【校閲】母の設定がバグりました。――精霊様による「強制フィルタリング」で真実が黄金の光に……
嵐のあとの、気まずい茶会。
王宮での激戦を終えたカイルとヴィンセントが公爵邸に到着した時、そこに広がっていたのは予想だにしない光景だった。
椅子に深く腰掛け、魂が抜けている母エレオノーラ。
……お母様。聖域でのはぐらかし、私には通用しませんわよ?
リリアーヌは、校閲ガールの本能に従い、母の頭上に浮かび上がる「※注釈」を読み取ろうと目を凝らした。
言葉で語らぬのなら、「隠された設定」を暴くまで。
リチャードの正体、そしてリリアーヌの出生にまつわる文字列が実体化しようとした。
『強制フィルタリング、発動ーーーっ!!』
鼓膜を突き破らんばかりの叫びと共に、精霊セリナが虚空からダイブしてきた。彼女がリリアーヌの視界を遮るように指先を振った瞬間――。
「……えっ?」
リリアーヌの目の前で、エレオノーラの全身にかけて、まばゆいばかりの「黄金のモザイク」が高速で展開された。
もはや母の姿はどこにもない。あるのは、ただ激しく点滅する、長方形の光の塊。
「セリナ! 何ですの! お母様の注釈が、モザイクで一切読み取れませんわ!」
「ダメよ、リリアーヌ! まだ解禁条件を満たしてないわ! 今知ったら、この物語のジャンルが『異世界転生〔恋愛〕』から『神話級の泥沼愛憎劇』に書き換わっちゃう! 読者様の情緒がもたないわよ!」
リリアーヌは、黄金の万年筆を突き出し、モザイクの隙間から「注釈」をこじ開けようとする。
だが、セリナが黄金のインクをぶち撒け、徹底的に塗り潰していく。
「どきなさいセリナ! 邪魔ですわ! 注釈を見せなさい!」
「見せられないわ! だって今のお母様、存在そのものがコンプライアンス違反なんだもん! 倫理の壁を限界突破しすぎてるのよ!」
リリアーヌが右から覗き込めばモザイクも右へ。左から覗けば左へ。
必死に真実を隠蔽するセリナを前に、居間の入り口で立ち尽くす男たちが、引きつった顔で呟いた。
「……なぁ、カイル。俺の目おかしいのか? 母上が、神々しいほどに発光しているように見えるんだが。……新しい美容法か?」
ヴィンセントが、愛剣を握ったまま呆然と尋ねる。
カイルは、遠い目をして答えた。
「……見ないほうがいい、ヴィンセント。きっとあれは、今の俺たちが触れてはいけない『地獄絵図』なんだ……」
結局、どれだけペンを走らせても、出生の秘密という名のデータは「閲覧制限」の彼方に消えた。
リリアーヌは、深いため息をつき、万年筆を天に掲げた。
「……もういいですわ。お母様の『設定バグ』は後回しです。まずは世界中に散らばった『物語の残党』を片付けに参りますわよ!」
「賛成ですわ、リリアーヌ! さあ、健全な冒険物語に戻りましょう!」
セリナが力強くガッツポーズを決める。
こうして、真実は「黄金の光」の中に埋もれたまま、アストレイド公爵邸での話し合いは強引に幕を閉じたのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
出生の秘密という最強の爆弾を、「閲覧制限」の彼方へ葬り去ったセリナ。
リリアーヌ様の校閲をもってしても、コンプライアンスの壁(精霊の必死なブロック)は高かったようです……。
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