そのクッキー、火力が強すぎませんこと?
聖域は、静まり返っていた。
リリアーヌは万年筆を握り締め、勢いよく立ち上がる。
「カイル様が危ない……っ。お母様、すぐに王宮へ向かいますわ!」
だが、焦燥を遮るように、エレオノーラが穏やかに、しかし抗いがたい威厳を持って告げた。
「お座りなさい、リリアーヌ。転生令嬢たるもの、ティータイムの途中で立ち上がるなんて、無作法の極みですわよ」
リリアーヌの動きが、凍りついたように止まる。
「……えっ? お母様、いま、なんて……? どうして、そのことを……」
心臓が早鐘を打つ。前世の記憶、校閲ガールとしての魂。誰にも、愛するカイル様にさえも明かしていなかったはずの「設定」を、母は事も無げに口にした。
「ふふ、そんな顔をなさらないで。カイル様のことは大丈夫ですわ。……リチャード『先生』が援軍に向かわれましたから、すべてお任せしましょう」
「リチャード……先生……?」
混乱するリリアーヌをよそに、エレオノーラは優雅にクッキーを指先で持ち上げた。
「それよりも見てくださる? このクッキーの焼き加減……。火が通り過ぎていると思わなくて?
まるで、誰かさんが焦って書き殴った『プロット』のように、ね」
エレオノーラがセリナから本を受けとると、注釈で『あら、鍋敷きにピッタリじゃない』と表示された。
ご愛読ありがとうございます!
お母様――! あなた、一体どこまで知っているのですか!?
「転生令嬢」という言葉を聞いたリリアーヌ様の衝撃。
そしてさらりと語られた「リチャード先生」という呼び名。
お茶会を続けるお母様の余裕は、ただの強がりか、それとも「校閲」すら不要なほどの勝算があるのか……。
次回もどうぞお楽しみに!




