未来透視(プレビュー)なんて、ただの「下書き」ですわ
『……信じられない。こんなことが起こるなんて』
四大侯爵が消え去った漆黒の「空白」に手をかざし、傍らに顕現した精霊様が唇を震わせていた。彼女がこれほど驚くなど、ただ事ではない。
「精霊様、これは一体……?」
カイル様が歩を進めて問いかける。
精霊様は弾かれたように顔を上げた。
『転送魔法よ! 世界に存在しないはずの禁忌の術式……。四大侯爵に権限が与えられるはずがないのに!』
精霊様の断言に場が凍りつく。ルールの根底を覆す不穏な予兆。
だが、その静寂を少女の笑い声が破った。
「あはは! さすが精霊、正解!」
手のひらサイズの『予言の書』と化したサクラだ。物理法則を無視して宙を飛ぶ姿は、伝説に相応しい異質な存在感を放っていた。
「セリナって……精霊様のお名前?」
「そうさ、リリアーヌ。続きは僕の頁にも、『予言』として無理やり表示されちゃうんだ」
サクラがパチンと指を鳴らす。刹那、彼女の表紙から眩い魔力が溢れ出し、空中に巨大な画面が描き出された。
サクラの固有能力『未来透視』。
映し出されたのは、あまりにも壮絶な未来だった。
異世界へ送られた四大侯爵が、人ならざる軍勢を率いて戻り、王都を蹂躙する――。一分一秒違わぬ、確定した破滅の光景。
「無駄だよ、リリアーヌ。記述はもう消せない。校閲なんて、出来上がった物語の端を突くだけの、無意味な作業なんだから」
サクラの嘲笑。
精霊様の絶望。
カイル様の手が怒りでみしみしと音を立てる。
だが、私は宙に表示された「魔法の残像」を冷徹な目で見つめ、黄金の万年筆を抜き放った。
「……ふん。随分と誤字脱字の多い、悪趣味な下書き(プロット)ですわね」
「……えっ? 何言ってるの、世界の終わりだよ?」
サクラが呆気にとられて動きを止める。私は予言の文字列に、ペン先を真っ直ぐ突き立てた。
「確定した未来? よろしいですわ。ですがサクラ様、貴女は忘れていますわね。――表示できる術式であるならば、『編集の余地』がありますわ」
不敵に微笑み、魔力をペン先に一点集中させる。
「サクラ様、大人しく全頁を開放なさい。私が根こそぎ書き換えて(リライト)差し上げますわ!」
第069話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに精霊様の名前が「セリナ」だと判明しました。
「転送魔法」という、この世界のルールを壊す禁忌の術式。
再登場したサクラ様の絶望的な「予言」が場を凍らせます。
けれど、我らがリリアーヌ様にとっては、予言もただの「プレビュー画面」に過ぎないようで……。
次回も、どうぞお楽しみに!




