『禁書指定』――「校閲」は、罪ですか?
「……終わりましたのね」
咲き誇る黄金の花々に囲まれ、リリアーヌは万年筆を収めた。女神の呪縛は消え、世界は正しく書き換えられた。
しかし、平穏は――唐突に、本が閉じられるような乾いた音にかき消された。
リリアーヌの意識をなぞるように、世界がパタンと二つに折れ曲がる。
視界を埋め尽くす光が収まったとき、リリアーヌたちが立っていたのは、美しいオアシスの町でも、果てしない砂漠でもなかった。
物語に呑み込まれる直前の場所――現実世界のギルドの一室。
『千夜一夜物語』の中に、魔神ザフィエル、シンドバッド、アリババ、アラジンが強制的に吸い込まれた。
精霊セリナ、カイル、ヴィンセントが周囲を見渡すと、一冊の豪華な装丁本が落ちていた。金装飾が施された表紙には、『永遠なる午睡の都 』という題字が刻まれている。
その本を、革手袋をはめた手が静かに拾い上げた。
「お見事でした、リリアーヌ嬢。女神エクリチュールを完璧に排除するとは」
「……どなたですの? 許可なく人の物語に触れないでくださる?」
リリアーヌの鋭い視線を、彼は柳に風と受け流した。革手袋の指先で表紙をなぞり、重厚な封印を施すと、冷徹に宣告した。
「私はリチャード。これを『禁書』に指定し、時空管理局で厳重に保管します。……そして」
リチャードの鋭い視線が、リリアーヌの手元にある『千夜一夜物語』へと向けられた。
「物語を書き換える力は、劇薬だ。秩序を乱した罪として、その本も預からせてもらう」
「お待ちになって。正当な手順で、私に譲られたはずですわ。勝手に没収だなんて!」
リリアーヌの反論を遮るように、リチャードの背後に控える「時空管理官」と「禁書庫の守護者」たちが前へ出た。得体の知れない圧力が室内に満ちる。
激昂したカイルが剣の柄に手をかけたが、刹那、表情が戦慄に染まった。
リチャードの権能の前では、カイルの生存率の計算すら狂い始め、ついには「0%」の底を突き抜けてマイナスへと振り切れたのだ。
ヴィンセントもまた、見たこともないほど、顔を蒼白にさせていた。
抗う術はなく、リリアーヌの心の拠り所であった『千夜一夜物語』は、リチャードの手へと渡ってしまう。
手元に残されたのは、一本の黄金の万年筆のみ。
最強の矛盾を失い、丸腰に近い状態で次の物語へと放り出されるのか。
現実世界の冷たい静寂の中で、リリアーヌは唇を噛み締めた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
リリアーヌ様が最大の武器を失うという衝撃の展開になりました……。
リチャードの真意は? そして、生存率がマイナスに振り切れたカイル様の運命は……!?
次回も、どうぞお楽しみに!




