第34話 壺の悲劇
◆◇◆◇◆
「大地の精霊ノームよ、古の誓いを思い出し我に力を貸したまえ。 我が道を示せ!」
ララは地の低級精霊魔法を無短縮の詠唱で唱えて発動させました。
そのお陰でララは第六感とでも言うべき感覚を知覚します。
この魔法はつい最近目の前の場所を何かが通ったかどうかが分る様になる魔法なのです。
ですがララは地の精霊とは余り相性が良くないので無短縮の割りには余り効果が高く無いのが難点です。
ララの熟練度だとかなりアバウトに“数分~数時間以内にある程度の重さの生き物が通った感じがする”程度だったりします。
〈砂漠や山とか平野で暮らすエルフ族なら、何分前に体重何キロの者が何人でどっち向きにどれ位の速度で通ったか、とかかなり詳しく分るのです〉
「ふぅ、やっぱり地はいまいちね。 でも、この路地に人気が無くて助かったわ」
ララの独り言どおりに、つい最近通った者は数人位しか居ないらしいうえに皆同じ方向に向かっていたので精度の悪い探索魔法でも向かった先が特定出来ました。
ですのでララはそのまま精霊魔法を使い続けて入り組んだ路地をサハラさんに向かって一直線に走りだします。
*・*・*
そして幾度となく角を曲がるとサハラさんが亜人と獣人に前後を挟まれて連れ去られそうになっているのを見つけました。
ララは一瞬だけサハラさんと目が合いました。
それとほぼ同時に亜人と獣人がララを伺おうとしたので、それよりも早く手を打ちます。
ララは一対二なので先手必勝、手加減無しで行きます!
「この地に住まう風の精霊よ。 我が名は黒の森・シルフィのララエル。 我が一族との盟約に従い願いを聞き届けよ。 我が敵に風の刃を!」
ララのすぐ目の前から指し示した方向に向かって圧縮された空気の鎌が飛び出します。 ララが一番得意な風の精霊魔法をこれまた無短縮で発動させました。
〈いわゆる【ウインドカッター】です。 ララエルさんは地や木より風の精霊と仲が良いので威力もかなり強くなります〉
その渾身の魔法を、壺を持っていて動きが鈍そうな亜人の方へ放ちました。
そしてその魔法が届くより前に護身用に隠し持っていたナイフを抜き獣人に向かって駆け出します。
「わきゃ~、ララだめ~!」
サハラさんはララのあんまりな早業に止めるのが遅れちゃってましたが、やっとなんとか悲鳴をあげられました。
「大丈夫よサハラ! 今私が助けてあげ……え? だめ?」
予想外の言葉にララは固まります。
「およよっとっとー」
それと時を同じくして、亜人が手に持っていた壺を使ってララの魔法を良い感じに力を逃がしつつ受け止めちゃいました。
ただ、魔法を受け流した時に壺は“ガッシャーン!”と良い音を立てて砕け散っちゃいましたけども。
「え……私の風魔法を壺なんかで止めたの?」
これにはララも心底びっくりです。
若いとは言えララは精霊魔法が得意で、魔力も高いエルフ族なのです。
しかもシルフィの名を持つ風の加護を受けた者が手加減無しで放った最高の威力の風の鎌です。
オーガですら一撃で両断する程の威力が籠もってた筈なのですが……間違っても壺に当たった位じゃ防げないはずでした。
「いやー、びっくりですよー! まさか最初も最初、初っ端の一撃目から一言も掛ける前に殺りに来るとは流石に思わなかったですよ」
びっくりと言う割には余裕のある表情でコトさんはサハラさんの後ろに隠れる真似をします。
「お姉様もサっちゃんの後ろに隠れた方が良いですよー、あのエルフ危ないですよー」
コトさんは背中に背負った長剣を半分程抜いた状態でララを睨んで居たリディさんにも冗談めかしてそう言います。
そしてそれがまたララの気持ちを逆なでするのでした。
「っ!? サハラから離れなさい!」
(まさかあいつらは噂のBランクPT!? 道理で魔法が防がれた訳ね。 でも、それこそサハラを渡す訳には行かないわ!)
サハラさんに止められた後ですが、むしろさっきまでよりもさらに鋭い視線でコトさんとリディさんを睨みます。
「ラ、ララ~、僕は大丈夫だから」
そんな険悪な雰囲気の中、サハラさんがわたわたと慌ててララを止めようと駆け寄ります。
なんだかこれってつい最近にも同じ様な事があった気がするな~、と思いながらもサハラさんはララに状況を説明しだすのでした。




