5.希望
助けたいと思っていたんじゃ
目に映る全て
それはとても難しいことじゃった
助けを求め手を伸ばす命
掴もうとしても届かない
幾つの命を見送っただろう…
わしは研究に明け暮れた。
人になんと呼ばれてもいい。
ただ、寿命より前に結果を残したかった。
レグルスの治療を引き受けたのはそんな時じゃった。
泣きつくようにやってきたステラティス公爵。
「息子を助けてくれ」
と悲痛な顔は今も忘れられん。
ーーー第七種侵蝕性魔力紋症候群
いつか、くるとわかっていた。
新種が増えている魔蝕紋がそこに到達する日が。
原因不明。症状の緩和はわずかしか出来ない。
そんな中、レグルスが15年もの長い間生き続けてくれたことだけでも奇跡じゃというのに…
もう一度奇跡が起きた。
カナリア嬢が現れた。
魔力の調和で緩和できる事を証明できた。
あとは原因究明じゃ。
医師のプライドとこの命にかけて、必ず治療法を見つけてやろう。
これが最後の戦いじゃ。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
ディルゴがステラティス邸を訪れたのは、前回同様、昼を過ぎてからだった。
治療法がわかるかもしれないと聞いていてもたってもいられなかったのだろう、今日はレオナールも同席している。
ディルゴは、来るなり「これに触れてみろ」と金属の塊のようなものをテーブルに出した。
「これは?」
不安に思ってレグルスが尋ねると、貴族にとっては一般的な合成金属の塊だという。
恐る恐る触れてみれば、魔蝕紋が反応し、とてつもない倦怠感と、急速的に魔力が失われるのを感じた。ふらりと身体が傾く。
「先生!」
レオナールが声をあげた。
ディルゴがリーナに目配せする。
リーナは歌った。
「なんだったんだ?」
不思議そうなレグルスに「まず、これが魔蝕紋の発動条件じゃったんじゃ」とディルゴは言った。
「だったらそう言えよ、触らせなくても良いだろう」
リーナの回復してきたレグルスがため息をつく。
「なになに、百聞は一見にしかずじゃ」
「じゃじゃねえよ」
「つぎに、魔蝕紋の罹患条件じゃが…」
「聞いてないな」
「やはり母体かもしれん」
「……っ!?」
レオナールが息を呑んだ。
息子を苦しめている呪病の原因が亡き愛妻かもしれないと言われたのだ。ショックを隠せなかった。
「な、なぜだ?」
「正確には妊娠時のある治療…いや、魔法じゃ」
それもやはり、貴族の間では一般的なものだった。
良い子が、強い子が生まれるようにと行われるそれが、濃い帝国民の血と合成金属と反応、低確率で呪病として罹患する、数年から十数年後に発病するため見落とされてきたのかもしれない。
「………」
言葉がでなかった。
「気に病むでない、誰も知らなかった。今の今までな」
ディルゴはそういって「じゃがこれで新たな罹患者は防げるやもしれん」と笑った。
「あとは俺みたいに呪病になった人間か」
レグルスがつぶやく。
「そ、それなんですが…」
リーナが声を上げた。
「私、おばあちゃんもそのまたおばあちゃんも帝都の人の血入ってないです。濃すぎる血が原因なら、使えませんか?」
「なるほど!」
手を叩いて、ディルゴ。
「直接接種というわけにはいかんが、帝国民以外の血で薬を精製するのはいいアイディアかもしれん…」
「協力、してもらえんか?」とディルゴは彼女に手を差し出した。
「ふざけるな!リーナにそんなことさせられるか!」
か、レグルスがその手をはたき落とした。
そして、リーナを抱きしめる。
「俺はリーナを守りたいだけだ。リーナが辛い思いをするくらいなら呪病とともに死を選ぶ!」
「レグルス様!大丈夫ですから!」
「レグルス、やめろ」
熱くなっているレグルスをリーナとレオナールが諌めるが、彼は手を解かなかった。
「安心せい、全身の血を抜いたりはせん。うちにも生粋の属州出身の研究員くらいおる。1人に背負わせたりせんよ」
ディルゴがいうが、「だが…」と納得しない。
「我が家からも支援を出そう」
レオナールが言う。
「わ、私も無理はしません!」
「……約束だ」
そこでやっと力を抜いた。
ディルゴはレオナールに「これからが大変じゃのう」と笑った。




