第46話 お姉さまの目は節穴ですか!
結局、サハラさんとリディさんの二人が合流場所として決めていた村の広場へ帰ってきたのは日も傾き始めた頃になってしまいました。
その姿を真っ先に見つけたコトさんが二人に手を振り呼び寄せながらララにもその事を教えてあげます。
「お姉さま達が帰ってきたよ。 これで安心できますね」
一応教えてあげたコトさんですが――
(でも、ララエルさんの奇行を見るのも楽しかったんだけどねー)
――と、密かに思って居たのは秘密です。
何故なら、二人の帰りがあまりにも遅かったので心配したララが真っ青な顔でオロオロして広場の真ん中にある井戸の回りをグルグルグルグル回っては立ち止まり、何やら深刻そうに悩んで、また反対回りでグルグルと回り出すと言う奇っ怪な行動をしていたのでした。
コトさんに教えて貰ったララは居てもたってもいられず、サハラさんの元に駆け寄ります。
「サハラ! 大丈夫? 意地悪されなかった?」
「大丈夫だよ~。 僕の方こそリディさんに色々迷惑掛けちゃったから謝らないと」
「いいえ、問題無いわ。 むしろサハラに無理させたリディアーヌが悪いのよ!!」
ララはサハラさんがどんな迷惑を掛けたのか内容も全く聞かずにリディさんが全ての原因と決めつけてそう言いきります。
「失礼ね」
だけど、リディさんはララのそんな一方的で失礼な物言いにも特に気にした素振りも見せずに適当に返しました。
それと共に、今日自分がサハラさんと一日過ごして強く思った事も一緒に伝えます
「それよりララエル、私は貴方の事を少し誤解していたわ」
そこでリディさんはサハラさんの方を一度見てから――
「貴方、実は凄くおおらかな性格だったのね」
――たった一日一緒に村を見て回っただけでこんなにも色々あったのです。
毎日ずっと一緒にいるララはさぞ大変なのだろうと思って素直に心から出て来た言葉でした。
でも、これにはララと一日一緒に居たコトさんが吹き出しました。
「ぶふ! ララエルさんがおおらかですって!? お姉さまの目は節穴ですかー!!」
今日一日ララと行動して、骨の髄まで彼女のエルフ的性格を痛感したコトさんは、リディさんの言葉に全く同意できずについつい大声を上げてしまったのです。
だけど、そんなコトさんの事などお構いなしに偉そうに胸を張ってララが肯定します。
「当然よ。 我々エルフは貴方達みたいに短い寿命に縛られないので皆心穏やかで小さな事に拘らない優しい性格をしていますよ」
ララはさも当たり前の事としてそう言ってのけました。
「お~、そうだったんだね。 そう言えばララっていっつも優しいもんね」
と、サハラさんも自分の持ってるララに対するイメージと照らしあわせて、確かに優しいねと納得するのでした。
事実サハラさんとしてはそうなのでしょう。
ララはサハラさんへはベタ甘なのでそう言うイメージになるのですね。
だけど実はよくよく考えるとララってサハラさんの目の前でもサハラさん以外には結構厳しくあたってたりもしますけどね。
でも、サハラさんが居ない時より、ちょっとだけ優しくなってもいるにはいるのです。
◆◇◆◇◆
そんな訳で合流したサハラさん達は村を回って集めた情報を持ち寄ってまとめる事にします。
ただ、これがわりと大変なのです。
何故かと言うと……
サハラさんが書いた方は各家の位置と人数、それに発症数や新しく聞いた情報なんかも全部細かくジャンル分けして書いてあって、最後には集計も出してあって問題は無かったのです。
けれどララ達が書いた方は数字だけ、どの家の何の数字かも分らない有様だったので何が何やらサッパリなのです。
なのでいちいち地図を指さして「ここの家の人数がこの数字、発症者がこれ、確か新しい情報はなかったわね」と聞かなければならないのです。
しかもその都度、人数に四足して、病人に三足して、なんてやっていくのです。
非常に時間が掛って面倒です!
