【査読】選定基準(プロット)が三流以下ですわ
私は、予言書サクラ様がこじ開けた「空白」を通り、静寂に包まれた「至聖の間」へと足を踏み入れた。
磨き上げられた大理石に、靴音がコツリ、と高く響く。
歴代の王が正典への誓いを立ててきた、この国で最も格式ある場所。
だが今は、四大侯爵たちの悪趣味な「書き換え」によって、出来レースの舞台へと成り下がっていた。
雛壇の上、カイル様は彫像のように座らされている。
周囲を囲むのは、近衛騎士ではなく、四大侯爵家の紋章を腕に巻いた監視役――『王宮管理官』たち。
(……おやおや。王座の周りに不純物を配置して。構図の基本すらできていませんわね)
「何奴だ! 許可なき者の入場は――」
色めき立つ管理官たちを、扇子一つで制した。
「許可なら既に、軍務大臣より『受理』しておりますわ。……それに、オーディションの主役を不在にしたまま物語を進めるなんて、あまりに読者を馬鹿にした構成ではありませんこと?」
カイル様の瞳をじっと見つめる。
絶望に染まりかけていた蒼氷の瞳に、私の姿が映った瞬間、熱が灯るのが分かった。
「リリアーヌ……!」
カイル様が立ち上がろうとした刹那、傍らに控えていた筆頭管理官が、その肩を冷酷に押さえつけた。
「陛下、お座りください。これは伝統ある『正典王妃選定』の儀。不浄な者が立ち入る余地など……」
管理官の鋭い視線が私を射抜く。だが、「真実の注釈」が、醜悪に映し出される。
【※本音:クソが、アストレイドの小娘め! 四大侯爵閣下たちが『王の言葉(主権)』を封じるために用意した『隷属の魔法陣』……。操り人形を完成させる神聖な頁を汚されてたまるか!】
……あら。
今、さらりと「国家反逆罪」に相当する裏設定を自白なさいましたわね。
黄金の万年筆をキリリと回し、虚空に向けてペン先を走らせた。
狙うのは、管理官その人ではなく、会場を支配する「偽りの空気」。
「王宮管理官。貴方様は先ほど『不浄』と仰いましたけれど。……『選定基準』という名の台本に、汚物がこびりついていますわ」
「何だと……!?」
「例えば、そこ。陛下の足元。……なぜ、王の影を食い潰し、意志を縛り上げる『隷属の魔法陣』が、記述されていますの?」
一喝すると同時に、万年筆から放たれた赤色のインクが、見えないはずの術式を染め上げた。
隠されていた「監禁」の実態。
カイル様を縛り、自由を奪っていた魔力の鎖が、校閲の光によって白日の下に晒される。
「……あ、ああ……っ!」
カイル様を抑えつけていた力が霧散する。
私は、動揺して顔を真っ青にする管理官たちと、はるか上方、貴賓席で不快そうにこちらを見下ろす四大侯爵たちを優雅に見据え、冷徹な微笑みを浮かべた。
「さて。王妃の条件に『従順であること』を追加されたそうですが。……一文字残らず没にさせていただきますわ」
壇上へと続く階段を一歩ずつ登る。
「今から、真の『王妃』……いえ、『校閲者』の在り方というものを、皆様方の魂に直接書き込んで差し上げます!」
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「至聖の間」へと踏み込み、不当な支配を真っ向から否定したリリアーヌ様。
カイル様を縛っていた魔法が晴れた今、会場の空気は彼女の赤ペン一つで塗り替えられようとしています。
四大侯爵の思惑が渦巻くこの場所で、リリアーヌ様が次に何を「校閲」するのか。
次回も、どうぞお楽しみに。




