第48話 井戸へ
それから準備を整えて、サハラさん達一行は村の中心にある井戸まで戻って来ました。
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ですがそんな中、サハラさんは一つだけ心残りが出来てしまいました。
(あ~ぁ、猫耳家族の人達とお夕飯の話が流れちゃいました……。 残念です)
そうなんです。
リディさんは今日すぐに井戸の調査に出発すると言い出してしまいましたので、サハラさんは先ほど泣く泣く夕食会をお断りに行ってきたのでした。
相手の家族もご馳走を作ろうと意気込んでいた所だったらしくてすごく残念そうにしていました。
でもこれから呪いの調査で井戸へ行くと伝えると携帯出来そうなパンや干し肉などを分けてくれたのでした。
そんなふうにサハラさんが食料を手に入れてる間にコトさんがどこからともなく縄ばしごを手に入れてきたのであっと言う間に準備が整ってしまいました。
元々リディさん達もララも一端の冒険者なんですし、新たに用意しなきゃならない物ってそんなには無いですからね。
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さっそくリディさんは用意してきた縄ばしごを井戸へ掛けます。
掛け終わったらまず最初に一番身軽なコトさんが先に降りてどうなってるか確認する事になりました。
コトさんはスルスルっと一番下の水面の間際まで降りたかと思うと、キョロキョロと周りを確認してピョンっと壁に向かってジャンプしちゃいました。
(壁にあたっちゃう~!)とサハラさんが思うのも束の間、コトさんはフッと壁をすり抜けてしまいました。
それからすぐにコトさんから声が掛けられます。
「おーい、皆おいでー! 影に足場があるから大丈夫だよー!」
どうやら下は広くなっているらしいです。
(なんだ~、壁に向かってジャンプするからびっくりしたよ~)
ちなみにコトさんがジャンプした時に、背中にある玩具みたいな羽もパタパタ羽ばたいていたのをサハラさんはばっちり目撃しちゃいました。
コトさんの動きを見守って居たリディさんですが、コトさんが大丈夫だと言うので武器を落とさない様に抱え直してさらに食料とかの入った荷物まで手に持って、トトトっと軽い感じで降りていきました。
縄ばしごって凄い降り辛いのに格好良いですね!
「じゃあサハラ、次は私が降りるから、下が安全か確認してから声掛けるね。 あ、そうだ! その杖は私が持って行ってあげるわね」
そして今度はララが降りるようです。
(さすがララ、気が利きます! 僕だと縄ばしご降りる時に杖なんて持って行けそうも無いから助かります!)
「は~い、ありがとう。 ってララ~、コトさんが下は安全って言ってたじゃないですか~。 しかもリディさんももう降りたし」
「いいえ、万一があったら取り返しがつかないもの。 私が直接確かめるまで安心出来ないわ」
そんな風に言って颯爽さっそうと降りていきます。
ララに至ってはもはや梯子部分に足を一度も掛けないでロープと変わらぬ使い方で降りてっちゃいました。
(今、ララってば右手一本だけしか使わず降りて行った様な……? 縄ばしごを片手だけでスムーズに降りるって……目の前で見ても理解出来ない技ですね!)
それからすぐにララが呼んでくれます。
「サハラー! 大丈夫そうよー! 降りておいでー! しっかり縄持ってちゃんと一歩ずつ梯子に足掛けてゆっくり降りて来るのよー!」
「は~い。 それじゃあ降りるね~!」
(ふふ~ん♪ ついに僕の番です! 縄ばしごなんて昔行ったアスレチック以来ですよ~)
でもさあ梯子に足を掛けるぞっと言う時、サハラさんはついついチラッと井戸を覗い見ちゃったのですが、いざ自分の番だと思うと途端に深く感じて怖くなっちゃうから不思議です。
(う~、結構高いよ~。 皆なんであんな簡単そうに降りてけるんだろう?)
「サハラー、大丈夫-?」
なかなか降りてこないサハラさんを心配してララが声をかけてくれます。
ですがその問い掛けにサハラさんは――
「だだだ、だいじょうびでふ…………」
(あぅ、緊張して噛みました)
――と、だだ噛みしてしまうのでした。
「ちょっと待ってね。 今行くわ」
言うが早いか、ララはサッと縄ばしごに飛び移り、スルスルっとサハラさんの元へと戻って来ちゃいました。
「あれれ、ララ?」
せっかく降りたのになんで戻って来ちゃったのかな? と、サハラさんは不思議がるのですがララはそんなサハラさんの目の前まで来て背中向きにしゃがんで『はいどうぞ』と手を広げました。
「縄ばしごは危ないものね。 私がおんぶして下まで連れて行ってあげるわ」
そう言ってララは手振りでサハラさんへ早くおいでと促します。
サハラさんも実を言うと縄ばしごを上手に降りれる気がして居なかったので素直に甘える事にしちゃいました。
「ララ、ありがとう!」
そうお礼を言いながらサハラさんはララの首に手を回してピタッとくっつくのでした。
「しっかりしがみついててね」
(ふふふ、可愛いわ♪ 咄嗟の思いつきだったけど完璧な作戦ね!)
