7.画策
執事のジョルジュでございます。
坊ちゃまの病に回復の兆しが見えてからというもの、毎日大量の釣書を運ぶのに一苦労しております。
《坊ちゃまとカナリア様を応援する会》会長のメイド長…マーガレットは私の妻でありますが、彼女に毎日「燃やしてしまいなさい」と言われるのが最近の悩みでございます。
確かに、カナリア様がいらっしゃってから坊ちゃまは変わられました。
坊ちゃまが久しぶりに笑われた日、私たちはこっそり乾杯をいたしました。
坊ちゃまがお庭に出られた日は、夕食が最後の晩餐かっ?!と思うほど豪華でございました。
そして坊ちゃまが外出した日には!
我々使用人一同!朝まで踊り明かしました!
それほどまでに皆、旦那様と坊ちゃま、そしてカナリア様を敬愛しているのでございます。
ですから、是非とも幸せになっていただかねばなりません。
そのためなら、私はこの身を粉にして…
って、マーガレットっ?!
一体何をしているんだ!?
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
ステラティス家の門前には多数の馬車がひしめいていた。
馬車からは色とりどりのドレスを纏ったご令嬢とその使いが降りてくる。
「レグルス公爵令息はご在宅でしょうか?」
「レグルス様にお会いしたいの、どいていただけません?」
「観劇に行きませんこと?」
それらを無視してメイド長は職務を放棄して、門前の掃き掃除をしていた。
埃が舞うがお構い無しだ。
令嬢たちはドレスが汚れるのを厭い下がる。
「それではご機嫌よう」
そして門はかたく閉ざされた。
その光景を窓から見やり、レグルスはため息をついた。
呪病を患っていた時は見向きもしなかった癖に、治る兆しが見えた途端これだ。
魔蝕紋が落ち着くと、レグルスはリハビリを始め、リーナの歌による回復やしっかりとした食事と睡眠で体つきもしっかりしてきた.
まるで呪病で失った15年を取り戻したかのように。
「凄いですね」とリーナはくすくすと笑っている。
「どうなさるんですか?」
「どうもこうもないよ、俺にはリーナがいるんだから」
そっとリーナの頬に触れてレグルス。
2人の視線が絡んだ。と、その時
「申し訳ありません、坊ちゃま」
レオナールの執事がドアの前から声をかけた。
「あ、ああ、なんだ」
2人は慌てて離れる。
「大変申し訳ありません。旦那様がお呼びです」
一礼して執事。「わかった、すぐ行く」と彼は応え、「またな」とリーナの頬にキスを落として部屋を後にした。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
レオナールは執務室で頭を抱えていた。
毎日のように送られてくるレグルスへの釣書。
だが肝心のレグルスは一向に選ぼうとしない。
もう24…時期に25になる。
父として彼は心配でたまらなかった.
しばらくののち、「失礼します」とレグルスが訪れた。
「何の用ですか、父上」
「わかっているのだろう、とぼけるな」
病が治る兆しが見えてからというもの、息子は変わった。
あの無気力だったのが嘘のようだ。
いや、病が治る以前、カナリアが来てからかもしれない。
もしかしたら、これが本来の息子なのか?とレグルスを観察すると、息子はため息をひとつついた。
「全部断ってくださいと伝えたはずですが?」
「お前は私の後を継ぐんだ。そういうわけにはいかんだろう」
両者睨み合う。
「俺には心に決めた人がいます」
「まさかカナリアとは言わんだろうな」
重苦しい空気。ドアの外で執事は青ざめている。
「だとしたら、何だというんです?」
「あれは属州民だ」
レオナールの言っていることは正しい。
属州民はあくまで属州民。帝国民の末席だ。
公爵家の嫁に相応しくはない。
「ですが!帝国民の血の濃さが魔蝕紋がに影響していたとわかったばかりです!」
ならば…とレオナール。
「そもそもアレは了承しているのだろうな?」
今度は彼から問いかけた。
「それは…」
レグルスは言い淀む。
「話にならんな」とレオナールは鼻で笑った。
「………っ!」レグルスは拳を握り締め俯く。
「せめて筋は通せ、話はそれからだ」
そして彼は執事を呼び、レグルスの部屋に大量の釣書を運ばせた。
レオナールが言うことはもっともだった。
だがレグルスも手を拱いていた訳ではない。
それとなく、本当にそれとなくリーナに幾度か尋ねたのだ。
その度「お側にいられるだけで幸せです」と返され、何も言えなくなってしまう。
「ああ、そうだ」
レグルスは思いつき、珍しく1人で…とは言ってもお付きのものはいるが、出かけたのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
レグルスが向かったのはディルゴの研究所だった。
「今日は投薬の日では無いぞ」
彼は迎えはしたものの、資料から目を離さない。
「頼みがある」
「わしはカナリア嬢の頼みを聞くと言ったのではあっておぬしではらないのだけどのう…」
「そのリーナのことで頼みがある」
真剣な目をしたレグルスに、「まあ、話は聞いてやる」とディルゴは資料を置いて向き直る。
「リーナをあなたの養女にしてほしい」
膝に拳を置き、半分乗り出すようにしてレグルス。
「ほーう…」とディルゴは自分の顎を撫でた。
「レオナールに何か言われたか…?」
図星だった。
「なるほどのう」と彼は考える。
「駄目…だろうか?」
「考えておいてやろう、わしもカナリア嬢は嫌いでは無い」
レグルスはほっと胸を撫で下ろした。
が、ディルゴは「…じゃが」と続けた。
「外堀を固めなければ不安でプロポーズひとつできん男に」
ディルゴはニヤリと笑って言った。
「娘はやれんのう」
またやっちまいました!
愉快なステラティス家
ちなみに踊ってたのは昔懐かし恋ダンスかもしれない。