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ちなみにサハラさんは家の位置をどうやって記したかと言うと、あらかじめ村の地図を現代の地図やゲームのマップみたく、横を数字の0~9に、縦をA~Jに区切って分けて置いて、対応する場所を書き込んでおいたのでした。
だけど元になる地図が村長さんの手書きなので正確性はさっぱり無いのですけどね。
それでも目安にはなりますし、有るのと無いのでは大違いです。
この方法はこの世界でも一部の人は知っています。
でも一般人には広まっていない……と言うかむしろわざと広めていないのでリディさん達は知らなかったのです。
そもそもいつも一緒に行動する冒険者ならどこかを示すって言っても、目の前で地図を指さして“ここ”って言えば良いですしね。
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それと、ララやリディさん達がワヤワヤと四苦八苦しつつ纏めてるいるのを見てサハラさんは一つ気が付いた事があります。
そう、それはリディさんやコトさん、それにララまでもが実は計算が苦手そうだと言う事です!
一桁同士の足し引きならまだ良いのですけど、二桁になると途端に大変そうになって、三桁は暗算では無理そうな感じだったのでした。
みんな買い物とかどうしてるのでしょう……。
それから小一時間ほど掛けて、やっと三人は集計を終わらせる事が出来ました。
「はぁー、疲れたー。 サっちゃん終わったよー」
傍らの井戸で何やらしていたサハラさんへコトさんが終わった事を伝えます。
その横ではリディさんが出来上がったメモを見て内容を確認していますが、あまり明るい表情ではありません。
調べた内容によると、村の状況はかなり悪いらしくて半分以上の住人が多かれ少なかれ体調不良を訴えている状態なのでした。
「これは酷いわね。 原因は何かしら?」
「んー、やっぱり呪いなんじゃないかなぁ? きっと誰かが何か罰当たりな事しちゃったんだよー」
「呪いねー……絶対違うとも言えないけど……」
リディさんとコトさんはメモを片手にアレコレ原因を論じてみますが、いまいち何も思い付きません。
「ねえ、サっちゃ……っとっとー、ララエルさんはどう思います?」
結局コトさんはさっぱり思い付かなかったので他の人に丸投げしちゃう事にします。
でも、最初にサハラさんへ振ろうとして振り向きかけたけど、途中で(絶対サっちゃんじゃ分らないだろうなー)と思い直して急遽ララへ変えてしまいました。
そして、発言する為に気合いを入れて待ち構えていたのにスルーされちゃったサハラさんはガックリとうなだれて近くのベンチにトボトボと座るのでした。
〈別にサハラさんは原因に心辺りがあって喋りたかった訳では無いのですけどね〉
「あ、でもララエルさんはこの国の事ってあまり詳しくはないですよね」
コトさんはララに振った後すぐ後に、ララは『黒の森のエルフ』だった事を思いだしました。
〈『黒の森のエルフ』は封建的な生活を送っていて外の世界には全く興味が無い――と思われているのです。 実際にはララが今やってる様に成人の儀などで積極的に外の世界に人を送り出してるのですけどね〉
なので黒の森以外の土地の風土や病気も知らない筈ですので結局サハラさんとララのどっちに振っても意味なかったかもと気が付いたのでした。
もう振っちゃった後なので手遅れなんですけどね。
「いえ、大体は予想が付いたわ。 これは私の里で時々……そうね、十数年に一回位かしら? それ位希にしか起こらない事とそっくりだからたぶん原因も同じね」
ですけど、コトさんの予想に反してララはこの呪い騒動の原因に心辺りがあるのでした。
(さすがララはエルフさんです! 十数年に一回しか無い事をさも当然の様に自分で経験したふうな言い方をします! もしかしてララって結構な歳なのかな?)
と、リディさんとコトさんがララの言葉に驚愕している中、サハラさんは一人みんなとは少し違う感想を抱いているのでした。




