ゴミ箱に捨てられる世界で、リリアーヌは笑う
バルトロメウスの悲鳴が、砂漠の熱風に混じって不協和音を奏でる。
魔樹に根を張られ、再生と搾取のループに陥った男の顔は、絶望の色に染まっていた。
「うぎゃあああ、助けてくれ! 俺は、エクリチュールに騙されたんだ。知っていることを話すぅぅぅっ!」
「……耳を貸す価値があるか、判断して差し上げますわ」
リリアーヌが冷ややかに告げると、バルトロメウスは泡を吹いて、震える声で物語の「禁忌」を漏らした。
「アイツは……女神は、本来の力を……失っている。だから、過去にボツになったプロットから無理やり命を吸い上げて……」
刹那、天から降り注いだのは――――。
バルトロメウスの口が、消しゴムで消されたかのように、物理的に消失していく。
「あ、が……っ!?」
声にならない悲鳴。それだけではない。彼の四肢が、胴体が、朱いノイズに包まれながら、急速に「ただの文字の羅列」へと還元されていく。
「――っ、下がりなさい、カイル様!」
リリアーヌが叫ぶのと同時だった。
バルトロメウスだった「文字の塊」が爆発し、そこから巨大な墨汁の槍が、リリアーヌの喉元をめがけて飛来した。
「させねぇよ!」
ヴィンセントが愛剣で叩き伏せるが、一閃された槍は霧となり、周囲のオアシスを黒く塗りつぶし始めた。
「……プロットの強制削除。いえ、『口封じ』ですわね」
リリアーヌが黄金の万年筆を強く握りしめる。
黒霧の向こう側、空が割れ、一人の女のシルエットが浮かび上がった。
冷笑を浮かべ、この世界を「原稿用紙程度」としか思っていない傲慢な瞳。
『あらあら、残念。もう少しで、「種明かし」ができたのに』
エクリチュールの声が、世界のシステム音のように響き渡る。
『バルトロメウスは「退場」よ。さて、リリアーヌ。貴女の校閲は、物語そのものが消滅しても続けられるかしら?』
足元の砂漠が、ガタガタと崩れ始める。
エクリチュールが、「短編」をボツ原稿として、ゴミ箱へ捨てようとしていた。
「……ふふ、あはははは!」
絶体絶命の状況で、リリアーヌの笑い声が響く。
「女神ともあろう方が、随分と余裕のないことですわね。読者に飽きられるのを恐れて、展開を急ぎすぎましてよ?」
リリアーヌは『千夜一夜物語』を高く掲げた。
「ゴミ箱の底から、最高の『逆転劇』をお見せしますわ。……カイル様、お守りいただけますか?」
「……ああ。生存率120%の意味、女神に教えてやるよ」
カイルが剣を構え、リリアーヌの横に並ぶ。
崩壊する世界の中で、黄金のインクがかつてないほど激しく輝き始めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
バルトロメウス……口封じで消されてしまいました。エクリチュール様、容赦がありません。
ですが、女神に対し、リリアーヌ様は不敵に笑っています。
次回も、どうぞお楽しみに!




