1313:違和感を確かめてもらおう。
「それでは失礼します。何か有りましたら、お気軽にお声掛けください」
「はーい」
もっと遊んでいたいんだろうけど流石に叱られそうなのか、ある程度モフったところで引き上げていく。
うん、仕事中だから仕方ないね。
「あ、そうだ。二人ともライサさんについて行って、あっちで他の人達とも仲良くするっていうお仕事をお願い」
「ぴゃっ」
りょうかいっ!と声を上げて、シェラと一緒にライサさんの後ろに付いて行くぴーちゃん。
なんか託児所とかに預ける時の言い訳みたいな感じもするけど、実際好感度を高めておくのは大事な事だからね。
……ライサさん、付いて来てもらって嬉しそうだけどさ。
多分ライサさんはもう受付から離れさせてもらえないと思うよ。
「さて、それじゃ適当に訓練しますか」
「はい」
せっかくなのでというかいつも通りに、このまま訓練に移行しよう。
まぁ訓練するから二人を送り出したんだけど。
幸いというか、表に集まってた人達が中まで見物に押し寄せては来なかったから、のんびり出来そうだ。
あれだけ居たんだからちょっとくらいは入って来そうなものだけど、何か変な圧力でも有ったんだろうか。
……んん?
【血肉魔法】の訓練だと言い張って負傷しようとするカトリーヌさんを抑えたりしつつ訓練を続けてたら、何やら口の中というか舌に違和感が。
でもこの感覚、ちょっとだけだけど今朝にも有った気がするし、急に今何かが出来たとかいう訳でもないのかな?
「どうかなさいましたか?」
「んー、なんか違和感がね」
ちょっと舌をもごもごしただけで、すぐにカトリーヌさんに感づかれた。
そんなにこっちを注視してた訳でもないのに、相変わらず無駄に聡い人だなぁ。
「口内炎か何かでしょうか?」
「いや、痛みは無いんだけどね。舌の先の方に、微妙に変な感じがしてさ」
というかこのゲームって口内炎になったりもするんだろうか。
しかも普通の生き物ならともかく【妖精】が。
まぁ今実際に口の中が変な感じになってるんだし、そうだとしても不思議では無いだろうけどね。
どうせ口内炎なんかよりもっとおかしな何かが起きてるんだろう。
そのくらいの予想はついてるんだぞ。
……どうせ予想の斜め上を行かれるだろうって事もね。
「少し見せていただいても?」
「良いけど、見て判るもんなの?」
「……」
いや答えてよ。
まぁ少なくとも私が自分で見るよりはマシだろうから、任せてみよう。
特にカトリーヌさんが暴走する様な状況じゃないんだし、まともな時なら信頼できる人だもんね。
んべーと舌をつき出して…… いや結構これ恥ずかしいな。
変な顔してそうだし。
「ふむふむ…… おや?」
「ん?」
え、何か有るの?
不安になるから訝しげな声を上げるのは止めてほしいんだけど。
「何か変になってた?」
「痛みは無いのですね?」
「え、うん。いや、何なの?」
明らかにおかしい事になってるのを、詳細を語らずに匂わるだけに留めないでくれないかな。
「何やら舌先に穴の様なもの……と言いますか、それが閉じた様な、小さなすじが見えましたわ」
「えぇ……?」
両手で左右からぱたんと閉じるジェスチャーと共に、おかしな事を言うカトリーヌさん。
いや、おかしなのは私の身体の方で、カトリーヌさんは悪くないんだろうけどさ。
試しに自分の指で触ってみる……けど、元が柔らかい物だしあんまり判らないな。
ちょっとだけ違和感があるかなってくらいか。
「もう一度見せていただいてもよろしいですか?」
「あー、うん」
お医者さんじゃないとはいえ私よりは色々知ってるだろうし、大人しくカトリーヌさんに任せておこう。
もし【妖精】特有の病気とかだったら、どうせ誰も解らないだろうしね。
「……少し触れてみても?」
「んー」
こっちの同意を得て、両手の人差し指でむにっと舌先を左右に広げてみてる。
「ふむふむ」
どうなってるのか訊きたいけど、今は黙ってた方が良いだろうな。
「やはり小さな穴が空いておりますわね。よくは見えませんが、浅くはない様です」
「んん……?」
そんな事になってるのに全く痛みとかが無いって、逆に怖いんだけど。
私の体に何が起きてるんだ。
「失礼しまぁんっ」
「んんぇぇっ!?」
いやいやいや、え、なにこれ。
舌を上下からむにっとつままれてちょっと驚いて体に力が入ったと思ったら、私の舌の先から何かが飛び出して、カトリーヌさんのおでこに軽い音を立てて命中して後ろに吹っ飛ばしたんだけど。
飛び出した物はどうやら舌先から繋がったままらしく、ボールペンの芯くらいの太さのピンク色の管が、ぷらーんと口から垂れたままになっちゃってる。
いや、本当に何なのこれ。
というかそれより、カトリーヌさんは大丈夫…… みたいだな。
嬉しそうな顔で額から血を垂らしながら、吹っ飛ばされた勢いそのままに縦回転し続けてるし。




