第24話 アリーさんのお手伝い
ララはエリックと別れて酒場を出ました。
ですがもう少し考えを纏めたくて店の前に置かれていたベンチに座る事にします。
(そうだったのね。 まさか人族は自分で一度も狩りをしない者が居るなんてね。 サハラを何とか一人前にしなきゃと思って空回りしていたのね。 でもそれならどうすれば良かったのかしら? 私の里だと狩りをして、そしてそれを通して弓術や戦いの術、それに色々な物事の考え方を教えられるのに……。 うーん、困ったわね、全然分らないわ。 こんな時、母様や父様に相談出来ればすぐに解決策を教えて頂けるのに……。)
結局、しばらくベンチで悩んでみたのですが、良い方法が思い付かないまま時間ばかりが過ぎ去って行くので、諦めて一度眠る事にするのでした。
◆◇◆翌朝◆◇◆
「ララ、昨日はごめんね。 やっぱり僕にハンターは出来そうも無いみたいです」
(きっとララは僕の事を考えてくれて、それで狩りを教えようとしてくれたんだと思うんだけど、ちょっと無理そう……。 獲物を殺すってのも出来そうも無いんだけど、そもそも相手と戦う事が無理って気が付いちゃったのです)
もともとサハラさんは戦闘職じゃないですし、筋力値とかも全然上げて無いので戦うなんてとてもとても……むしろその辺の5~6歳児にすら負けてしまう非力さです!
「いいえ、サハラ。 その事に関しては私が間違ってたわ。 私はサハラに自分の里の仕来りや考え方を押しつけちゃってた見たいわ……サハラ、昨日は怪我させちゃってごめんね。 私の勘違いのせいで酷い目にあわせちゃったわね……」
ララは昨日のエリックとの会話を思い起こしてしょんぼりしながら謝ります。
「そんな事無いよ~。 それにララはいつだって僕の事考えてくれてるもの、僕が感謝する事はあってもララが謝らなきゃならない事なんて一つも無いのです!」
それに対してサハラさんはちょっと焦って感謝の気持ちを伝えます。 昨日の事だってララの期待に応えられなかった自分に落ち込んでただけで酷い目にあったなんて考えてもみなかったのです。
「そんなこと無いわ! 私がもっとちゃんと考えてれば……」
「ララ、それは違うよ? 僕は嬉しかったし、ララが間違えた訳でも無いのです。 それで良いじゃない」
なおも悲痛な顔で続けようとするララの言葉を遮ってサハラさんは明るい顔でそう告げます。
「サハラ……。 分ったわ、ありがとうね」
・
・
・
そんなこんなで二人とも昨日の失敗はなんとか折り合いがつけられた…………気がします。 ちゃんと二人とも色々失敗したり勘違いしたりしちゃったのを反省してますしね。
・
・
・
ですが二人の間にある問題はそれだけでは無かったのです。
…………そう、実は最近ナイフを買ったりなんやかんやと出費がかさんだのでまたしてもお金が無くなってしまったのです!
なのでララはサハラさんに一日お休みして貰って、もう一度稼ぎに行かなければなりません。
「ねえ、昨日は大変だったし今日は一日お休みにしましょう。 私も丁度用事があるし、サハラも少しのんびりして気分転換した方が良いわ」
これは半分はララの本心です。 サハラさんは連日休まず依頼を受け続けていたのでそろそろ休んだ方が良いと思っていたのです。
「え~、そうかな~? でもララが用事あるんじゃしょうがないよね」
サハラさん的には今日も依頼を受けたかったのですけど昨日大失敗したばっかりだし、ここはララの言う事を聞いておく事にしました。
「う~ん、じゃあ今日はお休みしてアリーの所に遊びに行ってみます」
こないだ友達になった猫人族のアリーさん、また遊びに行くって約束もしてましたしね。
「うん、そうね。 それが良いわ……あ! だけど道は大丈夫?」
ララはサハラさんがまた迷子にならないか心配になります。
「大丈夫です! 僕は方向感覚は完璧なのです!」
が、サハラさんは意気揚々と自信満々にそう返事をするのでした。
「えっと……そ……そうなんだ。 ちょっと待ってね」
そんなサハラさんの姿を可愛いと思いつつもそこはかとなく不安に思います。
なのでララは棚からサッと紙を取出しサラサラと何事か書いてからサハラさんに手渡しました。
「良い? 何か困った事があったら自警団の人か女の人にこれを見せてね。 男はあぶないからダメよ?」
ちなみに紙の内容はと言うと『私の名前はサハラです。 宿屋マイン荘へ行きたいです。 もしくは冒険者のララエルへご連絡をお願いします。 ご連絡方法はギルドへ言づて願います』と書かれています。 でも読めないサハラさんにはさっぱり分りません。
〈ようするに子供に持たせる迷子札ですね〉
「わかりました~、ララは今日もエリックさん達の用事なんですか?」
サハラさんはララに貰った紙をローブのポケットにしまいつつ何気なしに聞いてみます。 前回の用事もそうだと言っていましたしね。
「え、ええ。 またちょっと手伝って欲しい事があるみたいだから、少しだけ行ってくるわね」
(あぁ……また咄嗟に嘘をついてしまったわ……。 でもお金が無いなんて言えないし……仕方無いわね)
「そっか~、ララも怪我には気をつけてね。 でももし怪我したら僕が治してあげるからね」
と言ってもサハラさんはまだこの世界でまともに回復魔法を使った事が無いので、どの位の怪我までなら自分の魔法で治せるのか全然自信無かったりもします。
「ありがとう、気をつけるわ。 でもそうね、怪我しちゃったらお願いするわね」
「うん、任せてよ~」
・
・
・
それからララは武器の点検をしてから足早に出掛けて行きました。
「フル装備で出掛けるって事は何か依頼を受けるって事かな?」
(良いな~、僕も一緒に行きたいです。 ……でも、足引っ張っちゃうだろうししょうがないよね)
ちょっとだけ寂しいけど、諦めてサハラさんも出掛ける準備を整えはじめる事にしました。
・・・・・・
ララは不安がってたけど『猫の魚と鳥亭』はサハラさん達の泊っている宿屋から真っ直ぐ一本道なので普通なら迷いようがありません。
でも宿屋を出る時に店主が「もう迷子になるんじゃないぞー」なんて大声で言ってきました。
おかげでその場に居合わせたみんなに笑われてしまい、恥ずかしさでサハラさん顔真っ赤です。
ただ、心配してくれるのは嬉しいので帽子を両手で引っ張り目深にかぶって真っ赤な顔を隠しつつお辞儀してから駆け抜けるのでした。
・・・・・
(それにしてもアリーに会うのは楽しみです。 なんと言ってもアリーはこの世界ではじめての友達ですからね! ララは友達とはちょっと違う気がするしね。 ……ララは友達って言うよりなんだろう……お母さん? う~ん、近い様な気もするけど違うような…………あ! お姉ちゃん! これだね。 なんか凄くしっくり来た気がする。 そっかそっか~、僕はララの事をそう感じてたんだ。 そうなると今度はララが僕の事をどう思ってるのか気になります、どうなんだろうね?)
・
・
・
(さてさて、そんな考え事しながら歩いてたら、さらっと『猫の魚と鳥亭』を通り過ぎちゃったようですよ? まったく、この町の迷宮度合いには、ほとほと困った物ですね)
ふ~、やれやれ。 って態度を取りつつUターンします。 ……だって、道間違えてUターンするのって恥ずかしいですよね?
ついつい誰も自分の事なんて気にして無いのは分ってるのに照れ隠しで「おっと忘れ物」って言いつつとか、何も着信来てないのに携帯取り出して画面確認しつつさりげなく方向転換したり……ね。
・
・
・
今度こそ『猫の魚と鳥亭』に着いたので軽くノックしてから鈴付きドアをカランカラーンと鳴らしながら開けます。
「こんにちは~、アリー居ますか~?」
挨拶してから、そう言えば居なかった時の事考えて無かったな~、なんて思ったのだけれどその心配は無用だったみたいで、とととととっと店の奥からアリーが走って来ました。
「わぁーぉ! サハラちゃん、いらっしゃいませ!」
アリーさんは今日も元気一杯にサハラさんの目の前まで駆け寄ってきて急停止……するかと思いきや、そのままの勢いで抱きつきました。
「わきゃ! ちょっとアリー!?」
ぎゅーっとされてサハラさんドギマギです。
「あゎゎわゎ、ごめんなさい。 つい……でも、ほんとに来てくれたんだね。 待ってたよー、ってあれ? サハラちゃん、今日はララエルさんは一緒じゃないんだね」
アリーさんは「にゃはは」と笑って嬉しそうに話しますが途中でサハラさんが一人な事に気が付きました。
「うん、今日ララはエリックさんって言う他の冒険者の人と一緒に何処か依頼で出掛けてるんだ~。 あ、エリックさんって最近このお店に来た事があるらしいよ~」
「そうなんだー。 じゃあこの前来たあの銀髪の人族の人かな、それか一緒に居た赤髪の人かな?」
「そうですそうです、その人です。 銀髪の人の方です。 良く覚えてますね~」
そう感心するサハラさんだったのですが、実はアリーさんのお店にここ二週間で来たお客さんはエリックさん達とサハラさん達位で他にはほとんど来ていなかったのです。
ちなみに今もお客さんは居ません。
「うん……うち、あんまりお客さん来ないから……」
アリーさんはシューンと耳と尻尾を垂れさせてそう呟きました。
「ぅ……そうなんだ。 アリーの料理美味しいのになんでだろうね~」
(……落ち込んだ姿も可愛いです! 耳触りたいです)
「ありがとう! でもなんでお客さん来てくれないのかなー。 このままじゃお店閉めなきゃならなくなっちゃうよー」
“なんでかな~?”とアリーさんは腕を組んで考えこんじゃいます。 のんびりやってる様でも、結構大変なんですね。
「うん、決めた! アリー、今日は僕もお店を手伝わせて下さい!」
「えぇぇぇ? そんな悪いよー。 それにどうせ誰もお客さん来ないし……」
アリーさんはサハラさんの提案にびっくりして耳と尻尾が「ピン!」と立ちます。 ……かと思いきや、すぐにまたシューンと垂れちゃいました。
「ふふーん! 大丈夫です。 任せて下さい! 今日は僕が呼び込みしますから、お客さんわっさわさ、お金もざっくざく、アリーはうっはうはなのですよ~」
何故か自信満々に胸を張って言い切るサハラさん。
呼び込みなんて生まれてこのかた一度もやった事なんてありません。
それどころか唯一やった事がある接客と言えば、文化祭の時にクラスでやった喫茶店くらいなものだったりします。
しかしアリーさんはそんな事とはつゆ知らず。
「おおー! さすがサハラちゃんだー」
(さっすがサハラちゃん、頼りになるなー! 明るくて可愛いし、ほんとにお客さん連れてきてくれそうだね!)
と、言うふうに、なんとも自信有り気なサハラさんを信頼して、少し憧れちゃってたりもします。
・
・
・
・
・
「さっそく準備をするのです」
何事も準備と段取りは大切です。
サハラさんはまずはこの店に足りない物は何か調べる事にしました。
(え~と、お店の中はちょっと狭いけど綺麗に掃除してあって清潔感があります。 キッチンも綺麗です。 でも地味です……これは頂けないです! 何にも飾り付けしてないのがダメですね。
ただ店員さんは最高に可愛い猫人族さんです。 これは完璧なのです。
それに料理も美味しい、って事は後はお店の飾り付けさえすれば一度来たお客さんがどんどん口コミで宣伝してくれる様になる……はず!
最初の一回目の来店をして貰うのは僕が頑張るとして……)
「アリー、テーブルクロスを敷きましょう!」
「てーぶるくろすってなぁに?」
「……」
(な、何ですってー! むむ~、そう言われれば他の店でもクロスが敷いてあるお店って見た事無い気がします。 この世界だとあんまりそう言うのに手間かけないのかな~? 洗濯とか手間ですもんね……。
でもやって損は無いはずです!)
「じゃあ綺麗なシーツとか余ってないかな~?」
「それならあるよー、でも何に使うの?」
「うん、それをね、テーブルに被せるとお洒落になるのですよ~」
「へー、でもお洒落なテーブルで何か良い事があるのかな?」
「ふふ~ん。 それはね、お洒落で美味しいお店には何度でも行きたくなるって効果があるのですよ~」
そんな感じでサハラさんは、どっかの受け売り知識をアリーさんに全部伝授して行きました。
それにお洒落で綺麗なお店の隠れた効果として『人は綺麗な場所は汚さない様に気をつけるようになる』って事も期待できるのです!
だから綺麗にしとけば結果としてお客さんが汚さなくなって掃除が楽になったりもしますしね。 〈時と場合によって全く効果無い時もありますけど……〉
他にも字だけで書かれてたメニュー表に絵を付け足してどんな料理か分る様にしましたし、テーブルとかに小さな花瓶置いて一輪の花も飾りましたし、店のドアにも店名をちゃんと書いてアピールしたし、素人のサハラさんに思いつく事ですぐに出来そうな事は大体やってみました。
・
・
・
・
・
「ふ~、疲れました。 ちょっと休憩しようか~」
「そうだねー。 サハラちゃん、こんなに色々教えてくれてありがとー。 私の知らない事ばっかりだったよ、サハラちゃんは物知りなんだね」
(凄い色々知ってるけど、どこのお店で働いてるのかな-? きっとお洒落な旧市街のお店なんだろうなー)
なんてアリーさんは盛大な勘違いしちゃってたりします。 そもそもサハラさんが冒険者だって自己紹介し忘れてるのが原因なんですけどね。
「そんな事無いよ~、アリーのが色んな料理は出来るし器用だし猫耳付いてるし凄いですよ~。 耳触って良いですか?」
「え……え? ありがとう……でも、触っちゃダメ……だよ」
「が~ん、さりげなく言ったのにダメだったです……」
「あはは、耳触りたいだなんてサハラちゃんはエッチだねー」
「!?」
(あれれ? 猫人族さんの耳触るのってそう言う事だったんですか!? こ……これからは気をつけよう、うん)
・・・・・
なんやかんや準備してたら日も傾いてきてみんなのお腹も空き始めるって言う良い感じの時間になりました。
(さ~て、それじゃ張り切ってお客さんを呼び込みましょう!)
