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【挿入】異世界転送は、あまりに陽気な悪筆と共に

「お疲れ様でーす! EXエキストラクエストの受注確定、承りましたぁ!」


 扉の奥で待ち構えていたのは、ギルマスではなかった。


 花が咲くような笑顔を浮かべた、しかしどこか虚ろな瞳をした受付嬢だ。

 

 彼女は軽快なトーンで、とんでもないことを口にする。


「今回のクエストタイトルは、これっ!

『俺の生存率が120%で無双確定だったのに、幼なじみの校閲令嬢が世界をバグらせて異世界に強制連行される件』!

 さあ、未開のプロットへいってらっしゃいませーっ!」


 パチン、と指が鳴らされる。

 直後、書き損じの原稿がシュレッダーにかけられるような音を立てて、何もかもが崩壊した。




「――っ、リリアーヌ!」




 カイルが咄嗟とっさに手を伸ばす。

 だが、視界は瞬く間に白光に染まり、重力は意味を失った。




    †




 カイルは「夢」を見ていた。

 懐かしく、そして吐き気がするほどに残酷な、失われた魂の断片。




 空を埋め尽くすのは、神々しい光を放つ天使の軍勢。

 地に伏すのは、変わり果てた仲間の姿。




(……ああ、俺のせいで……)




 ひざをつく視界の先。

 リリアーヌによく似た女性が、光の鎖につながれ、絶望の表情で天へと引き上げられていく。



『カイル……っ、逃げて!』



 叫ぶ彼女の足元で、最強を誇った執事リチャードが、文字通り砕け散った。

 慈愛に満ちた聖女アーリエルが、光の矢に貫かれ、砂の如く消えていく。



『カイル、あとは頼んだ……』



 そして――



『卑怯な、我は……』



 ユイナと呼ばれた見知らぬ女性が、迫りくる「黄金の怪物」のあぎに呑み込まれ、存在を世界から抹消された。





 黄金の怪物が下した「ボツ」という名の処刑。

 抗う術がなく、葬り去られる――。



(二度と……二度と、あんな結末は認めない!)



 カイルの魂が咆哮ほうこうした刹那せつな




    †




「――いい加減に目をお開けなさい、カイル様!」


 りんとした声が、絶望の夢を切り裂いた。

 カイルが目を見開くと、地平線の果てまで続く、黄金の砂漠。


 リリアーヌが抱える『千夜一夜物語』からあふれ出した砂が、風景を物理的に塗り替え、転送の衝撃から全員を守っていた。


「生存率120%という素晴らしい設定がありながら、悪夢にうなされるなんて……。そのプロット、私が今すぐ『校閲』して差し上げますわよ?」


 黄金の万年筆を握り、リリアーヌが不敵に微笑む。


 隣では、ヴィンセントが愛剣を引き抜き、見たこともない異世界の空を仰いでいた。


「……やれやれ。どうやら、まともな『道』すら記されていないようだな」


 その時、黄金の砂漠が、生き物のようにうねりを上げた。

 地平線の彼方から湧き出したのは、数えきれないほどの異形の軍勢。


 だが、リリアーヌは動じない。

 『千夜一夜物語』が、太陽よりもまばゆい光を放ち、ページからあふれ出した砂が空中で巨大な影をかたどっていく。


 現れたのは、天を突くほどに巨大な、威風堂々たる「魔神」――。


 かつてリチャードに屈服し、心酔した強大な概念の化身。


 魔神は砂漠に両膝りょうひざを突き、リリアーヌの前で深くこうべを垂れた。


「千夜を統べる黄金の筆先――リリアーヌ様。……我が名は、ザフィエル。お命じ下さい、この世界の全てを蹂躙じゅうりんせよと」

 ご愛読ありがとうございます!


 陽気な受付嬢に案内された先は、砂塵舞う物語の深層。

 カイル様が見た、謎の「ボツ・ルート」……。リチャード、アーリエル、そしてユイナ。彼らが黄金の怪物に敗れた日、一体何が起きたのか。


「ユイナって誰!?」「生存率120%なら砂漠でも余裕だなw」などなど、感想をお待ちしております!

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― 新着の感想 ―
確かに「たられば」というモノはありますね。例えれば「卵」の行きつく先は? ……色々あります。けど、その中の一つしかなれない。そのほかはみんな「たられば」なんですね。その一つを見せられたのでしょ。だっ…
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