第75話 ルミ姉さんの誤算
ララの冗談で両親が寝こんでしまいそうな程ショックを受けた日の翌日、その日からはルミ姉さんもララとサハラさんの元へ遊びに来てのんびりとお茶をしたり観光をしたりして数日ほど平和に過ごしました。
しかしついにと言うべきか、やっとと言うべきか、リンディアさんがララに長老会へ出向くようにと言う命令が出されたと言う話しをしに来てくれました。
でも、サハラさん的にはびっくりな事なのですけど、出頭命令とも言うべき物に対してララの答えは――
「お兄様、ありがとう御座います。 近々向かいますね」
――と言うなんだかのんびりした答えだったのでした。
そして近々向かうと言ったはずなのに、ララはすぐには向かわずにそこからさらに三日間もサハラさんやルミ姉さんと遊んで過ごしてから向かいます。
ルミ姉さんもララの両親も命令の内容を知ってて何も気にして無いので、このララの反応は至って普通なことだと言う事がうかがえます。
しかも三日後に向かった理由も、実を言うとなかなか長老会へと向かわないララをサハラさんが(呼び出しをスルーしちゃってるとララが怒られちゃうのです!)と不安に思って“早く行った方が良いと思うのです”と説得したからなのでした。
サハラさんが説得しなかったらいったいいつ出向いていたのやら……ですけど、こんな所でも時間感覚が人族とはかけ離れたエルフ族なので、実は三日で向かうと言うのはわりと早い方だったりします。
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「じゃあサハラ、行ってくるわね」
「はいなのです」
長老会に向かうララをサハラさんは不安げに見送ります。
挨拶をした後はわりと軽い足取りでスタスタと歩いて行っちゃったララなのですけど、当初サハラさんは一緒に行くと言って譲りませんでした。
みんなはちょっと怒られるだけだから大丈夫だとは言っていますけれど、やっぱり何か重い罰でも言いつけられちゃったりしないか心配なのです。
「サハラ、心配しなくても大丈夫よ。 それに一緒に行ったら凄く退屈で辛いと思うわ」
「うぅぅ、でも心配なのです」
「気にしない気にしない、問題無いわよ。 でも、そうねぇ、それじゃあサハラの気が紛れる様に今日は私と出かけましょう」
サハラさんが一緒に行くと言い張ったので困ったララはルミ姉さんにサハラさんの説得と長老会に行ってる間の相手をお願いしておいたので、今日はルミ姉さんがサハラさんと一緒に遊んであげようと来てくれています。
……たぶん頼まなくても来てたとは思いますが。
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そんな訳でルミ姉さんはサハラさんの手を取って里の中をぶらぶらと散歩中です。
黒の森の里は人口こそそんなに多くは無いのですけれど、大きな山一つ分はある世界樹の枝葉の下が全て里になっています。
なので里全体の広さだけで言ったらカララの町よりも全然広いのです。
〈里とそれ以外の場所の境界は三重の結界が張ってあるので外界とはほぼ完全に隔たれています。 サハラさんが酔った迷いの結界と魔物(獣)避けと侵入警報です〉
とは言っても、殆どの場所は草地だったり雑木林だったりで何も無いのですけど、そんな中にポツンポツンと神社の様な社が建っていたり、泉を整備した公園があったり、他にも色々とあるので散歩してるだけでも結構楽しかったりします。
何せエルフ族は寿命が無いと言っても良い位長いので暇にあかして公園とかちょっとした隠れ家的休憩場所とか色々作るのです。
〈掃除などの維持管理は精霊魔法頼みなので楽ちんです〉
その中の一つでちょっと一休みする事にして二人は泉の近くにある木陰のベンチへと座りました。
「さてサハラ、今日は何をしましょうか。 それか、どこかへ行く? 歩きだとちょっと遠いけど丘の上の記念碑公園とか今頃は夏桜が満開だから綺麗でお勧めよ」
