1091:なんとなく把握しよう。
「ま、その位が丁度良いのだろうな」
「そうなんでしょうけど、何か有るんですか?」
うんうんと頷いてるアリア様。
何か知ってそうなコメントなので、せっかくだから聞いておこう。
「なにせ、あの術を身に着けて現在生存が確認されているのが、あやつ一人だけだからな」
「えぇ……」
何そのヤバいスキル。
「とは言え実際の所は、帰って来ない理由は様々らしいが」
「と言うと?」
……他にも危険がいっぱいなんだろうか。
正直、高位種族が襲ってくるって時点で完全にアウトだと思うけど。
「理由は色々有るらしいが、そちらの住人と化しているベルが見ていた限りでは、一番多そうなのは迷子だそうな」
「……迷子ですか?」
「うむ」
自分の意思で移動できるのに、帰って来れなくなるの?
いや、まぁ普通の迷子だって自分で歩けるから、そこはおかしくないのか。
「そうだな…… 例えるなら、だが」
アリア様がスッと後ろに手を出すと、コレットさんが分厚い本を差し出した。
パラパラっと開かれたページを見た感じだと、挿絵の入ってる小説みたいな物かな?
……ってこれ、【妖精】のお話なのか。
想像で描かれたからなのか個人差が有るのか、私達とは翅の形がちょっと違うっぽいけど。
「白雪がここに描かれた平面の存在だったとして、だな」
「はぁ」
想像してみろって事だよね。
いつまでも維持してても仕方ないし、分身と障壁を解除してアリア様の前に行っておこう。
「何らかの手段で立体的な体を得て、ここから抜け出したとしよう」
「抜け出す…… はい」
「そこで、だ」
ぱたんと本が閉じられ……
こっちって何ていうんだっけ。
タイトルとか書いてある方は背で良いんだろうけど……
あ、小口って言うんだっけ?
まぁうん、『開いたとき外側に来る方』がこっちに向けられたな。
「さて、白雪の居たページはどこに有る?」
「……あー」
うん、解らないね。
開いてたのを見てたから、その時の左右の厚みから大体は察せるけど、もし閉じられた本から出てきたならお手上げだろう。
「とまぁ、そんな感じで通常では確かめる事も鍛える事も出来ない、『第四の方向』に対する方向感覚が必要になるらしい」
「試すだけでも完全に命がけですね……」
やってみてダメだったら帰って来れないって、覚えても封印しておいた方が良いでしょ。
「少しだけなら大丈夫だそうだがな。さっきの例えで言うなら、ページの端を掴んだまま外の様子を窺うと言ったところか」
「ああ、命綱みたいな感じですか」
「うむ」
栞とか付箋みたいな感じで目印がつけられれば良いんだろうけど、無理なんだろうしね。
「ん?」
「む?」
「って言うか、見てたならベルさんが案内して、連れ戻してあげたら良かったんじゃ?」
「あぁ…… いや、うむ……」
なんかアリア様、いきなり歯切れが悪くなったというか、苦笑いしてる。
「そういうのは出来ないんですか?」
「いや、おそらく本来は出来るのだろうが……」
「あいつにゃ無理ですな」
「……あ、すごい恥ずかしがり屋さんなんでしたっけ?」
確かに、知らない人に接触するなんて無理そうだな。
「おう。なんせアレを習得した動機が『他の人が怖いから』ってくらいだからな」
「えぇ……」
いくらなんでも逃げる方向に頑張り過ぎでしょ。
「あいつは隠密系と空間系能力だけに特化した天才が、その溢れる才能を逃げる事にだけに注ぎ込んだって生き物だからな」
「……仕方ないとはいえ、完全に無駄遣いじゃないですかね」
「おう。あいつ、そこだけなら俺やあの爺ですら比較にならん程の領域に達してるんだぞ」
「いやいやいや」
それはもう人類の枠から外れてるって言っちゃって良いんじゃないのか。
無駄遣いとかそういうレベルじゃないでしょ。




