【乱丁】氾濫するノイズと、黄金の救世主
「――本格的な『削除作業』を開始いたしますわ」
リリアーヌが告げた直後、轟音が鳴り響いた。
「――っ!?」
ガバルディ侯爵が率いていた軍勢に異変が起きたのだ。
予言の頁が悲鳴を上げて裂け、溢れ出した「朱いノイズ」が、魔物たちに泥のごとく纏わりついた。
ノイズを吸った魔物たちは、元の姿を留めぬほど肥大化し、文字化けしたバグの塊へと変貌していく。
さらに、破れた頁の行間からは、新たな異形の群れが際限なく湧き出してきた。
数千、数万という異質の群れが、足元の『草』を粉々に踏み砕き、平原を漆黒へと染め上げていく。
「ひ、ひぃぃぃ! 助けてくれ、こんなはずでは……!」
腰を抜かすガバルディ侯爵たち。
すると、天から伸びた朱い触手が、まるで「使い物にならなくなった駒」を回収するように彼らを強引に絡め取った。
「逃がしませんわ!」
リリアーヌが黄金の万年筆を振り抜く。だが、壁となって押し寄せる魔物の群れがインクを遮った。
あと数ミリ、ペン先が届くより早く、四大侯爵たちは絶叫と共に予言の書の「外」――現実世界のどこかへと引きずり出され、消失してしまった。
「くっ、キリがないな……! 倒しても即座にリライト(再生)されるぞ!」
「リリアーヌ、下がっていろ!」
カイルとアストレイド公爵が、暴走する魔物たちを斬り伏せながら叫ぶ。
精霊セリナも青ざめた顔で、小刻みに震えていた。
『リリアーヌ様、空間維持がもう限界よ……! このままじゃ、私たちもノイズに飲み込まれて、物語の「空白」に消えてしまうわ!』
リリアーヌもまた、校閲魔力が底を尽きかけ、視界が白く霞み始めたその時――。
予言の空、サクラの覗き窓とは別の場所に、雷鳴が轟いた。
バリッ、と空間が鋭利な刃物で切り裂かれる。
放たれたのは、一筋の黒い影。超高速で飛来した「剣」が、リリアーヌを襲おうとしていた魔物の核(文字の中心)を正確に射抜き、一瞬で塵へと変えた。
「……何奴だ!?」
カイルが叫ぶ中、一人の女性が静かに舞い降りた。
銀色の長い髪、透き通るような肌。世界の理を無視した、伝説のダークエルフ。
「……ロウィンの魂を追いかけてきたら、異世界物語『アンフィニッシュ・ストーリー』に来たみたいね。未開の世界だから報告しないと」
声を聞いた瞬間、精霊セリナが驚愕に目を見開いた。
『まさか……シ……シルヴァーナなの!?』
シルヴァーナと呼ばれたダークエルフは、全身から眩い黄金粒子を解き放ち、呆然とするセリナを、慈しむような眼差しで捉えた。
「セリナが転生する時に、ロウィンが導いてくれたのね」
『…………っ!』
セリナが息を呑むよりも早く、シルヴァーナは黄金粒子を巨大な竜巻へと変えた。眼前に迫る魔物の群れを一気に呑み込み、文字化けしたバグを、眩い光で洗い流していく。
予言書という閉鎖された「物語」の中に、本来現れるはずのない「サプライズ」が介入した瞬間だった。
第072話をお読みいただきありがとうございます!
絶体絶命の展開。
颯爽と現れたのは、ダークエルフのシルヴァーナでした。
彼女が口にした『アンフィニッシュ・ストーリー』。
リリアーヌも読者の皆様も驚かれたのではないでしょうか。
果たしてシルヴァーナは敵か味方か?
次回も、どうぞお楽しみに!




