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森のエルフは過保護さん  作者: rurura
カララの町 《雑用編》
23/80

第23話 勘違いと失敗と、、、


 あの後、そのまま帰る事にしたのですけど、結局宿に着くまでサハラさんは落ち込んだままでした。

 うつむいてトボトボ歩く姿はまるで泣いてるかの様に見えた位です。


 見るに見かねたララは何とか元気をだして貰おうと「今日は私のミスよ」とか「次頑張れば大丈夫よ!」や「それか次は足鳥にしましょうか?」と言って励ましてみたりしたのですけど、全然効果はありませんでした。



 しかも宿に帰ってきすぐにサハラさんは「ごめんなさい、今日は疲れたから水浴びしたら寝ちゃうね」と言って水浴びの後、ほんとうに寝てしまいました。



「うー……なんだろう、何がダメだったのかしら?」

(うぅぅ、何だか分からないけど失敗したわ……)


 サハラさんが寝ちゃったのでララは気を利かせて部屋から出てきました。 プラプラと当てもなく通りを歩きながら今日の事を思い返していました。

 だけどララにはどこが悪かったのか良く分らないのです。


(うーん、狩りの教え方が悪かったのかなぁ? それか、たまたま失敗しちゃって落ち込んじゃったのかな? ……もしかして、うさぎ……苦手なのかしら? うーん……)


 そしてララ自身もサハラさんに怪我をさせてしまった事と、サハラさんの心を傷つけてしまったらしい事に酷く落ち込んでいるのでした。

 そんな状態で町を歩き回って居たら、いつの間にか宿屋の前まで戻って来てしまっていました。


 でもまだ帰る気分にはなれません。 かと言って何処に行く当てもありません。


 仕方無くララは宿屋の程近くにある酒場に入る事にしました。



◆◇◆◇◆



「よう、最近よく会うな」


 酒場は賑わっていてカウンター席しか空いていなかったので、ララは何気なく適当な席に座ったのですが、丁度隣の席にエリックさんが居ました。


「そうね。 私だって飲みたくなる事ぐらいあるわ」


 ララはすっかり落ち込んでいたのでついつい素っ気ない物言いになってしまいます。



「何だ、ずいぶんと機嫌が悪そうだな。 なんかあったのか?」


 エリックさんはララのあんまりな物言いについ反射的にそう問い掛けてしまいましたが、よくよく考えるとララはサハラさんと出会う前はしょっちゅうプリプリ怒ってた事を思い出します。




「ちょっとね……色々あったのよ」


 ずーん、と音が聞こえそうな程沈んだ声音でそれだけ答えます。


「ふーん。 ま、どうせお嬢様の事だろ?」


 深刻そうなララの気を知ってか知らずか、エリックさんは“やれやれ”って態度で酒を飲みます。

 そんな態度にララは気持ちを逆なでされて心をみだされてしまい――


(むむむ、何よ! 元はと言えば貴方が狩猟依頼なんて受けろって言うからこんな事になってるんじゃない!)


 と、責任転嫁してしまうのでした。




「そうよ! 貴方の言う通りにしたらサハラが酷い目に遭っちゃったのよ!」


 ララはもう我慢出来ない! とばかりに“バン!”とカウンターを勢い良く叩きつけながら怒鳴りました。

 声量自体はそこまで大きくは無かったのですけど、その態度と口調に周囲のお客さんが振り向いて(いぶか)しんでいます




「ふむ、良く分らんが……とりあえずこれでも飲んで落ちつけよ。 目立ってるぞ」

(どうにもララエルは思い込むと周りが見えなくなっていけねえな)


 エリックさんはいつの間にか注文した果実酒をララに手渡して落ちつかせます。



「そうね……ありがとう」

 と、ララは礼を言って受け取り、一気に飲み干します。

 それから店員におかわりを注いで貰い、その頃にやっと平常心を取り戻せました。



「で、結局何かあったのか?」



「ええ、何かあったなんて物じゃないわ……」



 エリックさんはララが落ちついたのを見計らって話をうながしてみます。 が、こないだのやり取りやさっきの話しぶりから大体何が起こったのか想像出来てたりします。

 事実ララがぽつりぽつりと話し始めた内容を聞くにつれ、予想は確信に変わって行きました。



 エリックさんは二人が今日何をしていたのかを聞いてある程度どう言う状況なのかが分かってきました。


 どうやらララ達二人はさっそく狩猟依頼を受けたらしいけど、しょっぱなから失敗しちゃった様です。

 そしてお嬢様が何故だか凄く落ち込んでしまって困っていると、そう言う事らしいのです。



「なあお前さん、一つ確認なんだけどな、今日のアタッカー(止め刺し)は誰だったんだ?」


「そんなのサハラに狩猟依頼を受けさせろって言ったのは貴方でしょ? サハラに決まってるじゃない」


 ララは何を当然な事を聞くのかと本気で不思議そうに言います。



「あーやっぱりな、そうなんじゃ無いかと思ったよ。 で、彼女は怖かったって言ったんだろ?」



「ええそうよ。 良く分らないのだけど、ウサギを狩るのが怖いと言っていたようね」



「そうか」

(たぶんエルフ族には無い考え方だろうから理解し辛いんだろうな。 しかもララエルはまだ成人すらしてない若者らしいしな)


