【再校】娘の「お持ち帰り?」に絶望した公爵、朝食の席で石像と化す
帝都での大立ち回りを終え、懐かしきアストレイド公爵邸で迎える朝。
本来ならば、穏やかな食卓となるはずが、戦場よりもひりついた空気に支配されていた。
「……皆様。朝からフォークを握り潰したり、魂を口から吐き出すのはおやめになって。朝食の彩が損なわれますわ」
もはや「般若」の域を超えて「石像」と化した父、アストレイド公爵と、魔力を隠しきれずに空気をバチバチと震わせる兄、ヴィンセントを優雅に一喝した。
二人の頭上には、再会を喜ぶどころか、どす黒い「憎しみ」と「呪い」の言葉が注釈として躍っている。
【※絶望:泊まった!? 泊まったのか!? 我が天使の聖域に、野良陛下が不法侵入したというのか!? あああああああデリート! 今すぐ昨夜の記憶を全消去してやりたいぃぃ!!】
【※殺意:妹の指先に残る『陛下の感触』が、万年筆のインクのように染み付いて消えない。……今すぐ演習(という名の決闘)で、カイルの存在自体を没にしてやる】
(……相変わらず、情熱に寄りすぎていて、読み解くだけで疲れますわ)
溜息を吐き、紅茶に手を伸ばそうとしたその時。
背後から滑り込んだ「熱」が、私の肩を優しく、けれど逃がさない強さで包み込んだ。
「おはよう、リリアーヌ。……昨夜はあまり眠れなかったようだが、やはり俺が隣にいないと、寂しくて頁が進まなかったかな?」
さらりと、事実に致命的な誤解を混ぜた台詞を耳元で囁く、カイル様。
彼は今、私の髪を一房 掬い上げ、その先端に慈しむ接吻を落とした。
「……公爵家の『規約』というものを、文字通り読み飛ばしているようだな」
兄が折れたフォークをテーブルに置き、凍てつく瞳でカイル様を射抜く。
しかし、カイル様は余裕の微笑みを崩さない。それどころか、私を抱き寄せる腕に力を込めた。
「規約なら校閲済みだ。『主の望むままに』……リリアーヌが俺を求めた、それがこの家の最高法規だろう?」
「……っ、カイル様! 語弊のある書き換えをなさらないで!」
扇子で顔を隠すが、耳たぶまで熱を帯びているのが自分でもわかる。
帝国での『受理』を経てからというもの、カイル様の瞳は、獲物を追い詰める猛獣のそれでありながら、私に見つめられると、どこか「愛されたがり」の甘い熱を帯びるようになったのだ。
(……この方、自分がどう振る舞えば、私が『修正不能(お手上げ)』になるか、完全に理解っていらっしゃいますわ……)
すると、今まで黙ってブライダル雑誌――もとい『挙式構成案』をめくっていた母様が、微笑みとともに、一枚の紙をテーブルに滑らせた。
「あら、楽しそうね。……リリアーヌ、貴女たちが署名するはずの『予定稿』、王宮から取り寄せておいたわ。……あ、名前はもう私が(勝手に)追記しておいたから安心して?」
【※本音:ふふ、カイル様、実は余裕がないのを隠してるのね。リリアーヌに翻弄されて、冷静な仮面が剥がれかけている……これこそが王道の醍醐味ね!】
「お母様まで何を……!」
私は、愛用の万年筆を抜き放ち、母が差し出した資料の「挙式日:来月」という文字を、シュッと一本の赤線で消し去った。
「設定の盛りすぎ、展開の急ぎすぎ、そして――家族の情緒が乱れすぎです。皆様、一度『休載』して、頭を冷やしてはいかが?」
凛として告げると、父と兄は「デザート没」宣告の時のような、この世の終わりの顔で沈黙した。
カイル様だけが、私の万年筆を持つ手に自分の手を重ね、熱っぽい視線を送ってくる。
「……構わないよ、リリアーヌ。君が納得するまで、何度でも書き直せばいい。――ただし、この物語の最後の頁に記される名前は、既に決まっているがね」
絡み合う視線と、重なる手の温度。
どうやら私の休日は、帝国での戦い以上に、心臓の鼓動を乱されるハードワークになりそうだった。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございます!
帝国での激闘を終え、ようやく戻ってきた公爵邸。
ですが、そこで待っていたのは、娘の「お持ち帰り疑惑(?)」に直面し、「般若」を通り越して「石像」と化したお父様でした。
幽体離脱してご先祖様に相談を始めるお父様、もはや公爵としての威厳がページごと行方不明です。
そんな家族を華麗にスルーしつつ、カイル様は「遠慮」の二文字をデリートして猛攻中。
リリアーヌ様は必死に防波堤を築いていますが、カイル様の中ではすでにハッピーエンドへの校了が済んでいるご様子。
「お父様、戻ってきて!」「カイル様の執着、最高!」と思ってくださった方は、ぜひ【評価】や【ブックマーク】をお願いします!
皆様のポイントが、リリアーヌ様の防波堤を突き崩す「押し」の強さに反映されるかもしれません……!
次回も、どうぞお楽しみに!




