『伏線回収(リコール)』――過去の記述、すべてが牙を剥きます
天空の貴族街へと続く山道を、一歩ずつ踏みしめていく。
次第に道は整備され、両脇には美しく整えられた並木が姿を現した。
急に風が冷たくなり、ひらひらと舞い落ちる木の葉が、空中で「文字」の形に変わっていく。
「……嫌な予感がしますわ。この文体、どこかで読み覚えがありますの」
リリアーヌが足を止め、黄金の万年筆を握り直す。
並木道の先、霧の中から現れたのは、一人の優男だった。帝国風の軍服を纏っているが、その瞳にはどす黒い執念が宿っている。
「……お久しぶりですね、リリアーヌお嬢様。いえ、今は『冷徹な校閲者』でしたか?」
「その声……エドワード? 私の所にいた庭師見習いの……」
エドワードと呼ばれた男は、歪んだ笑みを浮かべ、一冊の古びたノートを広げた。そこには、子供の拙い字で書かれた「騎士と姫の物語」が記されている。
「覚えていますか? 十年前、僕が一生懸命に書き上げたこの物語を、貴女は一瞥しただけでこう仰った。――『設定が支離滅裂。こんな読み手を馬鹿にした結末、燃やして捨ててしまいなさい』と」
エドワードがノートを掲げると、そこから真っ黒な泥のようなインクが溢れ出し、巨大な怪物の形を成していく。
「『没』にされたあの日の絶望が、帝国の禁呪で蘇った。さあ、貴女が捨てた『ゴミ』に喰われる気分はどうかな!」
襲い掛かるインクの怪物。だが、リリアーヌは眉一つ動かさず、冷ややかに言い放った。
「……相変わらず、成長のない文章ですわね。十年前の恨みを今さら持ち出すなんて、プロットの鮮度が落ちすぎていますわ」
リリアーヌは万年筆の先で、迫りくる怪物の核をピシャリと指し示した。
「カイル様。この『過去の落書き』、今の私たちの手で、完全にシュレッダーにかけて差し上げましょう」
「ああ、任せてくれ。君の過去も、今の君も、すべて俺が守る」
カイルが黒い閃光となり、過去の怨念を切り裂くべく地を蹴った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
リリアーヌ様の過去の「毒舌」が、まさかの伏線となって現れました。子供の頃から一切ブレない彼女の校閲眼……恐るべしです。
次回も、どうぞお楽しみに!




