【査読】くすぐったい予言と、頁(ページ)の中への強行着陸
「……消せませんのね。よろしいですわ。ならば、校閲者が直接『現場』へ出向くまでのこと。誤字だらけの戦場など、見過ごすわけには参りませんもの」
宣言に、場が凍りついた。
サクラは呆然としたように頁を震わせていた。
「……は? 現場に行くって、リリアーヌ。君、まさか中に入る気!?」
「ええ。サクラ様、貴女の予言が『確定事項』だというのなら、そこには既に完成された舞台があるはずですわ。ポインタとして、私自身を記述の中に書き込みなさい」
迷うことなく、黄金の万年筆をサクラの喉元――頁の継ぎ目へと真っ直ぐに突き立てた。
「ひゃっ!? あははっ! ちょっと、そこダメ、くすぐったいってばぁ!」
宙を舞うサクラが、空中でバタバタと悶絶し、頁を激しく羽ばたかせた。
伝説の予言書らしからぬ情けない叫び声がホールに響き渡る。
「リリアーヌ、君の万年筆、筆圧が強すぎだよぉ! 予言の行間にそんな太いペン先入れられたら、変な感じがしちゃう……っ、あはははは!」
「あら、感度がよろしいですわね。ですが、査読者が現場を見ずして何が修正です。……さあ、その『くすぐったい行間』を広げなさい。私たちが通れるだけの道に!」
ぐい、とペン先を捻る。
サクラは「もう、乱暴なんだからぁ……!」と涙目(インク漏れ)になりながらも、表紙を観音開きに開放した。
頁の奥から溢れ出した黄金の光が、渦を巻いて私たちを飲み込もうとする。
「リリアーヌ、離れるな! 君の背中は、俺が、俺たちが守る!」
カイル様が私の腰を抱き寄せ、手を強く握った。
お父様も、鋭い眼差しの奥に熱い闘志を宿し、剣の柄に手をかける。
精霊セリナ様が、私たちの周りに幾重もの防護結界を張り巡らせた。
『行きましょう。予言の中なんて前代未聞だけど……リリアーヌ様の赤ペンなら、地獄だって書き換えられるはずです!』
「ええ、参りましょう。――皆様、これより大規模な『外科手術』を始めますわよ」
サクラの絶叫と笑い声が混ざり合う中、私たちは光の渦へと身を投げ出した。
視界が白濁し、重力が消失する。
文字通り、紙の海を泳ぐような奇妙な浮遊感。
そして。
次に足裏に感じたのは、石畳の冷たさではなく、インクの匂いが混じった「色の薄い大地」の感触だった。
目を開けた先には、停止した時間の中で、今まさに王都へ向かおうと軍勢を引き連れる四大侯爵の、憎たらしいほどに勝ち誇った横顔があった。
第070話をお読みいただき、ありがとうございます!
「……消せませんのね。よろしいですわ。ならば、校閲者が直接『現場』へ出向くまでのこと」
リリアーヌ様の超理論(?)によって、物語はまさかの「予言書へのダイブ」。
伝説の予言書サクラ様も、リリアーヌ様の黄金の万年筆には抗えなかったようで……。「くすぐったい!」と悶絶しながらページをめくるサクラ様の姿、少し可哀想になってしまいました(笑)。
次回も、どうぞお楽しみに!




