【校閲】生存率120%――予定された絶望の削除
王宮、舞踏会場。
「リチャード? 一体何者なんだ!?」
カイルとヴィンセントの目の前で、巨大な『本』が猛烈な勢いで頁をめくっている。
パラパラという紙の音は、もはや重火器の乱射音に近い。吸い込まれたリチャードの安否を気遣う暇もない。
ただ、カイルの頭上に浮かんでいた不吉な「生存率0.1%」という数字が、ページがめくれるたびに、バグを起こしたように跳ね上がっていくのを、呆然と見守るしかなかった。
「0.1……50……80……120%!? おい、生存率が100を超えたぞ! どういう理屈だ!」
ヴィンセントが叫ぶ。
本来、物語の記述に従えば、舞踏会場はカイルが命を落とす「終焉の頁」であるはずだった。
だが、今やその本は、高速で全く別の物語へ製本し直されている。
「……リチャードか。中から無理やり『結末』を書き換えている」
カイルは剣を握り直し、苦笑した。
絶望的な数の敵兵に囲まれていたはず。だが、空から降るインクの滴に触れた者たちが、次々と「未登場のモブ」のように消えていく。
バチンッ! と、空気が爆ぜる音が響いた。
限界まで加速していたページの回転が、唐突に止まる。
最後に開かれた頁には、本来の「悲劇」を塗り潰すように、金の文字でこう刻まれていた。
『――予定された絶望は削除されました。以後、物語の主導権は、リチャードから――リリアーヌ・アストレイドに譲渡されます』
第087話をお読みいただき、ありがとうございます!
カイル様の生存率、ついに100%を突破。
もはや「死ぬことができない」という、物語の破壊が行われました。
リチャードが刻んだ「譲渡」の二文字。
彼が奪い取り、リリアーヌ様に捧げた「本」は、世界をどう書き換えていくのか。
次回も、どうぞお楽しみに!




