第63話 襲撃
次の日、サハラさんとララは一緒に市場に遊びに来ていました。
この市場は月に一度開かれる……とかそう言った類いの物では無くて、この町のそれは露店を自由に出して良い決まりになっている場所に毎日誰かしらの商人が所狭しと店を出して大声で商品を売り合っていると言う非常に活気の溢れる場所の事なのです。
そんな場所へサハラさん達は何を買いに来たのかというと、さして目当ての物があった訳でも無く日がな一日のんびりと露店を眺めて、怪しげな商品に心惹かれてみたり、謎の原色系の肉や飲み物を買って食べてみたりして遊んで過ごしているのでした。
「サハラ、こうしてゆっくり市場を回るのも良いものね」
要所要所でサハラさんが衝動買いした魔法使いルックな服やアクセサリーとかを両手に抱えたララがふんわり微笑みながらそう口にします。
ふとすると、サハラは延々と休まずに依頼を受け続けてしまいそうなので、こうして休息を取ってくれた事にララは安堵したのです。
ただ、どうせならお金があるうちはずーーっと遊んで過ごせば良いのに……とララとしては思うのですが、それは大半の人には良い印象を与えない考え方だと知っていたのでさすがに口には出しませんでした。(良い印象を与えないと言うよりも、悪魔の囁きと受け取られると言った方が近いかな?)
と言うのもその刹那的生き方は、実は寿命が長く人生を計画的に生きなくても良い(どんな事でも気が向いた時にだけやればたいていの事は死ぬまでに達成出来ちゃう)と言うエルフ族ではわりかし多く見られる考え方だったりするのです。
ララも人里に出て来たばかりの頃はまさにそんな考えを地で行く典型的なエルフだったのです。
ですが冒険者になってすぐの頃の事です。
当時のララはエリックさん達とは別のPTに所属して居たのですけど、そこでララはその行き方を実行していました。
するとどうした事か、一ヶ月も経たない内にあっと言う間にPTを首になってしまいました。
さらにその後もララが希少なエルフ族でしかも女性と言う事でPTの誘いはひっきりなしにありましたし、加入する事自体には苦労もしませんでしたが、やっぱり何故か何処でも同じ様にすぐに首になってしまうのでした。
それもそのはず、その当時のララは数日間働いて銀貨三~四枚稼いだら、それを使い切るまで数日から一週間以上も全く働かなくなってしまっていたのです。
それじゃあ首になっちゃうのもうなずけるって物ですよね。
ちなみにそれがダメって事に気が付いたのはほんとうについ最近、サハラさんの事でエリックさん達にあれやこれや相談してた時に“これ幸い”とエリックさんが物のついでとばかりにララの欠点として伝えたからだったりします。
なのでララさん今だ貯金無し。
「え? ……ああ! うん、いいよね!」
(そっかそっか~。 そう言えば普段のあれって働いてる事になるんだね。 なんだかこっちの世界に来てからいつも楽しいから毎日が日曜日感覚でしたよ~)
なにせギルドの依頼も町での買い物もその辺の散歩もぜ~~んぶ新鮮で全く退屈しないのです。
それじゃあ労働してるなんて気分にはならないってものです。
だからサハラさんは休む必要性を全然感じてなかったのですけど、そうとは知らないララは自主的に休まないサハラさんがいつか過労で倒れるんじゃ無いかと気が気でなかったのです。
「あ、ララ! 次はあのお店見に行こうよ」
と、ララの心配も何処吹く風、サハラさんは少し先にある猫っぽいけどなんか違うって生き物の置物ばかりを扱ってる店を指差し駆け出そうとします。
「はいはい、店は逃げないからそんなに焦らなくても大丈夫よ」
そんなサハラさんをララはやんわり窘め、はぐれないようにゆっくり歩いて行いくのでした。
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そんな風に一日を過ごしましたが、そろそろ日も傾いてきたので帰ろうかと言う時間になりました。
「サハラ、日が暮れちゃう前に帰りましょう」
段々と赤みがかってきた空を見ながら。
「うん、わかったのです。 あ、それじゃアリーさんの店に寄ってご飯食べて行こうよ!」
そんなサハラさんの提案にララはアリーさんの店に寄るなら大通りを途中まで行ってから路地を抜けた方が早わね、とルートを思い浮かべました。
その際、途中で路地を通る所が少し気になりましたが、でも路地とは言ってもまだ日も出てるし人通りも多いので大丈夫、と結論付けて歩き出しました。
「ふふ、わかったわ。 ではこっちから帰りましょう」
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そして路地に入って数分後、ララは静かに焦りを募らせていました。
(誰かにつけられてる? それに予想と違って人通りが少ないわ。 まずいわね……)
ちらっと後ろを確認すると、頭からローブを被り顔も見えない怪しい人がいました。
十中八九その人影がつけてきている相手で間違いないでしょう。
ララはこんなルートを選んださっきの脳天気な自分を激しく恨まずには居られませんでした。
(ここは自分が囮になってサハラだけでも逃がすべきかしら……いえ、ダメね。 サハラをこんな所で一人にしたら間違い無く迷子になるわ! 仕方無い、戦おう……でも、倒せる相手だと良いのだけれど……)
「ララ、どうかしたの?」
そんな風にララが悩んで居ると、サハラさんが急に難しい顔をしだしたララを心配して声を掛けてきます。
今日買った用途があるのか謎の道具や魔女ルックな装備品の数々を大事そうに抱えて、それでも自分を心配してくれているサハラさんにララは安心させようと声を発して、途中で考え直して言い換えます。
「大丈夫よ、何でも無いわ。 ……いえ、丁度良いわ。 サハラ、驚ろいたり振り返ったりしないで聞いてね。 良い? どうも私達、誰かにつけられてるみたいなのよ」
念の為サハラさんが後ろのローブから死角になるように移動して隠してから、出来るだけ何でも無いかのようにサラッと言います。
「ええ!? どどどどうしよう! ごごご強盗かな!? おぉお金全部渡したら帰ってくれるかな?」
……でも、あんまり意味は無かった様でサハラさんは盛大に、そして見るからに挙動不審にオロオロとドモっちゃいました。
さらに運が悪い事に丁度そのタイミングで人通りが綺麗に途切れちゃったりもしちゃいました。
案の定、ローブはこの時とばかりに速度を速め近寄ってきます。
(うん、サハラですものね。 驚くなって方がムリよね……。 仕方無い、こうなったら先手必勝よ!)