と、内心ご満悦なララなのですがそこはそれ、生まれた時から森の中でツタをつたったり木々を登ったりして育っただけあって人一人背負っても縄ばしごなんて何のそのです。
サハラさんの為に安全に揺らさない様に、それでもスルスルとスムーズに降りて行きます。
その様子をララの背中にしがみつきながら見ていたのですが、途中まで降りると不意に井戸の直径が一回り二回り大きくなっているのに気が付きました。
どうやらそのお陰で上から覗き込んでも普通の井戸との違いが分らなかったみたいです。
覗いただけじゃ井戸の底の壁際は影になっちゃってて水が溜まってる部分しか見えないから特別変わった所が見えないんですね。
そんな事を思っている内に井戸の底まで来ました。
そこでふとサハラさんは思いました。
(これって、壁際の足場まで一メートル以上離れてる気がするけど、どうやって渡るんだろう?)
ちなみに井戸の底は貯め升になってるのでそれなりに深くて、サハラさんの肩まで沈むくらいの深さだったりします。
落ち着いてれば大丈夫な深さだけど、落っこちて焦ってると溺れかねない危険な深さです。
あれやこれやと悩んでるサハラさんへララが言います。
「サハラ、ちょっと揺らして飛び移るから落ちない様にしっかり持っててね」
「う、うん。 分りました!」
そう言ってサハラさんは力を込めてぎゅっとララにしがみつきます。
そうすると、仄かに香るララの甘い匂いにこんな時ですがサハラさんは不思議と安心感を覚えます。
(なんだかララの匂いって落ち着きます~)
返事を聞いてから、ララは二~三度縄ばしごを揺らしてからパッと壁際の足場へ向かって飛び移っちゃいます。
スッと足音すら立てずに着地したララは、少し名残惜しく思いつつもサハラさんを足場へ降ろしてあげるのでした。
「ララ、すっごくありがとう! 助かったよ~、僕が自分で降りてきても縄ばしごからここまで渡れなかったよ~」
「ふふ、良いのよ。 帰りもおんぶしてあげるからね」
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と言う一幕があったけれど、何とか無事に降りられたのでサハラさんは周りを見回してます。
まず足下なのですけど、そこは綺麗な石のブロックで出来ていて真っ平らになっています。
広さも人が二人並んで立てる位の幅があって結構広いです。
そしてこの場所の全体は丸い井戸の形のまま直径が三~四メートル位になっています。 横から断面で見るととっくり型をしてる井戸なんですね。
他にも気になったのは井戸の水です。
なんと近くで見るとそこそこの勢いの流れがあったのです!
その流れの上流側と下流側それぞれに人が通れそうな水路兼通路が開いていました。
でもそこには鉄みたいな物で出来た格子が取り付けられていて勝手に出入りは出来ない様になっていました。
「この井戸、ずいぶんと立派ね。 この村には不釣り合いね」
ララはこの井戸を見て思った事を素直に口にします。
その感想もそのはずで、この井戸は壁や床が凄く滑らかに整えられていたり、しかも井戸の直径が途中で変わると言う難しい構造をしていたりとどう考えてもこんな田舎の村には似つかわしくない高度な作りをしています。
「ああ、それならさっき村長に聞いたんだけどさ。 昔この村にドワーフの婿が来たことがあるんだけど、その時の婿入り土産として婿の親類連中が集まってきて作ったらしいわよ」
リディさんは井戸の情報を集めるついでに小耳に挟んだ話をしました。
そう言った事もあって、この井戸は村の隠れた自慢の一つなのです。
「ふぅん、ドワーフを婿にね。 物好きな人間も居るものね」
そんなララの感想も至極当然の事で、ドワーフ族は若くても髭面だし、皆して大酒飲みなうえに背も低く、それにぶっきらぼうな性格なのでとても他種族にモテる要素なんて無いと言うのが一般的なイメージなのです。
「へ~、婿入り土産でこんな凄い井戸作っちゃうんだね~。 さすがドワーフさんです!」
そんなたわいもない話にサハラさん達三人が花を咲かせている間にもコトさんは一人黙々と格子を調べて居たのですが――
「お姉様、ここ鍵が掛ってるんですけどどうしましょう? 壊します?」
――と、リディさんへ問い掛けてきました。
「ああ、ごめんなさい。 カギなら預かってきたわ」
言い忘れてた事に少しバツが悪そうにリディさんはポケットからカギを取り出して格子を開けました。
「では早速入りますけど、先頭は私、二番手にララエルとサハラ、最後にコレットの順番で行きましょう」
リディさんはテキパキと最適だと思えるPT配置を考えて皆に伝えます。
本来なら先頭は斥候役であるコトさんが担うのですが、今回の探索場所は地下です。
地下は普通暗いです。
そしてコトさんは有翼族…………有翼族は色々と身体能力は鳥に近い性質を持っています。
要するにコトさんは鳥目なんです!!
