8.告白
さて、どうしたものか…とレオナールは天を仰ぐ。
カナリア…リーナという娘を連れてきたのは自分だ。
その力で息子を救えるなら…と。
実際に彼女は息子を…そして同じ魔蝕紋に苦しむ者たちを救ってみせた。
彼女自身は、何もしていないと笑っていたが。
その彼女を伴侶にしたいと息子は言った。
公爵家の当主としての自分は反対だった。
身分が違いすぎる。仮に自分が許したとして、世間が許すか…苦労するのは彼女自身だろう。
だが、父としての自分は……どうしたいのだろう。
息子には今まで我慢した分、思うままに生きてほしいと思う。
リーナも、身分やそれに付随する知識や経験以外は申し分ない女性だ。
応援したい気持ちもある。
棚に飾られた1枚の写真に目をやった。
微笑む女性は今は亡き彼の妻だ。
ーーーお前なら、どうした?
答えは当然、帰ってこなかった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
ある日の午後、久しぶりに庭でお茶にしようと、レグルスはリーナに声をかけた。
当然のように二つ返事で彼女は同行する。
季節がすっかり変わり、夏の花の咲き乱れる庭に、リーナは感動する。
そんな姿を優しく見つめながら白いガゼボへとレグルスは彼女をエスコートした。
メイドの用意したハーブティーを一口飲む。
「いつ来てもここは素晴らしいです」
と、彼女が笑うが、レグルスの内心はそれどころではなかった。
父に《筋を通せ》と言われた。
義父になるかもしれないディルゴには《娘は嫁にやらん》と言われた。
最近、使用人たちからも無言の圧力を感じる。
《今のままでは駄目だ》と一念発起して、今日は声をかけたのだ。
「リーナ、話があるんだ」
レグルスが改まって聞いてほしいというと、リーナは「はい」と、とても良い笑顔で応えた。
彼はカップに残ったハーブティーを一気に飲み干し…
「り、リーナはこの後どうしたい?」
と、絞り出した。
彼の視界の端で地団駄踏むメイドが見えたのはきっと気のせいだ。
「この後…ですか?」とリーナ。
「あぁ、俺もリーナのおかげでだいぶ良くなったから、そろそろ先を考えても良いと思ったんだ」
彼がそういうと、リーナは悲しそうに顔を伏せた。
「…そう…ですよね。いつまでもお世話になっているわけには…」
「違う!」
レグルスは叫んだ。
「そういう訳ではないんだ」
「では…どういう…」
不安そうな彼女を見て、息が詰まりそうになる。彼は2度深呼吸をして
「養女にならないか?」
と尋ねた。
「養女…ですか?」
「ああ、ディルゴの」
「ディルゴ先生の!」
リーナは一瞬喜び…なぜと再び首を傾げだ。
「家族がいないと言っていただろう?」
それに…と彼は続ける。
「俺はリーナにプロポーズしたい」
リーナの目を見てレグルスは言った。
少しの…ほんの僅かの間。
「……プロ…ポーズ…」
リーナは首まで顔を赤くした。
レグルスはひとつうなづいた。
そして、席を立ち、リーナの傍らに跪き、その手を取った。
「俺はリーナを愛している。生涯の伴侶としてそばにいたい」
小さなその手に口付けをひとつ。
「で、でも…」
「今のままでは、リーナは身分を理由に断るだろう?だが、そんなことは気にしなくて良い」
そして再び「リーナはどうしたい?」と彼女に尋ねた。
「私は…」戸惑いながらリーナ。
「お側に…居たい…です」
それを聞いてレグルスは満面の笑みを浮かべた。
「ならば応えて欲しい」
「はい、私も、愛しています」
そんな2人を窓から見守っていたレオナールはため息をひとつつき、棚の上の写真を見つめた。
「これでよかったのだな?」
確認する様に、誰にともなく尋ねる。
答えはない。
彼はデスクの上に一枚の書類を出した。
婚約に関わる誓約書だ。
結局のところ、父親としての自分が用意させたのだ。
席につき、冷めた紅茶を飲む。
そして、これから報告に来るだろう、2人を待った。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
翌日2人はディルゴの研究所を訪れた。
「そうか、決めたのか」
彼ははうなづき、笑顔で彼女を迎えた。
「正式な手続きは後日になるが、今日からお前はわしの娘。よろしくな、リーナ」
「よろしくお願いします、お、お父様」
そしてぎこちないハグを交わした。
面白くないのはレグルスだ。
「リーナは俺の婚約者だ。あまり触れないでくれ」
はぁ?とディルゴ。
「その話なら無効だぞ」と返した。
レグルスもはあ?と返す。
「なぜだ!」
「娘はやらんと言っただろう」
「だが…」
「やーらーん!!」
まるで子供の喧嘩だ。
だが、そんな2人をリーナは笑いながら見守っていた。