「ふんふん、とりあえずそれは一先ず置いといてだな、まず最初に一ついいか?」



「なんです?」



「俺は前回お前さんの話しぶりを聞いてお前さんがお嬢様を溺愛してると感じたからさすがにやらないだろうと思ってたんだが……」



「だから何よ?」


 ララはエリックさんの深刻ぶった言い方に少しイライラして急かしてしまいます。



「お前さん、実はかなりのスパルタ教育なんだな」



「……………え?」



「何せ生まれてから一度も自分の手で生き物を殺した事が無いだろうお嬢様によー、昨日の今日で突然大型のウサギを殺せって、そりゃー無茶ってもんだぜ」



 「え……? ……え?」




「まあそうやって傷付けたり傷付きながら生き急ぐかの様に成長するのも一つの方法っちゃ方法なんだが……そもそもな話お嬢様は別に前衛目指してる訳じゃねえんだろ? お前さん……どうも勘違いして無駄にお嬢様を傷つけたんじゃ無いのか?」



「ど……どう言う事?」


 ララはエリックさんの言った事が全然理解出来なくてこんがらがってしまいます。


「ふぅ-、やれやれだな。 良いか? あの子は人族だろ? 人族ってのはエルフと違って『まずは戦士であれ』って掟なんて無いんだよ。 だから狩りをするって言ってもそれがイコールあの子が直接手を下すって事にはならねぇし、その必要もこれと言って無いんだよ」


〈エリックさんはエルフの掟として『まずは戦士であれ』って例えを出してますけど、実際にはこの掟はララの生まれた里の掟なだけであってエルフ族共通の掟では無いです。 でもこの辺りでエルフって言えばララの生まれた【黒の森】の事なのでエリックさんは勘違いしているのです。〉


「俺が一昨日言った狩猟依頼とかどうだってのはな、お前さんと一緒に色々経験させてやれって意味で、何もあの子に直接狩りをさせろって事じゃ無かったんだよ」

(さすがに俺でもずぶの素人な上に良い所のお嬢様にいきなり一人で大兎を狩らせようなんてしないっての)



「え……えぇーー! な……なんですって!? 完全に勘違いしてたみたいわ!」


 ララはまさかエリックさんがそう言う意味で言ったなんて欠片も思わなかったので、勘違いしてサハラさんにかなりの無茶をさせようとしちゃったのでした。

 その事実に気付いたララはさっきまでの自分を張り倒したい気持ちに駆られて両手で顔を覆い嘆きます。



 そんなショックで今にも泣き崩れそうなララに向かってエリックさんは尚も続けます。



「それと、もう一つお前さんが分かって無さそうな事も教えてやるよ。 ま、これは必ずしも合ってるかは保証出来ないけどな」


 そう言って手に持っていた酒を一口飲み、エリックさんはこの若いエルフに上手く伝えられる言葉が無い物かと思案します。


「えっとな、あのお嬢様が言った怖いってのだけどな、ありゃ何もウサギが怖いって言う単純な話じゃねえんだよ。 さっきの話にも通じる事なんだが、あの子……たぶん生き物殺した事無いんだよ。 だから“殺す”って事自体が怖いんだと思うぜ」



「どう言う事? だってサハラも普通に肉や魚を食べてるわよ」


 幼少の頃から自分達で狩りをして生きる為の糧を手に入れる生活を送ってきたララにとって、食べる事と狩る事とは同じ事なのです。 

 だから食べる為に殺すのが怖いと思った事も無いし想像も出来ないのです。




「そうだなぁ……。 あぁ、たぶんこの例えで伝わるかな。 お前さん、自分の森の霊木を切った事はあるか?」



「いいえ、無いわ。 そんな恐れ多い事、成人もしてない私がやれる訳ないわ」


 森に住むエルフ族は『神木』と呼ばれる非常に長い年月を経て大きな力を持つ様になった母なる木に守られて生活しています。

 そしてエルフ族は『神木』に守って貰うお返しにその苗木と言えるまだ年若く弱々しい力しか無い『霊木』を守り育てているのです。

〈“年若い霊木”と言っても樹齢千年は軽く超えています〉



「だが森では時々切って神殿を作ったり武器に加工したりするんだろ? ここまで言えば分かったろ。 お前さんにとっての霊木を切るって事と、あの子にとってウサギを殺すって事が大体同じだって事だ」


 そう言い切るエリックさんでしたが、実は内心(もしかしたら違うかもしれねぇけどな!)と、付け加えたのは内緒だったりします。



 エリックさんの話を聞き終わったと同時にララは“ガターン!”と派手に椅子を弾き飛ばして立ち上がり、激しく動悸する自分の胸を押え――


「な……なんて事……私、そんなつもりじゃ無かったのよ」


 ――今にも泣き出しそうな顔で何とかそう(つぶや)いたのでした。





(あ、やっぱちょっと違ったっぽいな)

 エリックさんは予定より深刻に捉えちゃったララの様子にちょっと失敗した気がしてきたので一応フォローしとく事にします。



「ま、そんな大げさに考えんなよ。 今日はミスったかもしれねえけどさ、この経験を次に生かせば良いんだよ」


 フォローしつつララが弾き飛ばした椅子を元の位置に戻してあげて座んなよとジェスチャーで促します。



「次……ね。 でも次はどうすれば良いのか分からなくなってしまったわ」



「それについては俺がどうこう言う事でも無ぇからあえて何も言わねえが、それでも一つ言うなら……」


 そこで区切り、スッとララの目を見てから続けます。


「……お嬢様に前衛は無理って事だな! 何せその辺の八、九歳位の子供でも普通に勝てるウサギに負けたんだからな! あっはっはっ!」

 とエリックは豪快に笑うのでした。



 そんなエリックさんにララはニッコリと微笑み今日の感謝を伝え、それと同時にばれない様にひっそりとエリックさんが大嫌いな食べ物を本人(エリック)宛で山盛り注文しておいてあげたのでした。



 ――ちなみにララ自身は料理が来る前に宿屋に帰ったのでした。







※ララエルさんの弓は霊木製です。

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