第25話 依頼選び
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「さあ、ララ。 今日も頑張るよ~」
サハラさんは朝一のギルドへ乗り込み、やる気一杯にそう宣言します。
(早くララに一人前って認めて貰わないと冒険に行けないですもんね。
一昨日は依頼こそ失敗しちゃったけど、草原はすっごく綺麗だったもん。
他にももっともっと色んな所に行ってみたいものですよね)
「サハラは今日も元気ね。 それじゃあ怪我しない様に頑張りましょう」
結局あれからララは、今後の事を『色々考えたけど何にも思い付かなかった事だし、先の事はその時になったら考えれば良いか!』と開き直って問題を先送りにすると決めちゃったのです。
おかげでずいぶんと気楽になりました。
なので、とりあえずの所サハラさんのランクがEに上がるまではこのまま採取依頼で良いかな~なんて考えていたりします。
で、さっそくララとサハラさんはカウンターへ向かい――
「アドニスさん、おはようございます。 こないだの依頼はごめんなさい」
――今日も今日とて厳つい顔で睨み付けてくるアドニスさんに話しかけます。 ……いえ、別に睨んでないのかもしれないですけど。
「おう、嬢ちゃん。 別にそいつは大丈夫だよ。 昨日エルフの姉ちゃんが依頼の獲物を獲ってきたからな」
「え? そうだったんだ! ララ、ごめんね。 それと、ありがとう!」
「ぜ、全然気にしなくて良いのよ。 どうせ用事のついでだったし、大丈夫よ!」
(全く、この朴念仁ったらまた余計な事言うからサハラが気にしちゃったじゃないの!
それに私が一人でお金稼ぎに行ってるのばれたらどうするのよ!?)
ララはサハラさんにばれない様に“キッ”とアドニスさんを睨み、目線で抗議の意志を伝えます。
アドニスさんはわりかし嘘が付けない性格の様で、たまに素で危うい事を喋ってしまうのでした。
でも、当のアドニスさんはいまいちなんで睨まれてるのか分りません。
が、しかし話題を変えた方が良いと本能が訴えて来たので急遽別の話を振る事にします。
「あー、所で今日も依頼受けに来たんだろ?」
と、その話題の転換にララも睨むのを止めて乗る事にします。 アドニスさんセーフです。
「ええ、そうね。 今日はいままでと同じ採取依頼が受けたいわね。 あるかしら?」
「それなんだがよ、今日は依頼が来てねぇんだ。 繁忙期も終わったし、しばらくは余り来ないかもしれねーな。 元々ギルドに依頼出す様な事じゃねぇしな」
「え~、もう無いのですか~」
サハラさんはガックリと項垂れて体全体でがっかり感を醸し出します。
「……な、なんですって!?」
これは由々しき問題です。 ララとしてはサハラさんのランクが上がるまでは採取依頼でお茶を濁そうと思った途端に依頼が無くなっちゃったのです。 現実は時として無情です。
「……仕方無いわね。 他に何かサハラに合いそうな依頼はあるかしら?」
まあ無い物はしょうがないのでララは気を取り直して別の依頼を聞く事にします。
「そうだなー、専門知識がいらなくて、戦闘が無くて、安全な依頼って言うと……この辺だな」
そう言いながらアドニスさんがカウンターの裏から取り出してきた依頼書には。
倉庫の片付け
新市街で手紙の配達
武器屋の店番
子守役
「もう少し難易度が上がるがこんなのもあるぞ」
(と言ってもこれでようやくFランク依頼なんだがな)
カララの街全体での手紙の配達
馬の世話
居なくなったペット探し
ポーションの調合補助
EやFランクだと冒険者と言うより便利屋として使われるのでこんな感じの依頼が多いのです。 こう言う仕事を受ける為に冒険者になる人も多いですしね。
そう言う人はDランクに上がる試験を受けなかったり、そもそもランクアップに必要な推薦が貰えなかったりするのでみんなEランク止まりですね。
ララはアドニスさんが出してきた依頼書の内容をサハラさんへ読んであげます。
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「ララ、僕はポーションの調合補助をやってみたいです!」
(ポーション!
ファンタジーですよ!
