9.獅子
「旅行に、いかないか?」
婚約が正式に決まり、時期公爵夫人として山の様な勉学にリーナが頭を悩ませていたある時、レグルスは言い出した。
「いつか言っていただろう?お前の故郷にも綺麗な花があると」
見たくなったと彼はいう。
彼自身も病で伏せっていた期間にできなかった勉強が山の様にあるはずなのに、気にした様子はない。
「結婚前に、妻の故郷を見たいと思うのは、おかしいか?」
少し照れくさそうにレグルス。
「帰って……いいの?」とリーナが不安気に手を伸ばすと「ああ、行こう」彼はその手を両手で掴んだ。
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当然のことながら、2人の父は反対した。
レオナールは、レグルスが病が治ったばかりであり、さらには学ぶことが山の様にある息子が婚約者と共に旅行に行きたいなどと、心配なことこの上ない。
ディルゴは養子に迎えたばかりのリーナが可愛くて仕方がない。レグルスとの婚約を渋るのも冗談ではなく、半ば本気だった節があった。
だが、この親たちは子供に甘い。
結局は数日間の旅行を許可したのだった。
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馬車に乗り数日。
リーナは帝都に連れ去られた時の道中を正直あまり覚えていなかったので、機械仕掛けから田園風景へと変わりゆく景色を楽しんだ。
「属州ってもっと僻地なイメージ…っと、悪い。
でも、そんなイメージだったが違うんだな」
そんな素直なレグルスの感想にリーナは笑った。
「確かにそんな地域もあるみたいですが、私の故郷は豊かな方だったかと」
本国との違いは税金くらいなものだろうか。
「見直されるといいな、属州政策」
「ですね」
実際、多少改善されることを期待できる。
帝国民を優良種として血を濃くしてしまえばまた魔蝕紋のような呪病が現れてしまうかもしれない。
もっとも、人身売買のようになっては困るが。
「おじちゃん!おばちゃん!ただいまー!」
故郷の村に着くとリーナは馬車を飛び降り、農作業をしていた年配の夫婦に大きく手を振った。
「リーナ!リーナちゃんかい?!」
おばちゃんと呼ばれた女性が振り返り駆け寄る。
「元気そうで安心したよ」
「心配したんだよー?急にいなくなったから」
2人はそう言ってリーナを撫でた。
リーナは苦笑して、「今度結婚するの」と報告する。レグルスが軽く頭を下げながら歩み寄ると「あらまあ」と2人は深く頭を下げた。
「リーナちゃんをよろしくお願いします」
「幸せにしてください」
「ああ、必ず」とレグルス。
その足で、今度はリーナの生みの親と祖母の墓前に立った。
「おばあちゃん、お父さん、お母さん、遅くなってごめんなさい。私結婚するの」
そして近況を報告した。
墓は何も言わないが、風が答えた気がした。
「リーナは俺が幸せにします」
そっと彼女の肩を抱きレグルス。
2人は目を合わせ、額を合わせて、笑った。
最後に墓前でリーナは歌った。
故郷を思うその歌はその場の誰もの胸に染み渡った。
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そして、半年の時が流れた。
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風に獅子の旗がはためいている。
花が舞い、小鳥が歌う。
笑い声と泣き声。
ステラティス家の館は今日は特に賑やかだった。
「カナリア様…いえ、奥様、綺麗ですー」
いつもリーナのそばにいたメイドが泣き笑いで言った。
その後ろでメイド長がハンカチで目元を拭いながら「泣くんじゃありません、みっともない」と言っている。
リーナは笑い、鏡に映る自分を見つめた。
純白のドレスに身を包んだ自身の姿は、まるで昔話のお姫様だ。
属州にいた頃には考えられなかった。
「本当に綺麗じゃ。あの坊ちゃんには勿体無い」
と彼女の養父になったディルゴ。
「今からでも遅くない、帰るか?」というと、
「それだけはやめてくれ」と、リーナ同様に純白の礼服に身を包んだレグルスが入ってきた。
そして「さあ、行こうか」と彼女に手を差し出す。
「はい」と彼女はその手を取り、エスコートされるまま歩き出した。
今日はレグルスとリーナの結婚式だった。
レオナールは、ほんの少し前までは考えることもできなかった息子の姿に、胸がいっぱいになった。
ーーー神よ、感謝します
今日のよき日に祝福を。
そしてカナリアは今日も獅子の隣で愛を歌う。




