【完結】千夜の果てに、跪(ひざまづ)く魔神
砂漠に、千回の月が昇り、千回の太陽が沈んだ。
――リチャードが、指を一度鳴らすほどの刹那に。
巨大な魔神の姿は変貌していた。
砂漠に両膝を突きながら、巨大な頭を砂に擦りつけた。
そして、嗚咽を漏らして震えている。
『……あ、ああ……。何という、何という残酷で、美しい物語か……っ!』
魔神が流す涙は、インクとなって砂に染み込んでいく。
リチャードが語り聞かせたのは、世界のいかなる書物にも記されていない、荒唐無稽な「創作」。
空を、海を、そして愛という概念さえも、たった一振りのペンで書き上げたという「とある執筆者」の、孤独で一途な恋の物語だった。
「さて。ようやく千夜を数えましたね。……満足いただけましたか、観客席の魔神さん?」
リチャードは、空になったティーカップをソーサーに置いた。
「ヒッヒッヒ! 決まりだ、リチャード! 千夜分の『感動』がテーブルを埋め尽くした。魔神の勝ちに賭けていた連中は全員破産だ!」
傍らで、ギャンブラー・オールインが黄金のコインを高く弾き飛ばした。
彼が積んでいた「物語の結末」というチップは、リチャードの語りが終わると同時に、莫大な配当となって手元へと還元される。
「配当として……そうですね。この物語の『支配権』を頂きましょうか」
オールインが指を鳴らすと、カイルの頭上にあった「生存率」の数字が、弾けるように書き換わった。
魔神がリチャードの物語に心酔し、殺意を完全に喪失したことで、カイルを縛っていた「削除」の因果が崩壊したのだ。
『……我が主よ。いや、真なる語り部よ。……我は、何という不遜な真似を……っ。続きを、どうか、その後の物語を聞かせてはいただけぬか!』
第086話をお読みいただき、ありがとうございます!
「語り続けなければ死ぬ」というルールを逆手に取り、即興(?)の物語で魔神を完全な「ファン」へと変えてしまったリチャード。
ギャンブラー・オールインの配当により、カイル様の生存率も劇的に跳ね上がりました。
リチャードが語った「物語」は、本当にただの作り話なのか、それとも……。
次回も、どうぞお楽しみに!




