『強制検閲(まっかにそめなおし)』――その笑顔、無断改ざんです
「幸福は義務! 帝国の決めたルール通りに笑うんだ!」
白ずくめの服を着た『風紀校正官』たちが、大きな『記憶消去』の杖を構えてリリアーヌたちを囲んだ。その杖から放たれるのは、人々の感情を無理やり削り取り、「笑顔」というテンプレートを上書きする不気味な光だ。
だが、リリアーヌは扇子を広げ、冷ややかな視線を彼らに向けた。
「……笑わせないでくださる? 貴方たちのやっていることは、創作への冒涜」
「何だと……!? これは帝国が考えた、完璧な統治プロットだぞ!」
「いいえ。個人の感情を奪い、誰かが作った『幸せな市民像』をコピペしているだけ。……そんなものは物語とは呼びません。ただの『無断改ざん』ですわ」
リリアーヌが黄金の万年筆を天に掲げると、空中に巨大な赤いインクの文字が浮かび上がった。
『聖絶の校閲魔法:強制検閲』
ドクン、と街全体が震える。リリアーヌがペン先を一閃させると、校正官たちの杖に、次々と真っ赤な「×印」が刻まれていった。
「なっ、杖が動かない!? 魔法が……消されていく……!?」
「当たり前ですわ。『人々の笑顔を守る』という魔法を使いながら、泣いている少女を怖がらせるなんて、設定に矛盾が生じています。……よって、その行使を差し止めますわ」
リリアーヌの言葉と共に、彼らの杖はただの棒切れとなって地面に転がった。
「カイル様。この無能な編集者たちを、お掃除してくださる?」
「了解だ、リリアーヌ」
カイルが音もなく飛び出した。その動きは鋭く、一切の無駄がない。
黒い刃が閃くたび、校正官たちの白装束が「ボツ」の文字と共に切り裂かれ、彼らはあわてて逃げ出していった。
「ぎ、ぎゃあああ! 俺たちの『完璧な日常』が、真っ赤に……!」
「あら、ご心配なく。真っ赤に染まったのは、貴方たちの『原稿』だけですわ」
リリアーヌは、泣き止んだ少女の元へ歩み寄り、その瞳をじっと見つめた。そこには無理な笑顔ではなく、人間らしい「意志」が戻っていた。
「……痛みも知らない幸せなんて、ただの薄っぺらい紙切れと同じですわ。私の前で、これ以上つまらない『ニセモノの物語』を見せないでくださる?」
リリアーヌが空中に大きく『全ページ廃棄』と書き込むと、街を覆っていた気味の悪い魔法が、ガラスのように砕け散った。
仮面の笑顔が剥がれ落ち、街には戸惑いや泣き声、人間らしい温かなざわめきが戻った。
「……ふう。ようやく、生命が紡ぐ物語の音が聞こえてきましたわね」
リリアーヌは満足げに万年筆を収めると、隣に立つカイルに微笑みかけた。
「カイル様、参りましょう。この『駄作』を書き換えるために」
「ああ、どこまでも付き合おう。君の物語の、一番輝くページまで」
夕闇の中、二人の足跡が、次の一行を刻んでいった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
リリアーヌ様の「赤ペン」によって、無理やり笑わされていた街に本当の感情が戻りました。「矛盾した設定は見逃さない」という彼女のスタイル、とてもカッコいいです。
次回も、どうぞお楽しみに!




