人質(お母様)が優雅すぎて、お茶会の邪魔(調査官)が浮いていますわ
リリアーヌが校閲を終えたあとの聖域。
母エレオノーラは、相変わらずスコーンを口に運んでいる。
そこへ、慌てふためいた精霊セリナが姿を現した。
「リリアーヌ! 大変、大変よ! 空から降ってきた『本』が、世界を勝手に書き換え始めてるわ!」
「……落ち着きなさい、セリナ。お母様を人質に私を呼び出すのですから、当然の結末ですわ」
リリアーヌは万年筆のインクを拭いながら、冷淡に答える。
そこへ、顔面蒼白の調査官が駆け込んできた。
「リリアーヌ様! 外がとんでもないことに……! 王都との通信が途絶え、国境付近では帝国の精鋭騎士団までもが『本』に飲まれて消滅したとの報告が……っ。すぐにここを離れ、避難の準備を!」
言葉を遮るように、エレオノーラがティーカップをソーサーに置く。カチリ、と硬質な音が響いた。
「あら。調査官さん、慌ててどうなさったの? あなたがリリアーヌに命じたのでしょう。それに、私たちは、『無期限の待機』を命じられたはずよ。……誰かさんの陰謀でね」
「し、しかし、公爵夫人! 世界が崩壊しかけているのですぞ!?」
「ええ、だからこそよ。世界が勝手に書き換わっている最中に、中途半端な知識で動き回るほど無作法なことはなくて? ……お茶会の邪魔をしないでくださる?」
セリナが震える手で、懐から一冊の「降ってきた本」を取り出した。
「でも……リリアーヌ。この本の表紙、見てよ。カイル様の名前が……『世界から削除されるべき登場人物』として、赤字で書かれているのよ!」
私は、愛用の万年筆を強く握り直した。
「許可なく、『物語のヒーロー(運命の相手)』を退場させようなど。……万死に値する、世紀の大誤植ですわ」
ご愛読ありがとうございます!
世界が物語に飲み込まれ、帝国の精鋭すら消えていく異常事態。
「人質」だからこそ、堂々と居座ってお茶会を楽しむ。お母様の逆転の発想に、調査官も読者の皆様もタジタジではないでしょうか。
しかし、カイル様に突きつけられた「削除」の赤字。
次回も、どうぞお楽しみに!




