第27話 ギルドでの騒ぎ
「終わりました~、これサインです」
サハラさん達は、依頼終了を報告する人達でごった返している夕方のギルドへ帰ってきました。
今回の依頼は上手く行ったのでサハラさんは少し誇らしげに終了証明書を手渡します。
「おうよ。 どれどれ……おお、すげえじゃねえか! 嬢ちゃんにまた来て欲しいって言うようなことも書いてあるぜ」
アドニスさんは『ふふーん』と腰に手を当ててふんぞり返ってるサハラさんの頭を撫でます。
「でも、思ってた仕事とちょっと違いました。 もっとこう……神秘的な技でスパパーンと作る物だと思ってたのです。 でもこれはこれで面白かったです」
(たぶんあの促進剤ってのが鍵だと思うのですよね~。 今度はあれ作るのをやってみたいですね!)
「ポーション作りが面白いって言う奴も珍しいな。 あ、ところで報酬は銀貨じゃなくて銅貨で渡した方が良いよな?」
銅貨とか銀貨とか、報酬で貰う硬貨はある程度の金額までならどっちでも選べるのです。
この場合、銀貨で貰った方がかさばらなくて良いけど、銅貨で貰った方が換金しなくて良いので便利なのです。
それに換金屋さんに頼むと手数料も取られちゃうからどうせなら最初から銅貨で貰った方が結果的にお得なのです。
しかも屋台とかだと銀貨使え無い時とかもあったりしてわりと不便なのです。
そう言う理由で普通は銅貨で貰うのですが、そこはなんと言ってもサハラさんです。
「銀貨が良いです!」
(ついつい即答しちゃいました。 なんだか後ろでララが「あぁー……」って言った気がするけど気にしない気にしない…………ぅぅぅ、ごめんなさい。 だって銀貨が欲しかったんだもの……)
「あいよ。 ほれ、銀貨一枚だ、おつかれさん」
「ありがとうございます! お~、これが銀貨なのですね~。 ユニコーンの絵が描かれてます」
銀貨の片面にはユニコーンが描かれていて、もう片面には森の絵が描かれてました。
「へ~、格好いい~。 王様とかが描かれてる訳じゃないんだね」
「まあな、うちの国は大森林の隣にあるせいで他の国からは『森の国』って言われてる程に森とは縁が濃いからな」
そんなアドニスさんの説明を聞きつつサハラさんは銀貨の表面見てみたり、裏面をまじまじと見たり、今度は横に描いてある文字を見てみたりと初めての銀貨にはしゃぎまくります。
そんなはしゃいでるサハラさんを横目にアドニスさんはララに問い掛けます。
「で、実際のところは今回もお前さんが助けてやったのかい?」
「ふふ、いいえ。 今回は逆に私の方が完全にお荷物だったわね。 こう言う仕事、得意みたいね」
「ほう、そいつは珍しいな。 それにしても、嬢ちゃんは冒険に出たがる癖に性格も適性も完璧に一般人だな……」
そう呟くアドニスさんですが、まさにそれがララにとって目下最大の悩みの種だったりしているのです。 いまだにどうすれば良いのかさっぱり分りません。
「そうなのよね、どうしたものかしら……」
「二人とも何の話してるの?」
ララがどうしようか思案していたら、銀貨を眺めるのに満足したらしいサハラさんが会話に参加してきました。
「えっと、何でも無いわ。 明日は何か良い依頼が無いか聞いていただけよ?」
「そうなんだ。 それでアドニスさん、何か良いのあります?」
「あ、ああ。 それが明日は嬢ちゃんに向いてる依頼がねえんだよな」
そもそもサハラさんがいつも受けてる依頼は繁忙期限定のピンチヒッター系の依頼なのであんまり安定して仕事が有る訳では無いのです。
「が~ん……そうなのですか」
(せっかくやる気あるのにがっかりです!)
「んー、じゃあサハラ、明日はお休みって事にしてお買い物にでも行こうか」
「むむ!? 良いですね、是非行きましょう!」
『お買い物』と聞いてサハラさんはついさっきがっかりしたのも何処へやら、すでに気分は明日の買い物に移ってルンルンです。
ララもその場の思いつきで言っただけだったのですが“意外と良い案だったかも?”と、上機嫌で明日は何処へ連れて行ってあげようかと考えておく事にするのでした。
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サハラさん達は明日の予定も決まった事ですので、今日は早めに帰ろうと言う事にしてアドニスさんに別れを告げて外に向かって歩き出します。
その時、振り向きざまに隣のカウンターで報告をしている戦士系の二人組の男の方達が目に入りました。
そのうちの一人が凄く顔色が悪くて体調が優れないというのが目に見えて分って、その事がサハラさんは少し気になりました。
でも二人連れだし、もう帰るところなんだと思うし、まあ大丈夫なんだろうな~とそれ程気にしない事にしてララの後について行きます。
とは言ってもやっぱりちょっと気になるので、聞き耳立てて様子を伺いながら行きます。
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「ねえ、貴方大丈夫なの?」
戦士二人組の相手をしている受付の女性が明らかに体調が悪い男の人の心配をして問い掛けています。
「だ……大丈夫だ……。 それより……早く報酬をくれ……」
その男の人は息も絶え絶えに脂汗を流しながら報酬を急かします。 かなり辛い様です。
「おい、ほんとに大丈夫なのか? 治療院に行って見て貰った方が良いんじゃ無いのか?」
そんな男の人を心配してもう一人の相棒さんも治療に行く様に受付の女性と一緒になって勧めます。
ですが男の人は煩わしそうに手を振って拒絶してしまいます。
「ハァ……ハァ……大丈夫だ……金がもったえねぇ……」
「だけどお前、明らかに普通の状態じゃねえよ!」
「ゲホゲホ……ゴホ……ガハ!」
そんな会話をしてる途中で男の人が咳き込んだかと思うと、血を吐き、ついには倒れてしまいました!
「キャ……キャー!」
「おい! しっかりしろ、おい!」
受付の女性と相棒さんが慌てて駆け寄りますが、男の人はすでに意識を失っていてさっきよりさらに顔色も悪化していました。 原因は分りませんが、もしかしたら命に関わる事なのかもしれません。
一連の騒ぎにギルドに居た他の冒険者達も野次馬をしに近寄ってきて人だかりが出来てしまいます。
そうじゃない人達も興味深げに遠くから覗いてます。
さすがの異常事態にすぐ隣のカウンターに居たアドニスさんも駆けつけて同僚の女性の横に座って男の人の状態を確認します。 それと同時に状況を把握しようとも努めます。
「おい、どうした? 何があったのか教えてくれ」
アドニスさんは出来るだけ冷静な喋り方で相手を落ち着かせる様に語りかけ、同僚の女性から状況を聞き出そうとしました。
「え……あ、は……はい。 今し方こちらのお二人が依頼の報告にいらっしゃったのですけど……、えと、お一人がどうも体調が優れないようでして……そ、その、治療に行く事をお勧めしていたのですけど……急にお倒れになってしまいました」
受付の女性が焦りつつもかろうじて状況を説明します。
その間にも、相棒さんが頬を叩いたり呼び掛けたりするのですが全く反応がありません。
一刻を争う事態の様で、アドニスさんもいよいよこれはまずいと思いだします。
「おい、お前。 こいつがこうなった心当たりは無いのか?」
何よりもまずは原因を特定しないと薬師を呼べば良いのか治療師を呼べば良いのかも分らないのでアドニスさんはその事を相棒さんに問いただします。
「い、いや、ねえよ! 今日は近くの森に行って“穴掘り狼”を狩ってきただけなんだよ!」
「近くの森か、それでこいつが調子悪くなったのはいつ頃からなんだ?」
アドニスさんも必死に原因を探ります。 相棒さんも何とか思い出そうとするのですけど、やっぱり原因は思い当たりません。
「ゲホゲホゲホ、ゴホ」
男の人がまた咳き込んで血を吐きました。
「畜生! おい! 誰か治療出来る奴は居ねぇのか!? 助けてくれ!」
相棒さんがとうとう焦って苛立たしげに怒鳴り声で周りに助けを求めます。
だけどこの地域は慢性的に神聖魔法使いが不足している地域なのです。
冒険者ギルドとはいえ、一日に数人回復士が来れば良い方で、全く来ない日も珍しくないのです。
そんな場所で都合良く回復士が居るはずも無く、当然の様に返事は無いはずでした……のですけど。
「は~い! あ、そこちょっと通して下さいね~。 ありがとうです」
と、何とも暢気な喋り方の女の子が野次馬を掻き分けて現れたのでした!




