校閲令嬢は、女神のプロットを「最高傑作」に塗り替える
足元から風景が剥離し、文字の砂となって虚空へ吸い込まれていく。
空に開いた巨大な穴――それは、女神が物語を葬る「ゴミ箱」だった。
『さようなら、貴女たちの存在を、今ここで「なかったこと」にしてあげる』
天から降り注ぐエクリチュールの冷笑。
だが、リリアーヌは崩れゆくオアシスを見つめて、静かに黄金の万年筆を回した。
「……ふふ。随分と幼稚な構成ですわね」
リリアーヌが万年筆の先を、崩壊する空間の「亀裂」へと突き立てた。
刹那、黄金のインクが回路のように世界中を駆け巡り、消え去るはずの風景を物理的に繋ぎ止める。
「な、なんですって……!? 消去が、止まった……!?」
『全選択』
――リリアーヌが凛とした声で宣告する。
『女神の「ボツ原稿 」、私が「最高傑作」へと塗り替えて差し上げますわ!』
精霊セリナは、全ての力をリリアーヌに注ぎ込んだ。
『これより、全記述を、リリアーヌの管理下へと『移動』いたします!』
「させるか!」
カイルの咆哮が、空を切り裂いた。
生存率120%。カイルの剣が、無数の朱いノイズを真っ向から両断する。
「俺たちがいる限り、リリアーヌに一文字も触れさせはしない!」
「その通りだ。……我が家門の魔導を以て、絶対防御する!」
ヴィンセントの魔力が、リリアーヌの周囲に何重もの幾何学模様を描き出した。
『千夜を統べる英霊たちよ、主の赤ペンに従いなさい!』
リリアーヌが掲げた『千夜一夜物語』から、シンドバッド、アリババ、アラジンが再臨する。
女神の「削除」という圧力に対し、彼らは「物語の主役」としての圧倒的な存在感で、真っ向から拒絶した。
黄金の光が世界を包み、魔神ザフィエルが声高に叫ぶ。
『愚か者が! 我が主のペン先は、理不尽すらも書き換える! 千夜の重みを、その程度の一筆で消せると思うなッ!』
『馬鹿な……! 私は執筆者よ! 私の書く文字こそが、この世界の絶対法則……!』
「いいえ。読者に飽きられた書き手の言葉など、ただのノイズに過ぎませんわ」
リリアーヌは空に浮かぶ女神へ向け、巨大な『×(バツ)』を描き出した。
万年筆から溢れ出すのは、これまでの冒険で蓄積された「整合性」という名の光。
それは、女神が書いた残酷な物語を葬り、リリアーヌの意志で世界を塗り替える究極の校閲魔法――。
『全面改稿』!!
「あ……あああああ! 私の記述が、設定が……ッ! 黄金の花に、飲み込まれていく……!?」
独りよがりな設定、残酷な不死の呪い、理不尽なバッドエンド――全てが、リリアーヌの手によって無慈悲に「却下」された。
光が収まった時、そこには崩壊しかけた砂漠ではなく、リリアーヌの意志そのものである「瑞々しい花園」が、地平線の彼方まで広がっていた。
女神が用意した「ハリボテの安息」ではない。リリアーヌの生命力と、カイルたちの想いが綴る、真実の風景だ。
「……ここから先は、貴女の指図など、通しませんわ。世界は、私たち自身の言葉で満たされています!」
リリアーヌは万年筆を一閃させ、完全に浄化された世界を見渡した。
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