どうやって作るんだろう、見てみたいですよ~)
と、サハラさんはまだ見ぬポーションにテンション上げてララにお願いします。
元々ララは精霊魔法が使えるのでポーションをあんまり使わない方なのですが、それよりなによりサハラさんと一緒だとポーションが必要になる程危険な依頼に行かないし、って事で結果としてサハラさんはポーションと言う物の実物をちゃんと見た事すらなかったりするのです。
「えー、ポーションの調合補助……ねぇ。 確かに手順通りにやれば危険は無いのだけれども」
(ポーションの調合補助なんて退屈でめんどくさい仕事の代名詞じゃない。
延々と煮たりすり潰したりした原液を混ぜるだけなのだけど、なんでそんな退屈な仕事をしたいのかしら?
しかも凄くキラキラした目だし……不思議な子ね)
「お、その依頼なら達成すりゃ報酬は銀貨一枚だな。 いいんじゃねえか?」
「銀貨!? ララ、ララ、銀貨って銅貨と比べてどれ位の価値があるんですか?」
(銅貨があるんだから銀貨や金貨だって有るんだろうとは思ってたけど、実際耳にするとファンタジーっぽくて素敵です!)
「え? ……うん。 ……え? 銅貨四十枚分よ?」
(おかしいわね、この国に限らず何処でもお金は四十枚単位なのに、なんでこんな当たり前の事を知らないのかしら?
そう言えば前にお金も持たずにご飯食べに行こうとしてた事もあったっけ)
「おぉ! 四十倍。 それは頑張り甲斐があるのです」
(でも銅貨一枚が何円くらいの価値があるのか知らないんですけどね!)
「うん、何事も経験ね。 それじゃあサハラ、一度やってみましょうか」
ララとしては室内で延々と擦ったり混ぜたりしてるよりも、外で動き回ってる方が性に合ってるので全然乗り気では無いのですけど、案外サハラさんには合ってそうな気もするので一度やってみる事にするのでした。
「ふふ~ん♪ ありがとうララ」
「良いのよ、やってみたい事はやってみるのが一番だもの。 って事だからこの依頼受けるわ」
「おうよ。 じゃ、これが工房までの地図と受注書だ。 分ってるとは思うが終わったらサイン貰って来いよ」
「ええ、忘れない様にするわ」
「アドニスさんありがとう! それじゃあ行ってきますね~」
と、言ってもとりあえずすぐ近くのテーブルで地図の確認をするのですけどね。
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「えーと、ギルドがここだから、この通りを……ここを曲がって……」
さっそくララが地図を見て工房までのルートを確認してくれてます。
工房もギルドと同じ新市街にあるらしいのでそれ程遠い訳では無いみたいなのが救いです。
サハラさんはと言うと、地図の確認中は手持ち無沙汰なので辺りをキョロキョロしてヒューマンウォッチングして暇つぶしです。
この世界、特に冒険者ギルドの中は色々な種族の人達が居るので見ていて飽きないのです。
ただし、ジロジロ見過ぎちゃうと怒られちゃうんですけどね!
そして最近サハラさんは気が付きました。
どうやらサハラさんとララは凄く目立ってるらしく、辺りを見回すとしょっちゅう周りの方と目が合ってしまうのです。
サハラさんにはその理由がさっぱり分りません……。 でも、目が合っちゃったらとりあえず会釈しつつ愛想笑いしとくのですけどね。
で、今日もすぐ近くに居た赤いローブのお姉さんと目が合っちゃいました。
(おぉっと~、ここは笑顔で会釈です!