「いらっしゃいませ~! 猫の魚と鳥亭で~す。 美味しい魚料理や鳥料理はいかがですか~?」
(こんな感じでとりあえず最初は普通に行ってみますか~)
・
・
・
と言う感じでしばらく普通に呼び込みをするサハラさんでしたが……いまいち反応が薄いようです。
(う~ん、ダメみたい。 次は道行く人を直接誘ってみようかな。 でもこの辺歩いてる男の人はみんなマッチョでおっかないから女の人を狙いましょう……お、あの人が良さそうです!)
「こんばんは~、お姉さん! 夕ご飯はこれからですよね? 良かったらそこの猫の魚と鳥亭で食べてきませんか~」
丁度歩いてた、赤いローブ着て長い杖を持ってる魔法使いっぽい女の人に声を掛けてみました。
「ん、こんな所にそんな店なんてあったかしら? 美味しいの?」
「はい! 実は知る人ぞ知る隠れた名店なのですよ~。 魚と鳥の料理が得意なのです。 美味しいですしお値段も手頃ですよ~」
(ふっふーん! 食いつきました!)
「へー、今日は依頼が上手く行って気分が良いし行ってみようかな」
「ありがとうございます。 ご案内しますね~」
(ふふふ、完璧です!)
・・・・・
カランカラーン
「アリー、お客様のご案内です。 お願いしますね~」
サハラさんは鈴付きドアを開けて赤ローブさんを店内の席に案内すると同時にアリーさんにも声を掛けました。
「あゎゎゎゎゎ、ほんとに連れてきた! いらっしゃいませー!」
サハラさんに言われた通りに料理の準備をして待っていたのだけど、ほんとにお客さんが来てびっくりなアリーさん。
「あら、冒険者街にあるわりにはお洒落な店なのね」
「ありがとうございます、頑張った甲斐があります。 お姉さん魚と鳥、どちらが好きですか~?」
和風接客術の基本、笑顔で対応! って事でサハラさんは営業スマイルで素早く好みを聞き出します。
「ん~、特にどっちって事は無いわね」
その答えも想定内です。 あらかじめ在庫が多い方をアリーさんに聞いといたのでサハラさんはそっちを勧めます。
「では魚の料理がお勧めですね~、今の時期手に入り辛い赤シマハヤの塩焼きが絶品なのですよ」
・
・
・
・
・
と、こんな感じで女の人狙いで呼び込みを続けたらそこそこ来店して貰えました。
それにお店ってお客さんがある程度入るとそれに釣られて他のお客さんも来てくれますよね。 サクラ効果ですね。
そんなこんなで、もともとお客さんが来ない予定で食材をあんまり用意して無かったので午後七時過ぎには完売しちゃいました。
「す、凄いです! サハラちゃん凄すぎます!」
店始まって以来の大盛況にアリーさんは疲れなんか吹っ飛んじゃって大興奮です。
「こんなにお客さん来たの初めてだよー。 料理作るの大変だったけど、もっと材料用意しとけば良かったよー!」
「あはは、上手く行って良かったのです。 お客さんもみんな美味しそうに食べてくれてたし、何人かは“また来る”って言ってくれましたもんね」
「うん! それにサハラちゃんのアドバイスの内装も何回も褒められたよー“ちょっとしたワンポイントでお洒落になるんだね”って言ってたよ」
綺麗にするのって大事なんだね。 とアリーさんは興奮冷めやらぬ感じで巻くし立てます。 でも、ほんとに上手く行って良かったです。
そうこうしてるうちに教会が夜を知らせる鐘を鳴らしだしました。 そろそろ夏本番って言ってもさすがに辺りは真っ暗です。
「あぅ、もうこんな時間だ! ララが心配しちゃってるかもしれないからそろそろ帰らないと~」
「えぇ、もう帰っちゃうんだ……。 あ、そうじゃなくて、お礼! サハラちゃんにお礼しなきゃ!」
「え~、お礼はいいよ~。 僕も楽しかったし、何より僕たち友達だもん。 友達が友達を手伝うのは普通の事だよ~」
そう言ってサハラさんはアリーさんが今日の売り上げからお金を取ってこようとしたのを制しました。
「じゃあ、今日は帰りますね~。 今度はララと一緒にご飯食べにくるね~」
「うん! 待ってるよ!!」
二人は笑顔で手を振り合って、それからサハラさんはララの待つ宿屋へ急いで帰るのでした。




