第74話 ララの両親
ルミ姉さん達と別れてララはサハラさんと手を繋いで実家へと連れ立って帰ってきました。
「サハラ、ここが私の実家よ。 小さいし古いけど気にしないでね」
そう言ってララが指し示した家をサハラさんは見てみますが極々一般的な一軒家で小さいと言う事はありませんでした。
古いって言うのはその通りっぽかったですけどね。(失礼です)
“中に入りましょ”と言ってサハラさんの手を引いてララはスタスタと歩いてそのままノックも無しにドアをガチャッと開けて中に入っちゃいました。
するとすぐ近くに居たララにそっくりだけど、ララよりも少しだけ年上のお姉さん的な見た目の女の人が驚いた顔でこっちに振り返りました。
目と髪の色(青い眼とブロンドの髪)と髪型が違う位で本当にそっくりさんなので、その女性の事をサハラさんは“ララのお姉さんだ!”と思ったのですけれどララはその女性に対して――
「お母様、ただいま帰りました」
――と言うかなりびっくりな発言をしました。
それにはサハラさんも“ええ、ララのお母さん!? まだ二十歳位にしか見えないのです!”と驚いてしまって挨拶のタイミングを逃しちゃうのでした。
「まあ、ララエル! 良く帰ったわね。 あなたー、ララエルが帰ったわよー!」
ララの挨拶に嬉しそうに破顔したお母さんはすぐに家の奥の方に大声で呼び掛けます。
そうするとこれまたすぐにララの兄妹にしか見えない若々しい男の人が小走りで出て来ました。
その人は“全ての者が戦士であれ”と言う掟があるエルフ族にしてはひょろっとした体型で顔立ちも優しそうな雰囲気の男の人です。
「おお、良く帰ったねララエル。 息災なようだね」
奥から出て来た男性はララを見つけるとニコニコと笑顔で迎えてくれたのですけれど、ララは先に言わなければならない事があるので姿勢を正してまずは謝ります。
「はい、お父様。 ですが申し訳ありません。 この度ララエルは大きな過ちを犯してしまい、長老会に呼び戻されてしまいました」
でもそんな謝罪を聞いても両親のニコニコ顔に陰りは見られませんでした。
「うん、その話は父も聞いているよ。 まあやってしまった物はしょうがない、しっかり怒られておいで。 それで反省すれば大丈夫だからあんまり気にしすぎないように」
「そうよララエル。 実を言うとね、ララエルがやってしまった様な事って結構皆やっちゃう事なのよ。 それで呼び戻されて怒られるのって、一種の通過儀礼みたいな物よ」
怒られる事を覚悟していたララもお母さんの言った事にはびっくりです。
「え、お父様お母様、そうなのですか?」
「ええ、それに今回貴方は未遂で済んでいるけれど、実際に売っちゃった子も居るんだから、ねえあなた」
「ああ、そうだね。 あの時は大騒ぎだった……回収するのに里の者総出で探して三年も掛かったからね。 まあその時でもマザーツリーの内部を三十年間清掃するって罰で済んでいるから心配要らないよ」
と、さも何でも無い事の様にお父さんは軽く言ったのですけれど、三十年間という罰の長さに空気を読んで口をつぐんでいたサハラさんもついつい口を挟んでしまいます。
「ええ~……ララ、それって軽い罰なのです?」
(三十年間って長すぎるのです! エルフさんの時間感覚すごいのです!)
「んー、そうね。 禁忌を犯したにしては軽いと思うわ」
確かに禁忌を犯したにしては軽い罰なのです。
だって他には極刑だったり耳切り落としの上追放だったりですからね。
とは言え、そんな刑が適応された事はララが知る限りでは無いのですけども。
しかしサハラさんの疑問に答えるララの目の前では両親揃って今まさにサハラさんの存在に気が付いてびっくり仰天なのです。
「…………丸耳族の女の子?」
「……ララエル、その娘はどうしたんだい?」
しばらく親元を離れていた娘が久しぶりに帰って来たと思ったら小さな女の子を連れて来た、とあってはどういった経緯であったとしても親としては心中穏やかでは居られません。
少し下世話な話になりますが、実はエルフと人族の間に子供が出来た場合、かなりの確率で普通の人族が生まれるのです。
〈何故かは良く分ってませんが殆ど人族、たまにエルフ、滅多に無いけど極々希にハーフが生まれます〉
そう言った事も相まってララがいったいなんと言うのか両親は内心ドッキドキなのです。
「んー…………」
(そう言えばなんて紹介するか考えて無かったわ。 せっかくだからサハラが歓迎される様にしたいんだけれど……どうしようかしら?)
