1268:反対側に気付こう。
「それじゃ、準備出来たらアヤメさん連れて出て行くから」
「はいはーい……」
ふらつき気味なお姉ちゃんを解放して、自分の部屋へ向かう。
自業自得だし、少し大人しくしてればすぐに治るでしょ。
とりあえず明日の準備はそれなりに出来てるし、このまま入っても大丈夫だよね。
ギアをかぶって、ベッドに転がって、と。
……んー、相変わらずおふとんがぬくいな。
ちょっとゆっくりしたいけど、頑張って脱出して、と。
なんというか、きっちり体の感覚まで寝起きっぽいのはどうかとも思うんだ。
すぐにシルクを呼ぼうかと思ったけど、ちょっとぐっと背伸びでもして、体をほぐしてからにしよう。
まぁ肩こりとか腰痛とか持ってる訳でもないし、軽くぐいぐいっとやっておけば……
「あー…… っと、悪い」
「……いやうん、その、こちらこそ?」
……うん、もう箱から出てきてるとは思ってなくてさ。
裸の巨体にはだけきったガウン一枚でのストレッチなんてものを、朝一で見せつける様な事をしようとした訳じゃないんだ。
いや流石にこれ、朝とか関係なくアウトだと思うけど。
「準備出来てから呼ぼうかなって思っててさ……」
「割と早いうちから戻って来てたからな」
あぁ、私より少し早く出てたもんね。
いや、そこじゃなくて現実側に長居しなかっただけか。
「ってか昨日は気付かなかったんだけどさ」
「ん?」
「ちょっとめくってみてくれ」
「うん」
ぺらりと天井代わりの布をめくってみる。
出る前に見たのと変わりは無いみたいだけど、なんだろう?
「こっちにも足場が置いてあってさ」
「あ、本当だ」
綿を詰めてベッドにしてたのとは逆の靴の横にも、ちょこんと踏み台が置かれてる。
そっちは特に何も…… ん、よく見たら内側に何か付いてるのか?
あと何の為なのか、小っちゃい布と糸が置いてある。
「何だろ?」
「私も気になって触ってみたんだけどな」
「うん」
言いながら実演するためなのか、トコトコ歩いて踏み台から登り、靴の中に入っていく。
……特に気にせずに入っていくあたり、もう完全に諦めてるな。
「これ、カーテンみたいな物らしい」
内側に留めてあったらしい布をパサッと降ろすと、爪先の部分がカーテンというか薄い幕で遮られた空間になった。
どんな精密作業をあの短時間でやってるんだよ、あの人は。
「……部屋の中に更に個室?」
「だな。流石にカプセルホテルみたいなスペースしか無いけど、そっちが開放的で落ち着かないかもしれないって配慮なのかね」
「どうなんだろう……」
いろんな意味で。
まぁ確かにアヤメさん側の体感だと一軒家が丸々入りそうなくらい開けた空間だし、解らなくもない……か?
置いてある糸が枕代わりで、数枚重ねた薄い布がベッドか。
一応寝具っぽい物が置いてあるって事は、アヤメさんの推測が正解なのかな?
「まぁそれはそれとして、さっさと服着た方が良いと思うぞ」
「アヤメさんが見ろって言ったんじゃないの……」
「悪い悪い」
靴の中に寝転がったままであははって手を振っても、誤魔化されはしないぞ。
そりゃ私だって、こんな変質者みたいな状況はさっさと抜け出したいよ。
いやまぁ自分の部屋で脱いでるんだから、それだけ見ればそこまでおかしいって訳じゃないけどさ。
人、居るしね。うん。




