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『改訂履歴 (ログ)』――書き直せない想い、一つにつき追記です

 カイル様の黒い刃が、インクの怪物を紙吹雪に変える。だが、散ったはずのインクは空中で再び文字へと姿を変え、リリアーヌの足元にまとわりついた。


「……しつこいですわね。一度『没』にした原稿が、ゾンビさながらによみがえるのは業界の常ですが、これほど質の悪い誤字は初めてですわ」


 リリアーヌは万年筆を振るい、まとわりつく文字を払い落とす。しかし、エドワードは狂ったようにノートをめくり続けた。


「まだだ! まだ終わらせない!」



 ノートから放たれた黒い光が、リリアーヌの脳裏に「十年前の記憶」を強制的に投影させる。


 そこには、庭の隅で泣きそうな顔をしながら、必死に物語をつづる少年時代のエドワードと……それを見下ろす、幼いリリアーヌの姿があった。


『……でも、お嬢様。僕は、貴女を助け出す騎士を描きたかっただけなんです』


 当時のリリアーヌは、その言葉すらも一蹴していた。


『物語に私情ノイズを挟まないで。そんなの、ただの作者の自己満足ですわ』



「……あら」


 現在のリリアーヌは、不快そうに目を細めた。

 記憶の断片の中に、当時の自分が「赤ペン」を入れずに、そっと指でなぞっただけの一行を見つけてしまったからだ。



【※追記:筆致はつたないいが、情熱があり、私の騎士になる資格がある】



「なっ……何だ、その『追記』は! 僕はそんなの知らない!」


 エドワードが驚愕きょうがくに目を見開く。


「……当然ですわ。まだ、素直ではありませんでしたもの。不採用にした原稿の隅に、ほんの少しだけ感想を残しただけ。……まさか、それを十年間も根に持たれるなんて、構成の読み込みが甘すぎますわよ」


 リリアーヌは黄金の万年筆をくるりと回し、ノートに向かって鋭くペン先を突き出した。


「エドワード。貴方の物語が面白くなかったのは、貴方が『私の顔色』ばかりをうかがって書いたからです。……そんな下心だらけの文章、今度こそ完全に消去デリートして差し上げますわ!」


 リリアーヌの万年筆から黄金の光があふれ出し、エドワードのノートの全記述を真っ白に塗りつぶしていく。


「あ……あ、あああ……っ!」


「カイル様、最後の一撃ピリオドを」


「承知した」


 カイルが一気に飛び出し、エドワードの手から「白紙」になったノートを叩き落とした。力の源を失ったエドワードは、そのままひざをつき、インクの霧の中に消えていった。


「……ふう。ようやく、昔の宿題(ボツ原稿)が片付きましたわ」


 リリアーヌは寂しげに、すべての文字が消えたノートを見つめた。しかしすぐに背筋を伸ばし、隣に並ぶカイルを見上げる。


「カイル様。私の物語に『追記』していいのは、自分自身だけ。……そして、それを守るのが貴方の役目ですわ」


「ああ。それにしても……まだ、素直ではありませんでした? ……いや、なんでもない」



 二人は、行く手を阻む「過去エドワード」を振り切り、さらにその先へ。

 見上げるほど高く、傲慢ごうまんにそびえ立つ『天空の貴族街』の門を目指し、夜の静寂しじまへと消えていった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 リリアーヌ様の「ツンデレ校閲」が発覚した第050話でした。

 エドワードを認めていたけれど、技術が伴っていないから「ボツ」。リリアーヌ様らしい、厳しくも誠実な判断でしたね。


 次回の更新も、どうぞお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
「一寸の虫にも五分の魂」みたいですね。この過去の方も何とかして、折り合いをつけてれば或いは……たらればですね。 ……もしかして初……何でもありません!ですから……その~ペン先を置いて下さると。
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