【※抜き打ち校閲】鉄壁の門番(笑)の「本音」を可視化した結果――限界(デッドライン)まで筒抜けですわ
白亜の巨門が、月光を跳ね返して冷たくそびえ立っている。
ここから先は、選ばれし者のみが足を踏み入れることを許される、帝都の特権エリア『天空の貴族街』だ。
カイル様の熱を帯びた「追記」の余韻を振り払うように、私は正面を見据えた。そこには、ヘイワード侯爵家の紋章をつけた重装騎士たちが、開放された門を塞いで並んでいる。
「……あら。随分と仰々しいお出迎えですこと。カイル様、帝国の方々は客人を『不法侵入』として処理するのがお作法なんですの?」
「止まれ! この先は、許可なき者の通行を禁ずる!」
門番のリーダーが、これ見よがしに魔法のスクロールを広げた。そこには、赤々と輝く拒絶の術式が刻まれている。
「リリアーヌ・アストレイド! お前は帝国への反逆者と密通した疑いにより、この『天空の貴族街』から永久に排斥されている。身の程を知れ、三流の公爵令嬢め!」
テンプレート通りの罵詈雑言。人の名を正確に呼ぶ教養もなく、乱暴な二人称で虚勢を張るその語彙の貧相さに、私は思わず溜息を吐いた。
「カイル様。……お待ちになって。この『無能な添え書き』たち、プロットの読み込みが甘いですわ」
私は黄金の万年筆を抜き放ち、喚き散らす門番たちの頭上へ、鋭くペン先を向けた。
「貴方たちの存在そのものが、物語の質を著しく下げていますの。……ちょっと『裏設定』を可視化して差し上げますわね」
ペンを一閃させると、門番たちの頭上に、鮮血のような赤い文字の【※注釈】が浮かび上がった。
【※注釈:リーダーの本音】
『「鉄壁の守護者」を自称しているが、実はヘイワード侯爵の遠縁というだけのコネ採用。実戦経験は皆無で、剣の握り方すら怪しい。昨夜、怖くなって逃げ出そうとしたが、門の鍵を紛失したため、仕方なくここに立っているだけである』
「おい、リーダー……。怪しいと思っていたが、やっぱりそうなのか!?」
周囲の部下たちが一斉に色めき立つ。当のリーダーだけが、自分の頭上で真っ赤に輝く「本音」に気づかず、目を白黒させていた。
「な、何を言っている! 私はただ、任務を忠実に遂行しようと……ええい、なんだその目は! なぜ皆、私の頭上を睨んでいるんだ!?」
【※注釈:鉄壁の門番(笑)たちの実態】
『昨夜、第一皇子アルフォンス主催の「帝都統一・激辛わさびパン大食い大会」に強制参加させられ、全員が現在、胃腸の限界を迎えている。この門に魔法を供給する魔力よりも、今この瞬間の「腹痛」を抑え込む魔力の方がはるかに上回っている。一歩でも動けば、彼らの騎士としての尊厳が物理的に決壊し、帝都の歴史に消えない汚点を残すだろう』
「…………っ!?」
先ほどまで「不浄なる者は通さぬ!」と叫んでいた騎士たちの顔が、一瞬にして土気色……いえ、深い紫へと変わった。
カチカチと鳴る鎧の音は、武者震いではなく、肉体の崩壊を食い止める必死の抵抗音。
「おい……。絶対に、笑わせるなよ……。少しでも、腹圧がかかれば……俺は、俺を卒業することになる……」
「……無茶だ……。お嬢様の……あの冷ややかな目で見られるだけで……括約筋が……ボツ(不採用)になりそうだ……」
リーダーは自分の頭上の文字が見えないまま、ただただ部下たちが小刻みに震え、虚空を見つめて脂汗を流している光景に戦慄している。
「……あら、皆様。お顔の色が優れませんわね。怒りでプロットが熱暴走でも起こしましたの?」
私は扇子で口元を隠し、追い打ちをかけるように門の碑文をペン先でなぞった。
「カイル様。……この方々、今にも『漏洩』しそうですわ。……このガタガタな設定、今すぐ『場外』へ排斥して差し上げて?」
「断固、拒否する……いろんな意味で、近寄りたくはない」
「……仕方がありませんわね」
【※抜き打ち校閲:入街規則の再定義】
原文:
「当門はヘイワード侯爵の承認なき者の入城を永久に拒絶する」
リリアーヌの赤入れ:
「ヘイワード侯爵」以下の文を、インクが滲むほどの二重線で抹消。
【修正】
「この物語の真の校閲者、リリアーヌの」
「権利を侵害する者を、即座に場外へ強制排斥する」
書き換えが完了した瞬間、門の防衛システムが、不審者を告げる警報音を鳴らした。
「な……門が、我々を『異物』と認識しているだと!? ぎゃああああっ!」
設定の不整合を正された門の結界が、門番たちを「誤字」と判定。彼らは自分たちが守っていたはずの魔法によって、デコピンでもされたかのように夜の闇へと弾き飛ばされていった。
「……ふう。不快な誤植が片付いて、すっきりいたしましたわ」
呆然とするカイル様の手を、今度は私の方からそっと取る。
「さあ、カイル様。この物語を汚した不届け者たちに、真の校閲がもたらす『強制終了』の美学を教えて差し上げましょう」
私は堂々と、天空の貴族街という名の「朱戦場」へと足を踏み入れた。
本日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
門のプログラムごと「校閲」してしまったリリアーヌ様。
いよいよ貴族街の中枢、すべての元凶が待つ場所へと進みます。
次回も、どうぞお楽しみに!




