『強制召喚(ダイレクト・コール)』――その物語、密室につき監禁です
帝都の巨大な白亜の門。ついに目的地を目前にし、安堵と緊張が混ざり合った空気が流れていた。
「……ようやく着きますわね、カイル様」
リリアーヌが隣を歩くカイルへ微笑みかけると、彼は力強く、しかし愛おしそうに彼女の手を握りしめた。
「ああ。門をくぐれば、もうすぐだ。何があっても、俺が君の隣にいる」
だが次の瞬間――世界から「音」が消えた。
カイルの頬に、「黒い亀裂」が走る。
「……え?」
リリアーヌが息を呑む間もなく、カイルの端正な顔が、逞しい腕が、握り合っていた手のひらが――まるで古い羊皮紙が風に解けるように、無数の『文字』へと分解されていく。
「リリアーヌ、逃げ――」
カイルが伸ばした手は、彼女の指に触れる直前で真っ黒なインクの飛沫となり、空間に霧散した。街道も、白亜の門も。すべての風景がページを破り捨てるように剥がれ落ち、リリアーヌは底知れぬ漆黒の穴へと真っ逆さまに落ちていった。
◇
気がつくと、そこは果てしなく続く本棚の迷宮だった。周囲を漂うのは、命を宿さない無機質な文字の雲。
「カイル様……! カイル様、どこにいらっしゃるの!?」
叫び声は壁に吸い込まれ、反響すらしない。出口のない本の森。絶望が喉元までせり上げたその時、頭上から鈴を転がすような、冷ややかな女性の声が降り注いだ。
「無駄よ。彼は今、禁書庫の別のページで『本来の運命』を歩まされているわ。貴女という毒を忘れて、ね」
見上げれば、高い本棚の縁に腰を下ろした一人の女性が、こちらを見下ろしていた。顔は薄いヴェールに隠されているが、その隙間から覗く瞳は、リリアーヌを人間ではなく「書き損じた文字」として見下している。
彼女の手には、リリアーヌの持つものと対をなす、禍々しい輝きを放つ黒い万年筆が握られていた。
「貴女は、私の物語を完成させるための『生贄』。……さあ、大人しく閉じた表紙の中で、孤独に震えていなさい」
女性が空中にペンを走らせると、リリアーヌの足元に重厚な鎖の描写が浮かび上がる。
愛する人の体温を奪われ、物語の檻に閉じ込められたリリアーヌ。だが、彼女の瞳には、まだ絶望の火は灯っていなかった。
「……あら。私の人生を勝手に『短編』で終わらせるおつもり?」
震える指先で、リリアーヌは自らの万年筆を抜き放つ。
「この物語の主導権、簡単には譲りませんわよ」
本日もご愛読いただきありがとうございます!
ついに帝都の門へ……というところで、まさかの強制イベント発生です。手を握ってくれていたカイル様が、目の前で文字になって消えてしまうなんて……。執筆しながら、私自身もリリアーヌ様と一緒に息が止まる思いでした。
突如現れた、謎のヴェールの女性。彼女が持つ「黒い万年筆」の正体、そして「別のページ」へ送られたというカイル様の行方は……。
次回も、どうぞお楽しみに!