暗い場所ではコトさんの視力はてんで当てにならないと言う弱点があるので今回は斥候役はお休みして頂いて代わりにリディさんが前に出る事したのです。
でもコトさんは耳も良いので最後尾で暗がりから近寄ってくる敵の警戒役をやって貰う為の配置なのです。
「分かったわお姉様」
「仕方無いわね」
「は~い、分かりました」
全員思い思いの返事を返しながら配置について、それを確認してからリディさんは格子の奥に進みはじめるのでした。
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格子から入った先は意外と広くて壁から壁までの幅は二メートル以上有りそうですし、高さもサハラさん達が立って歩いても余裕があるのでやっぱり二メートル位はある様です。
川幅も広い所では一メートル以上もあって水量も多く、膝丈程の深さもあるので流れの速さも相まって落ちたら大変そうです。
入り口の付近は床は石材で整えられていたのですが、それも二十メートル程進むとすぐに無くなって自然のままの岩肌が現れました。
「サハラ、転びやすくて危ないから手を繋いで行きましょう」
(転んで川に落っこちたら流されちゃうものね)
ララはサハラさんが心配だったので手を取ろうとしたのですが――
「え? 大丈夫平気だよ~。 僕はそんなに子供じゃ無いのです!」
――しかし親の心子知らずと言いますか……サハラさんは手を繋いで歩くのは恥ずかしかったので断ってしまいました。
そして断られたララは、手を取ろうとした時の笑顔のまま涙目になるという器用な事をしたのですが、地下の暗がりのお陰で誰にもばれずに済んだのでした。
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さらに暫く奥に進むと入り口からの光も殆ど届かなくなって来ました。
ですのでリディさんはそろそろ明かりを用意しようかと思ってコトさんへ指示をだします。
「コレット、ランタン出して」
指示を出した……のですけど――
「ランタン?」
当のコトさんは何故か首を傾げています。
「まさか、ランタン……無いの?」
「はい、持ってませんよ」
「……じゃあ松明で良いわ」
本当は松明は不便だからイヤなのだけど背に腹は替えられません。
そう思ったのですが――
「……えーと、その辺りはお姉様が持ってるんじゃ……?」
そう言うとコトさんは両手を広げて見せました。
実はコトさんは手荷物を何も持っていませんでした。
「ら、ランタンも松明も無いなんて……、仕方無いわね。 帰りましょうか」
熟練冒険者にあるまじき失態にかなり気落ちしつつもリディさんはランタンを取りに“一度帰る”事に決めました。
「え!? 来たばっかりなのにもう帰るの? えぇ~……がっかりです……」
サハラさんにしてみればせっかくの初めての冒険らしい冒険なのに始まってすぐに“終わっちゃう”のはすごーく残念なのでした。
「明かりがなければ何も見えないもの、仕方無いわ」
そんなサハラさんへ角を手で擦りながらリディさんが素っ気なく答えます。
「う~。 ララ~、がっかりなのです……」
しょぼーんと音が聞こえそうな位がっかりしてるサハラさんを見ていたたまれなくなったララが仕方無く何とかしてあげる事にしました。
実を言うとララとしてはこのまま帰った方がサハラさんへ危険が無いので良いんじゃ無いかなと思って黙っていたかったのです。
「しょうがないわね。 そこの使えないBランク様に準備のイロハの何たるかを見せてあげるわ」
そう言ってララは自身の荷物からランタンを取り出して火を灯して、リディさんへ手渡すのでした。
「あ、ありがとう」
「ふん、こんな初歩でつまずくなんてなってないわ。 次は気をつけることね」
すっごく偉そうなララの言葉ですが、あんまりにも正論すぎて言い返せないリディさんとコトさんはランタンが点いて明るくなった周囲とは裏腹に暗くなる一方です。
「ランタン! さすがララなのです!」
「ふふ、当然よ♪」
そして元気になったサハラさんにララは機嫌良く返事をするのでした。
とにかく、これでランタンの問題は解決出来たのでさらに奥に進む事になり、サハラさんとララは上機嫌で、リディさんとコトさんはどんよりと両極端な四人の探索は進んで行くのでした。
活動報告には道具屋のクロエさん主役の番外編もちょろっと載せさせて頂きました。




