1096:潜ませてもらおう。
「えーと…… うん、大丈夫大丈夫。怖くないよー」
とりあえず落ち着いてもらうために、背中に回してた右手で頭をなでなでしておこう。
お、結構手触りが良いな。
それにしても、長い割に結構軽いな…… と思ったら、自分で支えてるっぽいな。
ちょっと高い位置に居るとはいえ体が長いから、ほとんど机に乗ったままだし。
んー、多分だけど、私から見て七メートルくらいあるのかな?
長さの割にはちょっと細めな気がするな。
いや、蛇の平均的なバランスとか知らないけど。
「ふむ、なるほど」
ん?
なんかパチンパチンって、細い物を切る様な音がアリア様の方からしてきた。
……なんか細い棒と布を取り出して工作が始まってるけど、何をやってるんだろうか。
はいはい、なんか唐突に始まったけど怖くないよー。
あの音にまで怯えなくて大丈夫だから。
……いや、まぁ状況的には怖がっても仕方ない気はするけど。
何を作るのかも解ってないし。
っていうか、流石に作業が速いと言うか、測ったりとか全然せずに進めてるな。
よくあれで寸法が合うもんだ。
サクサクと組み合わせて枠を作っていって、そこに布をかぶせて貼り付けていく。
さっき私が作ってたみたいな、半球状に近い形になってるな。
「良し。急拵えだがとりあえずは問題あるまい」
おー、バスケットボールを半分に切った様なサイズの何かが出来た。
あ、あれテントか。
なんか平らな面に近い位置に、小さい穴が一か所開いてるし。
小さいって言ってもこっちからしてみれば五十センチはあるし、私でも十分にくぐれるサイズだけど。
「ほらクリスちゃん、アリア様が隠れる所を作ってくれたよ」
ぽふっと置かれたテントに近づいて、おどおどしっぱなしのクリスに入ってみる様に言ってみる。
うん、そんな顔しなくても罠じゃないから。大丈夫だってば。
この長さだと狭くないかなって思ったけど、外周が全長と同じくらいは有るっぽいしそんなことはなさそうだ。
「大丈夫大丈夫。ほら、いってらっしゃい」
そんな捨てられそうな顔しなくても、ちゃんと近くに居てあげるから。
あ、にょろにょろ入っていってくれた。
おー、やっぱ長いなぁ。
しっぽの先まですっぽり収まったと思ったら、丁度一周したのか入り口の端からこそっと顔を出してこっちを見てきた。
はいはい、ちゃんと居るからね。
「随分と可愛らしい子の様だな」
「みたいですねぇ」
アリア様が喋ると同時に一瞬引っ込んで、再度そーっと顔を出してる。
とりあえず大丈夫だよと撫でておこう。
「む? あぁ、気にするな。身を隠せれば少しは安心出来るかと思っただけだからな」
お、偉いぞ。
怖がりつつも、ちゃんとアリア様にありがとうございますってお辞儀出来てるな。
微妙に目は合ってないっぽいけど。
……例によって私と同年代かちょっと上くらいに見えるし、子供扱いするのもどうなんだろうか。
いや、毎度の事だし気にしても仕方ないんだけどさ。
あ、レティさんが静かに立ち上がって、入り口から見える側に移動してきた。
「初めまして、クリスさん。私はレティシャと言います。よろしくお願いしますね」
いつもの穏やかな笑顔で挨拶して、そーっと入り口の近くに人差し指を近づけて静止させた。
お、クリスがちょっと出て来て、両手できゅっと指先を掴んだな。
やっぱり視線は微妙に外してるけど。
これだけビクビクしてる相手に初見で握手してもらえる辺り、レティさんは流石だな。
なんていうか、この人は安心できるって感じのほわっとしたオーラが有るんだよね。
……アヤメさん視点では黒い何かが見えてそうだけど。
あ、手を離して引っ込んだ…… と思ったらすぐに顔を出した。
しかし器用にバックするもんだな。
蛇の体でどうやってるんだ?
「あちらの兎さんがアヤメさんで、狐さんがミヤコさん。熊さんがエリシャさんですね」
レティさんの簡単な紹介に、うんうんと頷くクリスちゃん。
エリちゃんはニコニコして眺めてるだけだし、アヤメさんは脅かさない様に小さく手を振ってるな。
……で、問題はお姉ちゃんだよ。
笑顔で寄ってきてるけど、絶対何かやらかすでしょ。
「えーと…… よろしくね?」
お、意外とまともだ。
しゃがみこんで目の高さをなるべく合わせつつ、静かに挨拶してる。
クリスもいきなり寄ってきた相手に怯えつつも、ちゃんとお辞儀で返したな。
……うん、でもやっぱりちょっと斜め下を見てるっぽい。
内気過ぎるのか、何か理由が有るのか。
私には普通に目を合わせてたから、多分前者なんだろうな。