両親の不安なんて全く気が付く事も無く、ララは今更ながら顎に人差し指を当てて“うーん”と考えこみます。
「ま……まさかララエル、貴方まさかっ! ……あ、貴方の……子供……なの?」
ちなみにララがエルフの里を出たのはそんなに昔の話では無いのでサハラさんがララの子供である心配をする必要は全く無いのですけれど、エルフ族は良くも悪くも時間感覚が緩いので勘違いしちゃってるのです。
「んん!?」
(子供って……私が子供を産んだと!? なんて事を! 私が丸耳との間に子供を……!? ってちょっと待って、あれ、それ案外良いんじゃないかしら? ……うん、良いわね! そう言う事にしてみましょう)
何も考えて無かったララですけれど、さも良い悪戯を思い付いたと言わんばかりに満面の笑みになって両親に向かってはっきりと言い放ちます。
「ええそう、そうなのよ! 私の娘のサハラよ。 二人の孫になるんだから可愛がってよね」
「らららら、ララ!?」
突然のララの乱心にサハラさんまでもがびっくりです。
でもサハラさん以上に驚いたのがララのお母さんです。
「ぁふぅぁぅぁぁぁ…………」
ショックが大き過ぎて良く分らない声を発しながら目を回して椅子に倒れる様に座り込んじゃいました。
ショック過ぎて目をぐるぐる回しちゃってます。
しかしただ一人、ララのお父さんだけは静かに笑みを浮かべたまま、サハラさんを見ていた視線をララに戻して問い掛けます。
その様は一見すると落ち着いて居る様に見えるのですけれど、実際には内心腸が煮えくりかえる程怒っていたりします。
「うん、そうか。 うん……そうか。 良し、相手の男を連れて来なさい。 ああ、いやお父さんが直接行こう、案内してくれ。 なに、心配要らないよ。 これでもお父さんもエルフの端くれだ、丸耳の男の首をはねる位は出来るさ」
そしてお父さんは“母さん、剣は何処にしまったかな?”なんて言って今すぐにでも討伐に出ちゃいそうな雰囲気を醸し出しているのですけれど、幸い(?)な事にララのお母さんが目を回しちゃってるおかげで剣の場所を答えられずに事無きを得ています。
「お父様、男の首をはねるのは良いのですけど、まさかサハラにも手出そうなどと思っては居ませんよね?」
さらにさらにララがまたしても斜め上の事を言い出してお父さんを睨むので場はどんどんとカオス度が上がっていきます。
「ああ、それは大丈夫だよ。 例え親に挨拶も無しに私達の愛しい娘に子供を産ませる様な屑の子供だったとしても、その子はお前の子供だ。 大切に育てるに決まっているさ」
と、お父さんは能面の様に貼り付けた笑みでは無くちゃんとした笑顔でサハラさんを安心させる様にそう言います。
でも、サハラさん的にはこの一連の出来事の前提条件からしてサッパリ意味が分ってないので安心も何も無いのですけどね……。
「そうですか、安心しました。 所でそろそろお母様を起して下さい。 冗談もこの辺りにしてちゃんと紹介したいのです」
お父さんの言葉を聞いて安心したララはそろそろ“この茶番も終りにして話を進めようかな”と考えて違う世界に旅立っちゃってるお母さんを正気に戻すようにお願いします。
「……冗談? ん? いや待ちなさいララエル、どの部分が冗談なんだい?」
「え? 全部冗談に決まってるじゃないですか。 私が里を出てからまだそれ程時間は経ってませんよ。 いくら成長の速い丸耳でもこんなに育つ時間はありません。 そう言う事ですからお母様を起こしてください」
「あ、ああ。 わかった」
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数分後
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「あ、ああ、そうね、そうよね。 び、びっくりしたわ……」
正気を取り戻した後、ララからちゃんとした説明を受けて何とかお母さんも安心することができました。
「そういう訳ですので、サハラよ。 私の家族と言って良い子よ」
「サハラです。 ララ……えっと、ララエルさんにはいつもお世話になってます!」
ララに紹介されたサハラさんは自分からも自己紹介をしたのですけど、その途中でついついいつも通りにララの事を短縮した名前で呼んでしまいそうになって慌ててフルネームで言い直しました。
さすがのサハラさんも三度目はちゃんと失敗しませんでしたね。
ただ、ララの“私の家族”という説明に両親はやっぱりまた微妙な顔をしたのですけれど、でもそれもすぐに笑顔に変えて答えます。
「そうか。 そう言う事ならサハラ、お前も私の娘であるのと同じだ。 ここを自分の実家だと思って遠慮せずに過ごしなさい」
「そうね、里に娘が増えたのと同義ね。 歓迎するわサハラちゃん」
そう言ってララの両親はサハラさんを歓迎します。
そしてそのまま流れでリビングでお茶をしましょうって事になって二人を案内した後は時間の許すかぎり、里を出た後のララの事やサハラさんとの出会い、それ以外にも色々な事を聞いて団欒を過ごすのでした。