「おお~、それは良さそうなのです! でもせっかくだからそこはララが居るときに一緒に行きたいのです……」
「そう、それじゃあ……そうねぇ。 ……なら今日は私の実家に遊びに行きましょう」
「お~、ルミ姉さんのお家ですか!?」
「違うわ、私の実家よ。 もう一緒に住んでる訳では無いけれど、きっと歓迎してくれるわ。 私も久々に帰るんだけどね。 ララエルに面白い話も聞いた事だし、まあ行ってみましょう」
「はいなのです~」
(所でエルフさん的な“久々”ってどれ位の期間なんだろう? それにララに聞いたって話も気になります)
◆◇◆◇◆
と、ルミ姉さんの勢いに飲まれてあれよあれよと言う間にサハラさんはルミ姉さんの実家へ連れてこられちゃいました。
「ここよ。 うちの実家は治療院をやってるから多少は立派でしょ?」
「大きいのです!」
ルミ姉さんが少し自慢げに紹介した実家なのですけど、たしかにその通りでララの実家よりも新しくて、しかも何倍も大きいのでした。(人様の家を比べるなんて失礼です)
とは言っても“医者は裕福だから大きい家”って事で大きい訳ではありません。
たんに治療院としての設備、治療スペースや入院場所があるので大きな家になってるだけなのです。
エルフの里の中はお金とか使ってないですしね。
それはそれとして、ルミ姉さんも久しぶりに帰って来たと言うにもかかわらず、数日前のララと同じ様に何の遠慮も無くドアをノックも無しにいきなり開いて中に入っちゃいました。
しかも治療院側のドアならまだしも、どう見ても勝手口という方をです。
「あ、母さん帰ったわよ。 父さんは?」
入ってすぐの部屋はキッチンリビングになっていたのですけど、そこのテーブルで何か書類仕事をしていた小柄な女の人にルミ姉さんは気安く話掛けます。
その人はララのお母さんと比べてもさらに若々しくて十代中頃にしか見えないのにルミ姉さんのお母さんらしいです。
下手をすれば、と言うよりもむしろ普通にルミ姉さんの方が年上に見えてしまいます。
容姿はと言うと、銀髪ストレート、黒い瞳でツリ目気味のクール系な見た目をしています。
「あぁ、メルミアか。 良く帰ったね。 ララエルのお守りはどうしたんだい?」
「それなんだけどね、ララエルが宝弓を売ろうとしちゃったから成人の儀自体が中止になったわ」
「ふーん、いつもの事か。 ちょっと待ってて、今父さんを呼んでくるから」
そう言ってルミ姉さんのお母さんは家の奥へとぱたぱたと入って行きました。
歩き方も子供っぽくて若々しさに磨きが掛かっているのですが、そんな外見や仕草とは裏腹にルミ姉さんのお母さんは表情の変化もあまりない物静かな人のようです。
今まで会ったエルフの女性はララのお母さんも含めて皆テンションが結構高かったのでサハラさん的にはかなり新鮮な感じです。
すこし待つと背の高さこそそれ程でもないけれど、かなり体格の良い力の強そうな男性を伴って帰って来ました。
「おお、メルミア、久しいな。 二十年ぶりくらいか? たまには顔を見せに帰って来なさい」
「そうね、考えておくわ」
ルミ姉さんとお父さんの会話を聞いてたサハラさんは会話の中で聞き捨てならない事を言っていたのを聞き逃しませんでした。
(わぁお! 二十年!! ルミ姉さんの言う“久々”って二十年のことなのですか!? エルフさんの時間感覚凄すぎるのです~)
種族差から来る感覚の違いにサハラさんは驚きます。
何せサハラさんが今まで生きてきた年数よりも全然長い期間を“久々”の一言ですませちゃってるのですからね。
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「ところでメルミア、その丸耳の子はどうしたんだい?」
ルミ姉さんと両親との挨拶が済んだ所でお母さんが無表情に小首を傾げて聞いて来ます。
元々ルミ姉さんとサハラさんが一緒に家に入った時から気にはなっていたのですけど、とりあえずまずは久しぶりに会った娘との会話を優先していたので後回しになってたのです。
