執事(リチャード)はカイルを呼び捨てにする
血の匂いと鉄錆の音が響く王宮の舞踏会場。
カイルは、リリアーヌの兄ヴィンセント、そして生き残った少数の近衛騎士と共に、押し寄せる四大侯爵の残党を迎え撃っていた。
「ここに逃げ込むとは馬鹿め、取り囲め!」
指揮官が、包囲網を狭めながら高笑いを上げる。
「……やはり、俺とリリアーヌを引き離すのが目的か」
カイルが鋭い一撃で敵を退けながら吐き捨てる。
ヴィンセントもまた、返り血を拭う暇もなく剣を振るった。
「騎士団本部との連絡も途絶えたままだ。ギルドマスターもグルなのか?」
「間違いないだろう。……それにしても、敵の数が多すぎる」
ヴィンセントが叫び、瞳に鋭い光が宿る。
「追い込まれたのは貴様たちだ! 『万象喚起』!」
ヴィンセントに英雄の魂が乗り移る。大剣を一振りすると、凄まじい衝撃波が広間を駆け抜け、群がる敵兵を瞬時に全滅させた。
だが、安堵の時間は与えられなかった。
王宮の天井を突き破り、空から降りてきた「巨大な本」が、不気味な音を立ててページをめくり始める。
そのページが王宮の石壁を、空気を、そしてカイルたちの存在ごと飲み込もうと大きく開かれた刹那。
空を蹴り、一人の執事が中心へと舞い降りた。
「カイルを奪うつもりか? ……リチャードの名において命ずる。我が魂を物語の中に誘え!」
リチャードが本の中に吸い込まれると同時に、本の頁が狂ったようにめくれ、記述が異様な密度で膨れ上がった。
ご愛読ありがとうございます!
舞踏会場でのヴィンセント様の無双劇!
さすがリリアーヌ様の兄君、アストレイドの血筋に抜かりはありません。
物語の頁を埋め尽くしたリチャードの「魂」は、一体どのようなイレギュラーを書き加えたのか。
次回も、どうぞお楽しみに!




