばどれも好き勝手出来そうだし。
まぁおかしな事になる可能性が高いから、迂闊に試そうとしない方が良いと思うけど。
「雪ちゃん、見せて見せてー」
「あ、うん。……何を出してるんですか、何を」
「肉だが」
「いや…… うん、まぁ良いですけど……」
小さく切った牛肉を細い鉄串で刺した物ってのは、見れば判る事なんですよアリア様。
私が言いたいのはそういう事じゃないんですよ。
「それじゃ、手は動かさないでくださいね?」
「うむ」
うっかりしてアリア様の手に蒸気がかかるとマズいので、串を持った手の側から蒸気をぶおーっと。
【妖精】の魔力で普通に吹いたら大変な事になりそうだから、ある程度弱めから初めて様子を見つつ上げていこう。
「おー、凄い凄い。良い感じに温まってるね」
「そのサイズならもう良いんじゃないか?」
あ、そうか。
私から見れば結構大きな塊だけど、普通の人から見れば一センチくらいの切れ端だもんね。
それなりの高温で吹いてるし、中まで火が通るのにそんな時間はかからないか。
「最後に少し、表面に焼き目を頼もうか」
「あ、はい。……ちょっと離れて吹きますから、調整はそっちでお願いできますか?」
「うむ」
追加で火を吹くのは構わないんだけど、上手にやらないと焼き過ぎになりそうだからね。
バーナー役になってアリア様に自分で当ててもらった方が、お肉を無駄にする危険は少ないだろう。
……これ、最初から火で焼けば済む話だよね。
いや、蒸気を出して見せる事が本来の目的なんだから、お肉はあくまでおまけなんだけど。




