表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/212

『自壊するプロット』――無粋な乱入者は、崖下へボツ送りです

 下界の喧騒けんそうは、もう遠く足元に消えていた。

 『天空の貴族街』へと続く専用道は、切り立ったがけに沿うように作られている。


 高く登るほどに夜のとばりは深まり、私の手は、先ほどからずっとカイル様の大きな手に包まれていた。


「……いいから、俺を支えにしろ」


「……カイル様。私、先ほどから一歩も自力で歩けていない気がしますわ。これではエスコートというより、ただの『強制連行』ではありませんこと?」


 口では文句を言いつつも、私はその温もりを拒むことができない。エドワードとの一件を経て、カイル様の瞳に宿る熱量は、明らかにこれまでの『守護騎士』としての設定値を逸脱していた。


「それでもいい。……今の俺には、君が指先一つでも汚れる展開プロットは耐えられないんだ」


 さらりと吐き出された殺し文句 (パンチライン)に、心拍数が跳ね上がる。


(……あら。私の心の『余白』を、これほど情熱的な筆致で埋め尽くす、おつもりですの……?)


 顔が熱くなるのを感じ、視線を逸らした――その時だった。

 岩陰いわかげから、下品な笑い声と共に数人の男たちが躍り出てきた。


「ひゃっはー! 運のねぇ貴族様だぜ! こんなところでイチャついてるとは、死ぬ前のいい思い出になったなぁ!」


 山賊さんぞくを装ったつもりかしら? 汚い毛皮をまとってはいるが、その下にはヘイワード侯爵家の紋章が丸見えだ。隠す気があるのか疑いたくなるほど、その設定は杜撰ずさんだった。


「……あら」


 私は、カイル様の腕の中で氷点下の溜息を吐いた。

 せっかくの『余白の時間』を汚された不快感。そして、あまりに使い古された登場演出。


「カイル様。……お離しになって。この『無粋な誤字』、一文字残らず消去デリートして差し上げなくては」


 黄金の万年筆を抜き放ち、彼らの頭上の『空間』を鋭く指し示した。


「……こんな場所で山賊の真似事? 笑わせないでくださる? 貴方たちの連携チームワーク、あまりに構成がガタガタですわ。……ちょっと『裏設定』を可視化して差し上げますわね」


 リリアーヌがペンを一閃させると、男たちの頭上に真っ赤な文字の【※注釈】が浮かび上がった。



【※注釈:リーダーの本音】


『報酬は独り占めする。部下を事故死に見せかけて、一銭も渡さないつもりだ』



「てめぇ、リーダー!? 報酬を独り占めだと!? ざけんなっ!」



【※注釈:下っ端の野心】


『隙を見てリーダーを刺し、リリアーヌを横取りして売り飛ばそう。カイルはリーダーをたてにして逃げる際のデコイにする』



「……あ? 俺を盾にするだと!? お前、さっきまで兄貴って呼んでたじゃねぇか!」



【※注釈:ヘイワード侯爵家の裏プロット】


『リリアーヌを連れ戻した後、この私兵たちも口封じのために全員処刑する。予備の毒薬はすでに彼らの水筒に仕込んである』



「「「な、なんだってえええええ!?」」」


 頭上に表示された【真実】を互いに読み、男たちは顔色を変えた。

 もはや私たちのことなど眼中にない。彼らは互いに武器を向け合い、みにくののしり合いを始めたのである。


「……あら。赤ペンを入れるまでもなく、設定の矛盾で内部崩壊してしまいましたわね」


 私は呆れ半分に肩をすくめ、カイル様に視線を送った。


「この救いようのない『駄文』たち、崖下へポイ(ボツ)してくださる?」


「了解だ、リリアーヌ。――消えろ、物語のゴミクズども」


 カイルが一閃。仲間割れですきだらけだった男たちは、悲鳴を上げながら暗い崖の下へと文字通り「破棄」されていった。


「……ふう。不快なページを破り捨てて、すっきりいたしましたわ」


 私が満足げにペンを収めると、カイル様が背後からそっと、腰を引き寄せた。


「リリアーヌ。……続き、だったな」


「……え?」


「……俺の想いの『追記』、まだ終わっていないんだが?」


 耳元でささやかれた低音に、黄金の万年筆を落としそうになるほど、激しく思考がショートしてしまった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 「注釈」で裏設定を暴かれた瞬間の、私兵たちの自滅っぷりはいかがでしたでしょうか。

 無粋なノイズを掃除したところで、ようやくカイル様の「追記」の続きです。


 次回も、どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
よくある裏切りの連鎖でした♪崖下への不法投棄は……ま、いいか。 愛情が重い。そして取り込まれてる。もはや手遅れですね(笑)
わわ! リリアーヌ、最高すぎる! 自滅っぷり、スカッとしました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