その亡命、帝国の「規約(プロット)」違反ですわよ
「……貴様、いい加減にしろ! ここはわが神聖ヴォルガ帝国だ。余所者の分際で、この私と『真紅の王妃』を侮辱した罪、その首を跳ねて贖わせてくれるわ!」
紅茶まみれのアルフォンスが、ようやく侍従に支えられて立ち上がった。
怒りで顔を真っ赤に染め、権力を振りかざして叫ぶ。その隣で、イザベラは青ざめた顔で、縋るようにアルフォンスの腕を握りしめていた。
「……処刑、ですの? それは困りましたわ。ですが『黄金仮面』様。この帝国の厳格な法律を、貴方自身が書き換えてしまってもよろしいのかしら?」
「何……?」
私は優雅に扇子を閉じ、空間を指先でなぞった。
すると、ホールの天井付近に、巨大な黄金の文字が浮かび上がる。
帝国の法典――【亡命者受け入れ法:第108条】。
『亡命希望者は、供出した資産が虚偽であった場合、仲介者は全財産没収、亡命者は即座に本国へ送還される』
その文字が空中に固定された瞬間、イザベラの肩がビクリと跳ねた。
「イザベラ様。貴女は、ご自身が持ち込んだあの宝石箱の中身が、『ただの石ころ』に変わっていることを、誰よりもご存じのはずですわよね?」
「……っ!」
イザベラは、かつて亡命馬車の窓に浮かび上がった『警告』を思い出したのか、目を見開いて後退った。
そう。彼女はあの日、目の前で自分の財宝が無価値な石へと『赤入れ(置換)』されるのを、その目で見ていたのだ。
「あら、殿下には黙っていらしたの? 『帝国へ行けば何とかなる』と、不渡り確実な手形を握らせて、彼を共犯者に仕立て上げたのかしら。……なんという残酷なミスリードですこと」
「だ、黙りなさい! あれは、あれは貴女がかけた呪いの幻覚よ! 私の宝石は本物よ!!」
喚き散らすイザベラ。 しかし、彼女の瞳には「あれは現実だった」という確信と恐怖が張り付いている。
匿名(仮面)のルールを投げ捨てて、野次を飛ばし始める貴族たち。
「殿下、まさか本当なのですか? 我々の承認も得ず、ガラクタしか持たぬ女を、帝国の保護下に置いたというのですか?」
「ま、待て! そんなはずは……イザベラ、見せろ! 今すぐあの箱を開けて、潔白を証明しろ!」
アルフォンスが、裏切られた不安に顔を歪め、イザベラの腕を強く掴む。
すべてを知っているイザベラは、ただ、ガタガタと震えることしかできない。
彼女の逃げ場は、もうどこにもなかった。
「……さあ、真実の頁を開くお時間ですわ。皆様の前で、醜い『設定ミス』を全画面表示にいたしましょうか?」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
ついに、あの「石ころ」が火を噴きました。
逃げ場を失い、ガタガタと震えるイザベラ。そして信じていたものに裏切られようとしているアルフォンス……。
リリアーヌの容赦ない「校閲」の結末を、ぜひ見届けていただければ幸いです!