「サハラ、荷物一度置くね。 それとちょっと目を瞑っててね」
そう言ってララは両手に抱えていた市場で買った荷物を地面に置き、丁度一足飛びに斬りかかれる位置まで来ていたローブに愛用の細剣を振り向きざまに抜き放ちつつ相手の胴を狙って切りつけます。
ちなみに“目をつむってて”って言ったのはサハラに血を見せない為です。
「!!?」
しかし目にもとまらぬ瞬速で抜き放たれたララの剣撃を相手は驚きつつもローブの下に隠してあったララが持っているのと同じ様な意匠の剣を鞘にしまったままの状態で受け止め『ガシッ』と金属同士がぶつかり合う鈍い音を放ちました。
「く!! 『風の精霊、盟約に従いララエルが願う、かの者に風の刃を』!!」
ララは防がれた剣を弾かれる勢いそのままに手元に引き戻し、すぐさま続けて精霊魔法でカマイタチを起こしローブへ放ちます。
「待て待て! 落ち着け! ってうお!? 『風よ戻れ』!」
ララの放ったカマイタチは、しかしローブの唱えた最短縮呪文であっさりとキャンセルされてしまいます。
これはララに少なくない焦りとエルフとしての自信を無くさせる程のショックを与えました。
(な、なんですって!? いくら私が短縮呪文で唱えたからって、森のエルフで風の加護持ちたる私の風魔法をさらに短く短縮した呪文で止められるなんて! まずいわね……これは勝てないわ)
勝てない相手と分かればもうなり振りなんてかまって居られません。
またまた相手が何かしてくるより早く行動に移すべく、手に持っていた剣(家宝とまでは言わないけどそれに近い物)を躊躇いも無く思いっきり相手に向かって放り投げ、当たるかどうかも確認しないですかさずサハラさんの元へ駆け寄ろうと……しようとして絶望的な物を見てしまい動けなくなってしまいました。
「ら、ララ~。 ごめんなさい、捕まっちゃいました……」
そうなのです、青い顔をしたサハラさんの首筋には白く輝く白刃が添えられていたのでした。
「そこまでよ。 これを傷つけられたく無ければ止まりなさい」
サハラさんに剣を向けているその相手は先ほどまでララが戦っていた相手と同じローブを纏い、同じ武器を持ち、そして凜と澄んだ女性の声で抑揚無くそう告げました。
「わ、わかったわ。 だ、だからお願い、剣を収めて……」
さっきまでの闘志なんてどこえやら……、サハラさんに剣を添えられては抵抗の意思なんて月の裏側にまで飛んでっちゃいます。
ララはカタカタと小刻みに震える手足を何とか意思の力で押さえつけ、両手を上げて膝をつき降参の意思をしめします。
「良し、もう良いだろう。 剣をしまえ」
ララと戦っていた方のローブが、ララが投げつけた剣を拾いながらもう一人に武器をしまう様に伝えます。
こちらは男性の声です。
「そう。 ついでだから斬ってしまおうかと思ったのだけど、惜しかったわ」
女ローブはさらっと怖い事を言いつつ剣をしまい、顔の部分のローブを後ろに脱ぎながらララの前に歩いて行きます。
「そんな事をしたらおまえ、ララエルに嫌われると思うが良いのか?」
もう一人も同じ様にローブを脱いで素顔を晒します。
しかしなんとローブの下から現れた顔は尖った耳のある、ララと同じエルフ族の男女でした!
そしてその相手の顔を見て、ララは今度こそ驚きで声を上げてしまいました。
「メルミアお姉さまにリンディアお兄様!!?」




