第62話 ララの頼み
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「大した事じゃないけれど、この弓を売ろうかと思うのよ。 何か良い方法は無いかしら?」
ララは肩に掛けていた弓をカウンターに置いて、さも何でも無い事の様に言います。
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でも、エルフにとって弓とは非常に重要な物のはずなのです。
しかもララが持っている弓はご先祖様から代々受け継いできた弓です。
その様な弓は“エルフの魂”と言われて本来なら特別な意味を持つ物として扱われる凄く貴重で大事な物なのです。
大抵の場合は性能も凄く良かったりしますし、場合によっては魔法が付与されている事すらあります。
そうじゃ無かったとしても、エルフの弓は普段使い用の適当な物だとしても非常に性能が良いので人族の間では高値で取引される貴重品ですし、当然ララが売ろうとしてる“魂”ならそれこそびっくりする程の金額になるはずです。
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「あー……なんだ、もう一度言って貰えるか?」
アドニスさんはあまりの事につい聞き返してしまいます。
何せまるでその辺で拾ってきた弓を売るかのような気楽さで言われたのでさすがに信じられません。
「だから、私のこの弓をね、売ろうかと思うのよ。」
アドニスさんの問いにララがもう一度ハッキリと答えます。
と、その時、ほとんど誰も居ないギルドの隅で静かにお茶を飲んでた全身ローブ姿の冒険者が、何かに慌てたらしく『ガチャン!』と熱々のお茶が入ったティーセットを足の上に落として悲鳴を上げながらギルドから飛び出して行きました。
…………まあ冒険者は変な人も多いし、ララもアドニスさんもローブの事なんてさして気にとめる事も無く話しを続けちゃいます。
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でも、もっと注意して見ていればこの後にララに降りかかる苦難も事前に回避出来たかもしれません。
何せ、今涙目で飛び出して行った人の耳がこの辺りではまず見掛ける事が無いと言われる程に珍しいエルフ耳だった事に気がつけたのですから……。
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「あ、ああ。 まあ売るってんなら何個か方法が無くも無いけどよ。 これって“エルフの魂”って言われる種類の弓だろ。 買った奴が命狙われるなんてこたぁ無いだろうな?」
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そうなのです。
実はこの“魂”は不適切な方法で手に入れた場合は全エルフを敵に回す事になるのです。
しかも適切か不適切かを決めるのは一方的にエルフの方、例えば落ちてたから拾ったってだけでも場合によっては不適切だと言われちゃったりするのです。
そう言った理由もあって“エルフの魂”の正規品は驚く程に高値なのです。
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「…………ぁぁ、私が売ったって記号を彫っとけば大丈夫よ」
(そう言えばそんな決まりが有ったわね。 忘れてたわ)
「……なんか間があったな。 しかし何だってその弓を売りたいんだ? 大切な物なんじゃないのか?」
アドニスさんはララが大丈夫と言うまでにしばらく間があった事に一抹の不安を感じつつ、なんでそんな大事な弓を売りたいのか尋ねました。
その質問にララは一切の迷いもみせず即答します。
「大切に決まってるわ。 でも、そんな事より重要な事が出来たのよ」
そこでララは一度言葉を区切って、苦しげに眉を歪めてまた続きを話し出します。
「私のミスのせいで出来た借金の為にサハラが大切な杖を売ってしまったのよ。 すぐに取り戻さないといけないわ」
そして最後にはキッと鋭い視線でアドニスさんを見据えてそう言いました。
「あ-、やっぱそう言う事か。 お前らほんと仲良いな」
予想通りの答えにアドニスさんは苦笑します。
それに対してララはさっき見せた苦しげな表情は何処へやら『当然ね』と絵に描いた様な高飛車キャラの表情で肩に掛かったサラサラのストレートヘアを指先で払いのけながら即答で返しました。
「まあ、それはそれとして、お前さんの今言った話だけどな、かなり厳しいと思うぞ」
アドニスさんは森の貴族と揶揄されるエルフらしい態度(偉そう、お高くとまってそう等々)に戻ったララにそう諭してあげます。