そしてそのお母さんの質問を聞いたルミ姉さんはニヤっと人の悪い笑みを一瞬だけ浮かべて、それからララ譲りの冗談を至極真面目な顔をして答えるのでした。
「ああ、母さん、良く聞いてくれたね。 この子はサハラ、私の子供よ。 私に似て美人でしょ?」
そうなのです。
ルミ姉さんがララに聞いた“面白い話”とはサハラさんを自分の子供だと行って両親に紹介した時の話なのでした。
で、ルミ姉さんは(うちの一の親はどう反応するのかしら?)と思っちゃったのでわざわざ二十年ぶりに実家へ帰ってまでついつい試しちゃってるのです。
親としてはたまった物ではないですね……。
しかも今回は何故かサハラさんが――
(むむ! これはこないだララが言ってた冗談なのです! ララもルミ姉さんも言うって事はきっとエルフさんにとっては定番ジョークなのですね! じゃあ僕も白けさせない為に一言言うのです~)
「はい、僕はメルミアお母さんの子供のサハラなのです! お爺ちゃんお婆ちゃん、よろしくなのです~」
――と、サハラさんらしくもなく素早い反応でルミ姉さんの冗談に乗っかっちゃいます。
そのまま“ママー、だっこなのです!”と言って抱きつく駄目押しのおまけ付きでです。
二度目なので無駄に機転を利かせて反応しちゃったんですね。
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さて両親がどんな反応するかと言うと――
「メルミア、でかしたわ。 丸耳だから寿命が短いのが問題ではあるけれど、それは逆に曾孫がすぐに見れると思えば悪いだけの話でも無いわね」
「うむ、さすがは僕達の娘だ。 して義息は何をしている者だ? 今度連れてきなさい」
――と言う風に何故か全く焦る事も無く、むしろ歓迎されちゃいました。
「あら、この反応は予想外だわ。 父さん母さんごめんなさい、冗談なのよ。 サハラはララエルの連れ子よ」
〈注:サハラさんはララの連れ子ではありません!〉
なんだかルミ姉さんの予定とは違う反応でほっといたらまずそうだったので早々にネタばらししちゃう事にしました。
ただし、ルミ姉さんは“連れ子”の意味を間違えてるのか、はたまたわざとなのか、サハラさんをララの連れ子として紹介しちゃいました。
そのせいでルミ姉さんの両親は娘が子供を連れて来たと喜んだのも束の間、実は自分の娘よりも凄く若い別の子の子供だったと勘違いして二重のショックを受けてしまいました。
「えぇ……そうなのね。 がっかりよ」
「ああ、ぬか喜びだったね。 しかもあんな年端も行かない子に先を越されるなんて情けない……」
「いえ、お父さん、最近の若い子は進んでるって言いますから時代の違いなのかもしれないですよ」
「そう言うものか……。 いや、すまないねサハラちゃん。 ちょっと出鼻を挫かれた感はあるけど、歓迎するよ」
「ああ、ごめんなさいね。 うちの行き遅れの上にバカな娘のせいで微妙な空気になっちゃったけど、くつろいで行ってね。 いまお茶の用意をしてくるわ」
「うん、そんなバカ娘は放って置いて、サハラちゃんはこっちに来なさい。 お茶をするのに丁度良い場所へ案内するよ」
「あ、ありがとうございますなのです」
と、さっきまでの愛娘を迎えていた態度とは打って変わってルミ姉さんへツンケンしつつ、今度はサハラさんを優しく迎えてくれるのでした。
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「……なんだか思いの外心を抉る口撃を受けたわ。 酷い」
ララの両親はもっと面白い反応をしたと聞いていたのに、自分の場合は全然違う感じだし、何よりホームの筈が急にアウェーになった気がすると思いつつも納得行かないまでもサハラさんと一緒にお茶をする為の部屋へと歩いていくのでした。
ララが長老会に行ってどうなったかの話を書いてた筈が……気が付いたらルミ姉さんの話になっていたでござる(ё_ё)




