黄金の予言書サクラ降臨! 「ここから先は君のページ」
王宮の正門。腕を組んで立っているのは、我が父アストレイド公爵。
鉄血公爵と呼ばれ、軍務大臣も務める彼は、冷徹なまでの厳格さで知られている。
「……戻れ、リリアーヌ。ここは許可なき者の立ち入りを禁ずる場所だ」
父の瞳に温度はない。実の娘を前にしても、宿るのは軍人としての「規律」のみ。
「お父様、この招待状は――」
「問答無用だ。不備のある書面を盾に、王宮の秩序を乱すことは許されぬ。屋敷へ帰り、沙汰を待て。それが軍務大臣としての、私の『記述』だ」
あまりの冷たさに、アストレイド公爵の背後に控えるジュリアン・ド・ガバルディが、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ひゃはは! さすがはアストレイド公爵閣下。公私混同をなさらぬ姿勢、感服いたします! ……聞いたか、汚れ物め!」
鼻を突く下品な香水の香りが、至近距離で漂う。
父親からも見放されたのだと確信した彼は、もはや私への敬意を払うつもりがない。
「貴様のようなゴミは、家畜小屋で泥でも啜っていればいいのだ!」
(……おやおや。あまりに読み苦しい、低俗な罵倒ですわね)
私は静かに、胸元から黄金の万年筆を抜き放った。
だが、ペン先を走らせるよりも、さらに速く。
――ドガッ!!!
横から伸びた「鉄の塊」のような拳が、ジュリアンの麗しい(はずだった)顔面を正確に粉砕した。
「ぎゃ、ぎゃぶうぅぅっ!? ぶべ、ぼふぇっ!!? ごふぉおおおぉぉおおおおっ!!」
情けない悲鳴と共に、ジュリアンの体が宙を舞い、石壁に激突する。
私は構えた万年筆をそのままに、呆然として目の前に立ち塞がった父の背中を仰ぎ見た。
「……お父様?」
そこには、私を突き放したはずの父が、拳を握り締めたまま仁王立ちしていた。
「……邪魔だ。羽虫が。これ以上、王宮の秩序を乱すというのなら、次は首をはねる」
氷点下の声音。だが、頭上には、言葉とは裏腹に赤黒い殺気を放つ【注釈】が、これでもかとばかりに強制表示されていた。
【※注釈:リリアーヌ、危なかったな。こんな汚らわしい男に、お前の清らかな万年筆を触れさせることすら許せん。王宮から帰そうとしたのは、腐りきった舞台に、愛しいお前を関わらせたくなかったからだ。……この男の存在を今すぐ消し去ってやりたい】
……お父様、任務より先に、理性がボツになっていますわよ?
その時、天を衝く轟音と共に、上空の雲が渦を巻いて弾け飛んだ。
現れたのは、王宮を飲み込まんとするほどに巨大な黄金書物。
伝説に語られる真の予言書――『レギウム・サクラ』が、天そのものを表紙に変えて顕現したのだ。
「な、なんだ……本が……!?」
腰を抜かした騎士たちが仰ぎ見る中、書物のページが猛烈な突風を巻き起こし、凄まじい勢いでめくられる。
パラパラパラパラッ、と世界を震わせる紙の音。
空中に浮遊する「偽りの軍令」や「歪な法典」の文字が、黄金の光に焼かれてボツ原稿のように霧散していく。
そして、猛然とめくられていたページが、ある一点でピタリと止まった。
紙面から溢れ出したインクが父の肩へと降り注ぎ、サクラが、実体を持ってそこに舞い降りた。
『あはは! ページの中身はメチャクチャなのに、物語(王国)はよく形を保っていたなぁ。なるほど、気に入ったよ、鉄の軍務大臣。君が「壁」として踏ん張っていたから、バラバラにならずに済んでいたんだね』
サクラは楽しげに笑い、門の向こう――歓声が巻き起こる王宮を指差す。
『僕、君みたいな不器用な人は嫌いじゃないな』
父の肩に手をかけ、身を乗り出して、私を覗き込む仕草は、可憐な少女そのもの。
『ねえ、リリアーヌ? このおじさんは僕が守ってあげる。ここから先は……赤ペンで好きに書き換えていいよ。だって、今は君のページなんだから』
第065話をお読みいただきありがとうございます!
お父様、ナイスパンチ!
そして、伝説のボクっ娘・サクラが降臨しました。
「今は君のページなんだから」
サクラの言葉通り、ここから先はリリアーヌの出番です。
次回も、どうぞお楽しみに!




