【追記】差し止められた帰還と、ギルドの不可解な「指名依頼」
アストレイド公爵家の朝食が終わり、中庭には母様の帰還を待つ家族が揃っていた。
エレオノーラは、公爵夫人である傍ら、趣味が高じてギルドに登録している凄腕のシングルハンター。
父様の手元にある位置情報魔道具(GPS)は、母様がもうすぐ領地へ入ることを示していた。
「……おかしいな」
ふと、父様が眉をひそめた。
母様の居場所を示す針が、――ギルドの管轄する検問所の位置で、ぴたりと止まったままなのだ。
しばらくして現れたのは、母様ではなく、馬を飛ばしてきた冒険者ギルドの特使だった。
彼は父様の前に膝をつくと、震える手で一通の『公文書』を差し出す。
「……閣下、申し上げます。エレオノーラ殿の帰還は、現在ギルド本部の通達により『無期限の保留』となりました」
「……何だと?」
父様の声が低く響く。周辺の空気が凍りついた。
四大侯爵を退けたばかりのアストレイド公爵家に対し、たかが一組織であるギルドがその夫人を足止めするなど、本来ならあり得ない暴挙だ。
「理由を言え。妻に何か不手際があったというのか」
「いえ……。エレオノーラ殿が発見された『遺物』に、規約では分類不可能な……いわば、記述の矛盾が見つかったとのこと。調査が終わるまで、彼女を『聖域』の管理下に置くと上層部が決定いたしました」
「規約だと? そんなものは、公爵家が保証人になれば済む話だ。今すぐ彼女を帰せ」
「それが……今回の件に関しては、閣下の権限も及びません。……ただ」
特使は、さらにリリアーヌへ向けて、銀封された一通の書状を差し出した。
「調査官はこう申しております。『令嬢――リリアーヌ様が内容を確認し、承認されるまで、この件は一歩も進められない』と」
家族の視線が、私に集まる。
父様や、お兄様ですら介入できない「ギルドの掟」。それを、私という個人が確認すれば解放するという、あまりにも不自然な指名。
(お母様を人質に、『現場』へ呼び出すつもり……?)
私は、特使が持つ書状をじっと見つめた。
サクラが、隣でけたたましく頁をめくる。
「……ふふ、よろしいですわ。ギルドがそこまでして『校閲』を求めているというのなら、謹んでお受けします」
私は、お兄様が用意してくれたクロワッサンを一口だけ食べると、優雅に立ち上がった。
「お母様の時間を勝手に止めた、支離滅裂な『規約』……。真っ赤に添削して差し上げますわ」
第078話をお読みいただき、ありがとうございます!
リリアーヌの母・エレオノーラ。
公爵夫人でありながら、本業(?)は「ギルドに登録している凄腕シングルハンター」という、アストレイド家最強の自由人です。
父様すら頭が上がらない「アストレイド家の真の支配者」が一体何を見つけてしまったのか。
そして、リリアーヌに届いた不穏な指名依頼。
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