どうにもこのエルフっ娘は取引の初歩を全く理解して居なさそうで心配になったのです。
そして案の定分っていなかったらしく、ララは心底不思議そうな顔で聞き返して来ます。
「え、どう言う事なの? 貴方達はお金と物を交換するのでしょう? なら受け取った金額を返せば杖を返してくれるんじゃないの? それが貴方達丸耳族のルールでしょう?」
「そうは言うがな、相手だって欲しいから金払って買ってんだ。 普通は売った後にやっぱ金返すから売るの止めたって言ったって“はい、そうですか”とはいかねぇもんなんだよ」
「それは……困るわ! どうしよう……あの杖はサハラに凄く似合ってたのに! きっと大事な物なのに!!」
買い戻すのは厳しいと聞いてララは焦ります。
ついさっきのララは背筋をピンと伸ばし気品と余裕のある眼差しをしていたのに、今やオロオロおどおど、耳も垂れて真っ青な顔でうろたえちゃってます。
「どうすれば、どうしよう……そうだ! アドニス、とりあえず杖を買った人を教えて。 直接確認してみるわ」
悩んだ挙げ句、ララは本当に買い戻させてくれないのか相手に聞いてみると言う事を思い付いてアドニスさんに名前を聞こうとします。
「ああ、それもギルドが仲介した取引じゃ言えねぇんだ。 基本的に誰が買ったとか売ったとか、そう言う事は一切教えられねぇんだよ。 例え嬢ちゃんの保護者のお前さんでもな」
「どうしてよ!?」
「まさにお前さんがやろうとしてる事とかを防ぐ為、だな。 しょうがねえ、一から個人売買の基本を教えてやるよ。まずはな…………―――――」
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十分後
「―――――…………って事だ。 だから買った相手は教えられねえんだよ」
と言う訳でアドニスさんは必死になりすぎて空回りしちゃってるララに取引の基本的なルールを事細かに、それこそ子供に教えてあげるかの様に初歩的な所から丁寧に教えてあげたのでした。
その甲斐あってかララも一応は納得して相手の情報を聞くのを諦めたのですが、それと共に元気も無くしちゃってしょんぼりと肩と耳を落として項垂れちゃいました。
「うぅぅ……それじゃあもう買い戻す方法は無いって事なの?」
アドニスさんの説明を聞けば聞く程に無理そうな事が分って来ちゃったので、もはや青を通り越して蒼白になった顔でララは呟きます。
「…………本来は、な。 ま、他ならぬお前さんの頼みだ。 特別に俺が間に入って話を取り次いでやるよ。 つっても一声掛けてみてやるだけだがな」
普通は取り次ぐ事もありえねえんだぞ、とそっぽを向きながらぶっきらぼうにアドニスさんは言いました。
しかしその言葉にパアっと目を輝かせララが食いつきます。
「さすがです。 やはり貴方は並の“トロール”とは違うと思ってたのよ! 感謝するわ!!」
とララは勢い良く捲し立てながらアドニスさんの手を取りブンブン振りながら大絶賛します。 ……大絶賛なのです!
「へへ、よせやい。 照れるじゃねえか…………じゃねえ! 誰がトロールだ! 前回よりも悪化してるじゃねえか!! 奴らみてぇに太ってねえよ! ……ねえよな?」
こんな時でも冗談にノリ突っ込みしてくれるアドニスさんはやっぱり優しいです。
「だが最初に言っとくぞ。 杖を買った奴はたいそう喜んでた。 って事は十中八九売った値段じゃ買い戻せねえ。 それでもどうしてもって場合は売った値段より金を積んで頼み込んでみるしかねぇ。 だがそれでも買い戻せねぇ可能性のが高い。 その辺、ちゃんと覚悟しといてくれよ」
アドニスさんは杖を買った相手のローナさんが凄く嬉しそうな顔で喜んでいたのを思い出し、確実に買い戻すのは無理だろうなと思った事を何とか飲み込み、そう告げました。
「わかったわ。 それでも頼むわね」
ララは幾分さっきまでよりましな顔で頷き答えます。
「ま、なんにせよ弓を売るのは杖が買い戻せる算段が付いてからで良いだろう」
「そうね、そうするわ。 それじゃあ今日の所は一旦帰るわ。 手間を掛けるけど宜しく頼むわね」
「おう。 気にすんな」
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そうして話が纏まり軽く会釈して出て行くララを見送るアドニスさんですが、実はあえてララに教えなかった事が一つあります。
それは……『実は杖を買った相手がローナさんだと言う事は、その本人が今まさに有頂天になって杖を自慢しまくって皆のヒンシュクを買いまくってる有名人なので、その辺の人に聞けば一発で分かる』と言う事を!




