【乱丁】不実の朱(ノイズ)と、強引な退場の頁(ページ)
「一括置換――完了ですわ」
万年筆を振りかざした瞬間、会場を支配していた不浄な術式に鮮やかな赤インクの修正線が走り、瞬く間に光輝く黄金色へと上書きされた。
切り札を奪われ、膝をつく管理官たち。貴賓席で、顔が青ざめる四大侯爵。
カイル様が、私の腰を強く抱き寄せ、勝利の宣告を下そうと唇を開いた――。
その時だった。
『――ア、アア。……プロット、……エラー』
「……っ!? 何ですの……!」
耳を裂く、不快な音がホール中に響き渡った。
直後、四大侯爵の背後の空間が、バリバリと音を立てて爆ぜ、ドロドロとした『朱いノイズ』が溢れ出した。
「ひっ、ひぃい!? 助けてくれ!」
ガバルディ侯爵が絶叫する。
朱い渦の中から、文字化けした「黒い行」が触手のように伸び、侯爵たちを無理やり引きずり込む。
「また、現れましたわね」
私が放った渾身の『※注釈』が、「黒い行」と空中で真っ向から衝突した。
凄まじい火花が散り、ホール全体が激しく揺れる。
私のペン先は、確実に相手の核を捉えていた。
(……互角……!?)
空間がミシミシと悲鳴を上げる中、渦の奥底から冷酷な「執筆者」の気配が響いた。
『……本来の力が出せれば……貴様など。だが……「転送」の記述は、既に……されている』
刹那、ノイズが爆発的な輝きを放ち、私のインクを強引に弾き飛ばした。
次の瞬間。
四大侯爵の姿は、朱い渦と共に掻き消えた。
あとに残ったのは、不自然な漆黒の「空白」だけ。
「……消えた?」
カイル様が、震える私の肩を抱き寄せた。
剣を握る彼の掌が、汗ばんでいる。
「リリアーヌ……大丈夫か? 今の力は、一体……」
「……分かりません。ですが、一つだけ確かなことがございますわ」
私は、ノイズが消えた跡の残滓を見つめ、万年筆を強く握りしめた。
「私のインクを受け止め、なおかつ『逃走』を書き切るだけの筆力を持つ存在が、物語の裏に潜んでいます。……サクラ様、貴方の知識、早急に『査読』させていただく必要がありそうですわ」
第068話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに決着……と思われた瞬間、強引な手段で連れ去られた四大侯爵。
先にあるのは、さらなる陰謀か、それとも世界の真実か。
そして、リリアーヌ様が告げた「サクラの査読」とは――。
次回も、どうぞお楽しみに!