…………あれ、でもなんか見覚えがある人な気がする)
「ん? 貴方昨日の食堂の子じゃない?」
そのお姉さんが“んー”っと考えるポーズでサハラさんに問い掛けて来ました。
「あ! お姉さんは昨日最初にお店に入ってくれた方ですね~」
お姉さんは今日も昨日と同じ様な真っ赤なローブ姿で、手には木で出来た大きな杖を持ってます。
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どんな人なのかと言うと、歳はたぶん三十行かない位っぽく、癖っ毛なのかそれともちょっとだけパーマかけてるか少しだけウェーブが掛った亜麻色の髪、日に当たらない所では黒にしか見えない程深い紅色の瞳、そしてきつめな目つきをした理知的なお姉さんです。
背の高さは百六十五センチ位、スタイルはたぶん良いのでしょうけどローブで隠されすぎてて良く分りません。
□ □ □
「昨日はありがとう御座いました~」
サハラさんは今度は会釈じゃなくてちゃんと向き合ってお辞儀します。
「いーえ、アタシの方こそ美味しい夕ご飯を食べれて良かったよ」
「そういって頂けると僕も嬉しいのです」
「でも貴方冒険者だったのね。 アタシはてっきりあの店の子かと思ってたわ。 あの店からの依頼を受けてたの?」
赤ローブさん的にはサハラさんのローブ姿は流行のコスプレか何かだと思ってたので冒険者だとは気が付かなかったのでした。
「いえ~、あそこは僕のお友達のお店なので昨日はただ単に手伝っていただけなのですよ~」
「へぇ、そうなん……だ……って、あ!!」
赤ローブさんはサハラさんの答えに返事を返す途中で、やっとすぐ横のテーブルで地図を見て考え事をしているのがエルフ族だと気が付きました。
「あ……貴方! 貴方が噂のサハラちゃんだったのね!」
赤ローブさんはサハラさん達の正体に気が付くと一気にテンション上げて目をキラキラさせます。
「え? はい、僕がサハラです。 よ、よろしくお願いします」
さすがのサハラさんもその勢いに一歩後ずさりながら答えました。
「わー、やっと噂に名高い悪女のサハラちゃんと男を寝取られた純情なエルフさんに会えたわ」
丁度ララは工房へのルートを調べ終わってサハラさんに声を掛けようと意識を向けた途端にそんな話が耳に入ってきます。
「ちょっと! ななななんて事言ってるのよ!! って言うか、その噂はまだ流れてたの!?」
やっぱりララは顔真っ赤で抗議します。
しかしそんな抗議は何のその「あははは、純情エルフと悪女な少女は今一番熱い噂なのよー」とか「噂通りの変なローブねー」「そんな無垢そうな顔してるのに寝取るなんてやるわね!」とかとか楽しそうに話して来ます。
やっぱりこないだの噂はまだ忘れられて無かったらしいですね、それどころかむしろ悪化してる可能性も……。
その後も赤ローブさんはあれやこれやと好きなだけ噂話を捲し立てます。
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「――でねでね! 他にも他にも色々あるのよー! はー、楽しい! …………ま、噂が間違いなのは会った時からもう分ってるんだけどね」
と、赤ローブさんは突然素に戻って真面目な顔でそう告げました。
やっと噂話に満足してくれたようです。
「あれれれれ、そうなのですか?」
ほんとに突然だったのでその変化について行けずに、ついサハラさんは聞き返しちゃいます。
「だってどう見てもサハラちゃん良い子だし、それにエルフさんもね」
「まったく! それならそうと最初から言って下さいよ。 ほんと、いつになったらこの噂は消えるのかしら」
プンスカ怒ってる……と言うより照れてるララはそんな風に愚痴ります。
でも人の噂は七十五日って言う位だからまだ二ヶ月位は残ってますね。
「まぁこれも何かの縁だし、貴方達がもし何か困った事があったらアタシに言ってきなさい。 笑わせて貰った分位はお手伝いするよ。 こう見えてもアタシはこの支部じゃそれなりに名が通った魔法使いなんだからね。 あ! 自己紹介忘れてたわね。 あたしはローナって言うの、今“カララの街”でもっともBランクに近い冒険者って言ってるわ! よろしくね」
「ローナさんですね、覚えました~よろしくです」
(お~、ローナさん、名が通ったって事は凄い人なんですよね! 後でアドニスさんに聞いて見よっと…………ん? Bランクに近いって言われるわけじゃ無くて、自分で言ってるんだ!?
何とも不思議で面白い人ですね~)
「じゃ、まったねー」
「は~い、またです~」
ひらひらっと手を振りながらスッとギルドの外へ去ってっちゃいました。
何だか嵐の様な人です。
ララが地図を見てる間だけちょっと暇を潰すつもりだったのにずいぶんと長居しちゃいました。
そんな訳でサハラさん達は少しだけ急ぎ気味に工房に向かいはじめるのでした。
この世界の通貨は――
半貨
銅貨
銀貨
金貨
――って感じに別れてます。
ちなみに一枚当りの価値は――
銅貨一枚=250円
銀貨一枚=10000円
――おおよそこんな感じです。
あんまり円は気にしなくて良いのですけど、何となく目安があった方が分かり易いかな~と。




