表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/212

【校閲】文字の檻と、深淵のインク。~たとえ地獄の頁でも、ティータイムは邪魔させません~

 リチャードが吸い込まれた本の中。

 天地も定かではないインクの深淵しんえんだった。


 周囲を埋め尽くすのは、「削除デリート」や「消滅バニッシュ」といった、対象を存在ごと抹消せんとする呪詛じゅその文字列。


「ふむ……。記述の密度が高すぎて、空気がインク臭いですね」


 リチャードは、迫りくる「死」の文字を平然と無視し、まずは愛用の執事服のほこりを軽く払った。

 たとえ終焉しゅうえんつづる地獄のページだとしても、紳士が身だしなみを崩す理由にはならない。


「独りで茶をすするのも、寂しいものです」


 リチャードが指を鳴らす。

 アイテムボックスから現れたのは、磨き抜かれた白磁のティーセットと、この世のものとは思えぬ芳香を放つ茶葉。



「さあ、お仕事の時間ですよ。『愛読書』から、お出まし願いましょうか」



 リチャードが神力・・を込めて本を開くと、三つの異質な影が実体化する。

 一目見ただけで発狂しかねないほど強大な、概念の化身たち。



「リチャード、こんなインク臭い場所に……。私の羽衣が汚れたら、ナニワ印の聖女洗剤で洗ってもらうわよ」


 ふわりと舞い降りたのは、天空仙女・ハクア。

 羽衣をひるがえすと、重苦しいインクが、陽炎のように中和され、色鮮やかな水の都が現れた。



「リチャード、お腹空いた! この『絶望』って漢字、結構美味しい。次は『滅亡』を食べてもいい?」


 次いで現れたのは、小さな体にドレスをまとった異界の暴食姫・ベルゼ。

 周囲を漂う「滅びのプロット」を、お菓子のようにつまみ、むしゃむしゃと口を動かす。物理攻撃も魔法も効かぬ「世界の仕様」を、ただの栄養分として処理していく。



「ヒッヒッヒ! リチャード、今日のけ金は何だい? 世界の『結末』か? それともあんたの『給料』かい?」


 最後の一人は、派手なスーツに身を包んだ、胡散臭うさんくさい笑顔の男。億万長者のギャンブラー・オールインだ。

 黄金のコインをもてあそび、物語の外のカイルの頭上に浮かぶ「生存率0.1%」という非情な数字を眺めて、愉快そうに肩を揺らした。



「私の給料は高いですよ。……賭けるのは、この本を閉じた後の『未来』にしておきましょうか」



 リチャードは優雅な手つきで、三人のカップに紅茶を注いでいく。

 背後では、ハクアが空間を清め、ベルゼが敵意を食らい、オールインがチップを積んで絶望的な確率を書き換えていく。


「執事のたしなみとして、最高のティータイムをお約束しましょう」


 絶望のページのど真ん中で。

 リチャードは不敵に微笑み、静かに紅茶を口にした。

 第084話をお読みいただき、ありがとうございます!


 カイル様を飲み込むはずだった「絶望の記述」に、単身ダイブしたリチャード。

 ですが、彼にとっても「お茶会会場」に過ぎなかったようです。


 召喚された「天空仙女」「暴食姫」「ギャンブラー」。

 果たして、オールインが賭けた「未来」はどちらに転ぶのか。


 「面白い!」「リチャードの過去が気になる!」と思っていただけたら、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】での応援をよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
……え?……神力?……トンデモナイお方のようでした。 執事さんに呼ばれたお三方もトンデモナイ方達のようですし。 先ずする事がお茶会ですか~。「アリスのお茶会」(通称「マッドティーパーティー」)にな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